第10話-2本の牙-
ハンナは7人の兵士達の攻撃を全て回避している
「チッ、すばしっこいだけじゃねぇか」
傭兵の1人がそう言った時……ハンナはその『間』を見逃さなかった
喋る事によって少しの硬直が生まれる……話ながら行動を起こす事はできるが
人間はそこまで器用ではない、1つの事に集中すれば1つが疎かになる。
「……隙あり」
ハンナは体を左周りに回りながらトンファーナイフの中心部分で傭兵を殴るが
その隙ができたハンナに後ろからインペリアルの兵士が襲いかかる。
「男の癖に後ろから……か、なら……私も良いよね」
援護に来たミヤが後ろからハンナに襲いかかろうとしたインペリアルの兵士の
心臓を持っていた武器『アルインダーナイフ』で突き刺す。
『アルインダーナイフ』
従来にナイフの2倍の長さを持つ、しかし……長すぎると持ち運びに不便
それをヒーナが改良し、折り畳み式に改良を施したが従来のナイフと違く
折り畳みしても刃が飛び出してしまうので、2段階の折り畳み式になった
このアルインダーナイフを2本持ち戦場を駆け抜ける事こそミヤの真骨頂である
「あー……そこ心臓だったか、間違えちゃった」
ミヤは倒れて息絶えた兵士に向かって舌を出す
その光景を見ながら敵の攻撃を受け止めているハンナが言う。
「間違えた……? わざとでしょ……ちなみに助けなくて……平気」
「そ、私は助けたわけじゃなくて、背中を見せた奴を殺っただけ」
「ならいい……」
そう言うとハンナとミヤは背中合わせに立ち再度、敵陣に飛び込む
その光景を遠くで見ていた私は驚きを隠せなかった。
ハンナさんが強いのは何となく理解できたし、武器もそれを物語っている
しかし……ミヤのほうは気づかなかった、あれほどの強さがあり
そして、踊るようにナイフを振るう事を。
ただ、スティナがミヤとハンナの声が聴こえる位置にいない事があり
ミヤの殺伐とした声がスティナに届く事がなかったのが不幸中の幸いである。
「……ⅤだのⅥだの、雑魚を相手にしても面白くない」
「当たり前でしょ、私達の顔割れてるのはⅣより上だしー」
「じゃあ……なんで『あいつ』が知っている?」
「知らないわね、上の階級にでも聴いたんじゃない?」
「……なるほど」
相手のリーダーに当たるファルケが戦闘に参加していなく5人と御旗は2人
しかし……御旗の2人は5人の兵士を相手に『会話』しながらの余裕を見せている
「チッ、あたらねぇ……ちょこまかと『チビ』の癖に……え?」
その傭兵がチビと言った次の瞬間、その男の首は地面に落ちていた……
「チビじゃねぇよ、雑魚……次言ったら殺すぞ」
それはミヤの行動、一瞬の事で周りの連中は唖然としていたがハンナだけは
黙ったまま、その場に立っている。
『あのチビって言葉に一瞬で相手の背後に周り2本のナイフで喉元をやるとは
さすが……ブラッディドレス……ちっさいだけはある』
そうハンナが心の中で思う……
『チビ』と言う発言はミヤにたいして絶対に言ってはならない事
前までは本人だけだったのだが、スティナが入ってミヤの方が身長が高い
それなら本人が怒る事も……ないのだが
「お姉様をチビって言ったら……てめぇらに明日はない」
たしかにスティナの身長は150でミヤは160、どちらも小さい事には……と
ハンナは思うが、ミヤの中では『スティナ第一』らしい。
その光景を見た傭兵の2人は走り出し、王都の方へと逃げ出す
インペリアルは御旗を釣る事に成功したのは良いが、ハンナを無視しすぎたお陰で
王都から離れてしまったのだ。
「……追う? あいつら安そう」
「めんどいからパス、ついでに金もいらない」
「じゃあ……とっとと終わらして食糧……もらう」
「お姉様の前だからって頑張りすぎ」
「第一印象が大事!」
そうハンナは言い、胸元を右手で叩くと残りの兵士3人国兵とリーダーの元に
走り出す。
「第一印象って……まぁ、いいや……私も頑張ろうかな」
ミヤはそう空を見ながら言うとハンナに続き敵陣へと飛び込む。