第179話-何時だって突然に不平等に-
そしてミヤはスティナが座っている所に戻り、手を差し出そうとしたその時
スティナの後ろから突然、丸い球体のような黒い塊が現れ……
その球体から長く細く……そして悪魔のような爪の長い手が1つでてくる
それにいち早く気付いたミヤがスティナに向かって叫ぶ
「お姉様! 後ろ!」
その言葉にスティナは後ろを振り向こうとしたその時
悪魔のような手はスティナの右腕を掴み、球体の中へ引きずりこもうとする
「え?! 何これ……」
スティナの慌てようにミナセはスティナを助けるべく走り出す
そのミナセを同じタイミングでハンナとエステはミナセと並走するように
走りながらミナセに話かける
「ミナセさん……あれは一体……」
「……わからない、けど……前に一度『あの手』を私は見ている」
「その話よりも、今は………スティナを助けないといけないですね」
「ええ」
『今の私には退魔の力がある……今度はあの手を切り裂けるはず』
ミナセはそう思いながら持っていた剣を構える
しかし……そこでミナセはやってはいけない事をした
それは……ミナセの持っていた武器は練習用の武器
自分の武器は武器置き場に置いてある……
『今戻ったら間に合わない……! このまま行くしか……』
ミナセはそのままスティナへ向かって走る
だが、距離は遠く……スティナはズルズルと闇の球体へ引き込まれる
そんな状態にミヤは短剣を構え直し、スティナの元へ走り
悪魔のような手に切りかかる
しかし……ミヤの放った切りかかりは
鈍い鉄と鉄のぶつかったような音をたて弾かれる
「なっ?!」
ミヤはその光景に驚きながらもひたすら手に向かい斬り続ける
だが、かすり傷1つ付かないそう手はスティナを引きづっている
「ねぇ……ロスト……なんとかなりそう?」
『いや……無理だ、不意打ちにもほどがある』
ロストは冷静にその場の状態を分析した
もしも、スティナが万全の状態でこの手と対峙したのなら
ロストを抜き、なんとかなったのかもしれない
だが、今の状況……スティナの右腕は手に掴まれ、上に持ち上げられており
地面につく事はなく、力が入らないスティナの右腕は動かす事ができない
だからと言って左手は使えない
何故なら……スティナの左手は地面に爪を立て、引きづられるスピードを押される
今その手で武器を持てば……一瞬で闇の中に吸い込まれる
「……だめそう?」
スティナは泣きそうな顔ではなく、笑顔でロストに話しかける
その表情にロストは思う
『こいつは……こんな状況でも……俺を心配してるのか?
ただの剣で、こんな時に役にたたない、クソみたいな剣を……』
そんな中、ミヤの切り付けに悪魔の手が少しだけ、動いたように見えた瞬間
球体からもう1本の腕がミヤを脇掴みにする
「ミヤ!」
「だ、大丈夫……ですよ、心配しないで……ください」
その声は苦しいはずなのに笑顔でスティナに言う
しかし、ミヤの両手から短剣が落ちる事はない
だが……ミヤを掴んだその手はミヤを球体の中へ吸い込み……消える
そんな状態の中、スティナはこちらに向かってくるミナセに言う
「お母さん! ミヤを助けてくる! だから心配しないで!」
「え?! まさか……スティナやめなさい!」
スティナはミナセに笑顔でそう言うと地面を掴んでいた左手を離す
その瞬間、悪魔の手はスティナを球体へ吸い込む中
スティナはロストに小さな声で言う
「ごめんね……巻き込んで」
その言葉にロストの顔は見えないが……
優しそうな声のトーンと共にスティナに向かい言う
『問題ない、いくらでも付き合う……だから、いいさ
お前の好きなようにやれ……俺はそれに付き合う』
「ありがとう」
その言葉を最後にスティナは球体の中に吸い込まれ
その後、球体は何もなかったようにその場から消え去ろうとするのか
どんどん小さくなって行く
そんな球体にミナセは泣きながら剣を構え球体に斬りかかる
