第160話-楽しさと真面目さ-
「私が固いですって?」
「ええ、そうよ……あなたの戦い方に『自由』を感じないわ」
「自由? 構えや戦い方は個人の力量と武器の使い方
あなたは私を否定したいの?」
「否定なんてしてないわ、ただ……あなた自身が楽しそうじゃないから」
「楽しいって……これは私とあなたの戦いよ」
「……やっぱりお堅いわね」
ミナセはフィルナにそう言いながら溜息を付く
その行動にフィルナはイラつきを覚え、レイピアから突きを放つ
それをミナセは涼しい顔で横に避けると、フィルナの目の前に顔を近づけ
小さな声で言う
「これは殺し合いじゃなくて模擬戦でしょ?
もしも殺し合いなら……とっくに死んでるわよ」
そういうとミナセは後ろにバックステップし、武器を構えなおす
しかしフィルナは体を振るわせ、動こうとしない
その戦いを見ていたミヤはスティナとハンナに話かける
「あれは私がフィリシアにやった事をやろうとしてますね」
「えっと……殺し合いと戦いの区別だっけ?」
「そうですね、あの2人の顔を見ればわかりますけど
お姉様のお母様は笑顔で、ハンナの母親は顔がこわばっている
どちらが力をだせているなんて一目瞭然じゃないですか」
「たしかにな……家はアスミル家に縛られすぎているのかもしれない
それを大切にしていた事は私はしないが……それだけで通用しない物もある」
「そもそも構えや教えなんて最初は教えてもらうけど、そのうち
自分の使いやすいようにしちゃうし」
「そうだな……ミヤとあった最初の頃は……」
「それ以上……お姉様の前で言わないでくれる?」
ミヤは一瞬でハンナの首元まで行き、ダガーをハンナの首に当てている
その動作にハンナは苦笑を浮かべながらミヤに言う
「悪かった……言わない」
スティナも聴いちゃいけないと思い、聴かずに戦いを見ることにした
フィルナさんは真面目にお母さんと向き合い戦っている
一方、お母さん……ミナセは楽しそうに剣を振っている
どちらが正しいと聴かれたら、どちらも正しいのだろう
だけど……私の中でお母さんのほうが正しいとそう思っている
「お姉様? 笑顔ですけどどうしたんですか?」
「え?!」
「たしかに……口元が微笑んでいるぞ、こんな戦いを見て微笑むとは
スティナも成長したな」
ハンナがスティナをからかうようにそういった時
ミナセは右手に持っていたツヴァイヘンダーを横に払う
それをフィルナは半歩後ろに下がり、レイピアから突きを放とうとするが
ミナセは横に払ったツヴァイヘンダーを地面に刺し、それを持ったまま
ジャンプし、左からの回し蹴りをフィルナのレイピアめがけ放つ
フィルナはとっさの事に対応できず、回し蹴りがレイピアに直撃し折れる
ミナセはそれを確認すると、回し蹴りをした状態から一回転し
先程の位置からツヴァイヘンダーの反対側に着地すると剣を抜き、鞘に仕舞う
「……私の負けよ」
「そうね、たしかに……あなたのレイピアは凄いのかもしれない
けれど、それは『公式な戦い』ならね」
ミナセはフィルナに背中を向けたままそういうとスティナの元に走り
笑顔でスティナを抱きしめ、胸元にスティナの頭を埋め、笑顔で話をしている
それをその場で座りこんだ状態のフィルナが見ていると、アスクが近寄り
フィルナに話かける
「私もスティナちゃんが言っている意味が理解できなかったけど
先ほど……ミナセさんが言った言葉で理解できたよ、フィルナもだろ?」
「そうね……私は勝手に『そう思って』いたのね
アスク……あなたは理解できたはずでしょ?」
「いや、私は最初、あの人が君を侮辱しているように見えてね
娘であるスティナちゃんに詰め言ってしまったよ
そしたらスティナちゃんもハンナも……すぐに理解していたよ」
「ハンナも?」
「そうだね……ようは、私達には『実戦』が足りないのさ
英雄と呼ばれた人間も……時間の流れでどこかだめになったかな」
「適当な旅をしているから……そうなるのよ
今後はどこにもいかずに家にいなさい」
「ああ、そうするよ」
アスクはフィルナに右手を差し出すとその手をフィルナが取り
アスクは起き上がらせると……スティナ達の元へ歩いていく