第159話-見方によってそれは変わる-
「えーと……散歩かなぁ」
ミナセは空を見上げながらそう答えるが誰1人頷く者はいない
それはミナセを知っている者も納得できる回答ではないから
「お母さん……今度は何をしていたの?」
「……たしか、森の中でハーピーの群れに遭遇して
その後襲われて、次に悪魔と戦って」
「え?」
聴いたスティナの方が困った表情をする
その表情にミナセは焦りながら答えようとした時
割って入って来たのはフィルナ
「お話中申し訳ないのだけど……あなたは不審者?
それともスティナさん達の知り合い?」
「申し遅れと、勝手に庭に忍びこんだ事を謝ります
私の名前は『ミナセ・フィーナベルク』、スティナの母親です」
「そう……ミナセさんと言うのね、スティナさん、本当にお母さん?」
「はい、間違いなく……」
「でも……もしかしたらがあるかも知れないわね、アスク、兵士さん達に
『探したけど不審者はいなかった』と伝えてきてください」
「わかった」
アスクがフィルナの言葉に従い、家の玄関の方へ歩いていったのを確認すると
フィルナは再度、ミナセに話かける
「ミナセさん、あなたが本物かどうか……確かめさせてもらいます」
「ここは偽者でもでてくるのかしら? まぁ、いいわ、やりましょう」
フィルナはレイピアを構え、ミナセとの距離を測るため、後ろに下がる
それに合わせ、ミナセはショートソード2本を両手に持ち、後ろに下がる
「あなたは剣を2本持つのね、ダガーとかナイフなら納得は行くんだけど
剣を2本持って戦う人は初めてね」
「そう? それなら……もうちょっと驚いてもらいわよ」
ミナセは両目を閉じ、剣に精神を統一させる
すると……両方の剣に霧状の白い物ができる
「それは……何かしら……?」
「これは『退魔の力』と言うのだけど、あなたは悪魔じゃないから意味は
なさそうね……でも、認めてもらうため使わせて貰うわよ」
「いいでしょう、かかってきなさい」
ミナセが武器を構え直し、フィルナに走り込むと同時にアスクが戻り
スティナの横に立つと、スティナに話かける
「ねぇ、スティナちゃん……あの人は君のお母さんなんだよね?」
「はい、そうです」
「……見るからに若そうだけど、君はもしかして養子か何かかな?」
「違います、お母さんは今『32』ですよ」
「32?! 絶対見えない……10代と言っても通りそうな童顔だ
それはさておき、あの力に見覚えは?」
「まったくないです……と言ってもお母さんですから
なんか納得しちゃうんです」
『まったく……スティナちゃんはそれを笑顔で言うけど、普通の人間が
あんな力を発揮できるのは人知を超えている、まぁ、あの母親ありの
この子ありって所か……見学させてもらうよ、ミナセ・フィーナベルク』
アスクは心の中でそう思いながらミナセとフィルナの戦いを見だす
スティナもアスクの視線が戦いを見る方に行った事を気づき
そちらを見ることにした
「なかなか……やるわね」
フィルナはミナセの攻撃をレイピアでいなし、回避行動を続ける
しかし、ミナセは微笑みながら剣を振り、時たま体を回転させ、攻撃したりと
まるで踊っているように剣を振るう
「その武器……折ったら勿体ないわよね」
ミナセが小さい声でそういったのをフィルナは聞き逃さなかった
この人物は私相手に『余裕』があり、遊んでいるのだと……
そう示してくるような、そんな動きである
「あなた……私をからかっているの?」
「違うわよ、からかうのなら『素手』で十分」
「このっ!」
フィルナはレイピアで突きを放つがミナセはそれを2つのショートソードを
クロス状にし、自分の目の前で構え、防ぐ
その戦いを見ながらアスクはスティナにもう一度話かける
「スティナちゃん……お母さんはなんだい? 戦いに飲まれているのかい?」
「それはないと思います、お母さんはフィルナさんをなめてるわけじゃなくて
きっと……『私のため』にやってくれているんです」
「私のため? それはどういう事か教えてもらってもいいかな?」
「……『スティナのお母さんはこんなに強いんだ』と
フィルナさんに言葉じゃなく行動で示してくれているんです」
「それは君の考え方であって……もしかすると
戦いをなめているともとれる、そう思わないかい?」
「とれるかもしれないですね、でもお母さんとしてじゃなくて
知らない人同士の戦いだとして……今の戦いはけして相手を侮辱してる
わけではない、そう見えますよね、ハンナさん」
「ああ、その通りだ……ミナセさんは私の母親に何かを伝えるために
ああやって戦ってくれているはずだ」
いつの間にかスティナの横にハンナが来ており、腕を組んだまま
2人の戦いを見つめながらスティナの問いに答えている
しかし、アスクは2人の戦いが納得できないでいる
「あなたがどれくらい強いか知らないけど、私を侮辱しているの?」
「そう見えるのなら、あなたの目は節穴ね
私はただ……あなたにこんな戦い方があるって行動で示しているだけ」
「……それがなんだというの?」
「お堅い人には理解できない事なのかしら?」
ミナセがそう微笑みながら言うと、ショートソード2本を腰の鞘に仕舞い
背中のツヴァイヘンダーを右手で持ち、構える