「……スティナを返して!」
しかし、ミナセの一振りは球体に1歩届かず、何をない場所で斬り
地面に当たる音だけが……その場に残り、ミナセは武器を手から放すと
その場に座り込み……泣き始める
その光景を見ながらエステとハンナは悔しそうな顔で下を向く
-そして、その可笑しな状態から3日……たった-
「……今日もミナセさんは……」
ハンナはミナセの部屋の前でメイドのナリアに聴くと
ナリアは首を横に振り、小さな声でハンナに言う
「ええ、ろくにご飯も食べてないです、というか部屋に入れてくれません」
「……ご飯を食べてるだけマシか……」
あれからと言う物、ミナセは部屋に引きこもり、外に出てこなくなった
そんなミナセを心配して、ハンナの母親はエステとミナセをここに泊め続けている
ハンナの父親……アスクは情報を集めるべく……外に出ている
「まったく……親子揃って……」
ハンナは下を向き、微笑みながら独り言のように言うと
その言葉を聴いた、ナリアは笑顔で言う
「……だってハンナのお友達じゃないですか、それを助けてあげるのは
普通というか、当然じゃないですか……それに事情も説明してくれましたし」
そう……あの後、ミナセの泣き声聴いたアスクとフィルナは裏庭に駆け込んで来て
その状況を疑問に思いながらもハンナに聴いた
しかし、当のハンナも下を向き、ただ悔しそうな顔で涙を零していた……
そんなハンナを見た2人は何も言わず、裏庭の3人を部屋に連れていき
3人が口を開くの待った
しかし……次の日、まるで死んでるかのように3人は部屋から出る事はなく
2日になった時、エステが部屋の外に出て、アスクに説明を始めた
もちろん、アスクはエステの話に驚きながらも話を真面目に聴き
言葉1つ1つに頷いた後、アスクはフィルナに説明し、フィルナもそれに頷くと
アスクは笑顔でエステに言う
「大丈夫、2人は必ず俺が見つける……だから、この家を守ってくれ
男1人しかいなくなるから……」
アスクのその言葉に頷くエステだが
内心は『俺よか全然強い女子だけど』と突っ込みを入れている
そしてエステはハンナの部屋を訪ね、ハンナが扉を開けた直後
エステは驚いた
「……本当にハンナなのか?」
「……そうだ」
ハンナは下着姿でエステの前にでて、しかも髪はぼさぼさ
明らかに何もしてない無気力な状態だった
そんなハンナにエステは一言、言う
「……こんな姿、ミヤが見たら高笑いするな」
「っ……!」
エステのその言葉にハンナは右手でエステの胸倉を掴むと
エステは笑顔でハンナに言う
「そんな元気があれば大丈夫だ……お前がクヨクヨしても
2人は帰ってこない、だから俺達がミナセさんを守るんだ」
「……」
エステの言葉を聴いたハンナはエステの胸倉から手を離すと
部屋の中に戻った……
しかし、エステはその扉から少し離れ、扉の前の壁に寄り掛かると
考え語とを始める
『あれからフィリシアはどこかに行っちまったし……
ミナセさんは話を聴いたかぎり部屋から出てこない』
そんな考え事をしているとハンナの部屋の扉が開かれ
何時ものハンナがエステの目の前にいた
「悪かった……エステの言葉で、立ち直れたよ、感謝する」
「い、いや……そんな感謝されるほどの事じゃ」
エステがハンナの言葉に照れてる中
ハンナはエステの無視するかのように話を続ける
「で、今の状況は?」
「ん? ああ……」
エステはハンナに説明する、ハンナの母親と父親が力を貸してくれてる事
ミナセが部屋に引きこもってでてこない事を……
「なるほど……わかった、私がミナセさんの部屋に行ってくれ
エステは少し休んでくれ、自分の家なのに……やるべき事をやってないからな」
「……わかった」
ハンナが歩き、ミナセの部屋に向かうため、通路を曲がるのを確認した
エステは1人、天気の良い窓の外を見ながら独り言を言う
「スティナ、ミヤ……お前達は生きてるよな……?」