第146話-仲間がやった事は無駄なんかじゃない-
その攻撃はフィルナのお腹を刺し、終了したかに見えたが……
フィルナはその攻撃をレイピアで防ぐ、あの細い武器を攻撃場所を見極め
一瞬でそれができると言う事は、並外れた洞察力による物なのかもしれないし
運が良く、武器がその地点に合っただけなのかもしれない
だが、どちらにしろ『防がれた』事に変わりはない
その状況にフィリシアは焦らず、その場で体を右回転すると左手にレイピアを
持ち直し、フィルナの肩めがけて攻撃を繰り出す
しかし、その一撃をフィルナは右肩を下げ避ける
その直後に履いていたハイヒールを両足から脱ぎ捨て、態勢を立て直す
そして、不適な笑みを浮かべたフィルナは一気にフィリシアの懐に潜り込むと
空いている左手でフィリシアのお腹を拳で殴ると、バックステップし
フィリシアから距離を取る
「もしかして、貴族は殴りなんて行わないなんて思ったかしら?」
「げほっ……そんな事はないです、今のはフィルナさんの手が上手だっただけです
手癖がいいんじゃないですか?」
「あら、ありがとう、『褒めてくれて』」
それは皮肉と皮肉に言い合い、軽い口喧嘩のように見える
もっとも、フィルナとフィリシアは相手に多少なりとも敬意を払っているが
ハンナとフィルナの場合は、敬意など払っていないただの喧嘩だ
「ふぅ……さて、そろそろ……本気をださせていただきます」
「あら、やっと本気かしら? 『一陣の薔薇』さん」
フィリシアはフィルナの言葉に耳を傾けず、スティナに負けた時に縛り直した
リボンを解き、水色の髪が風に靡く
その瞬間、フィリシアはその場から加速するかのようにフィルナの背後に回り
右足からの足払いをするが、フィルナはまるで見えているように一歩前に
右足をだし、足払いを回避する
「その程度? たかが『縮地』……?!」
フィルナはフィリシアがいた方向を見るが、そこにフィリシアはいない
これこそ、フィリシアはスティナに見せた高速の連撃技……50連撃
かに見えたが、見ていたスティナはあの時の連撃と違う感じがし
ロストに話かける
「ねぇ、ロスト……あれは、あの時のと違うよね?」
『よくわかったな、あれは……縮地の応用だ』
「応用? 縮地って一瞬で相手との距離を詰める技みたいな物じゃ?」
『そうだな、それをさらに速く、足が地面付く瞬間に縮地を発動させている
それによって相手を放浪しないが、攻撃を繰り出す』
「じゃあ……私との試合でそれをやらなかったのは……手加減してたの?」
『いや、それはないだろ、きっと……多分だが、あの時のフィリシアは
スティナは「この程度」と思っていたから、あれぐらいの剣技だったと思う』
「この程度」で50連撃するフィリシアさんが『本気』をだしたとするなら
スティナの中でフィリシアさんの印象と、試合した時よりもさらに上
もしかすると、母親よりも上なのかもしれないと思うスティナがいた
『さて、会話はこれぐらいして、戦いを見ておけよ』
「うん」
フィリシアは縦横無尽の地面を蹴り続け、フィルナの周りを回る
しかし、フィルナはその場から動かす、眼を瞑りフィリシアの位置を探る
「せっ」
フィリシアは掛け声と共にフィルナの背後を取り、レイピアを突き出す
しかしフィルナはそれを横に避ける
「まだまだ荒削りね、その程度なら読めるわよ」
「そうですか……でも、これならどうです?」
フィリシアは縮地を使わず、フィルナの目の前で突きを繰り出す
その攻撃は誰が見てもフィルナは簡単に避ける攻撃と読んでいた
しかし、フィルナはその突きをお腹付近の服に刺さる
上手く、体を後ろに下げたことで致命傷を下げたが
フィルナにある不思議な現象起こる
「う、動けない……?」
「……そうですね、足をご覧ください」
フィルナは足元も見ると両足に糸らしくものが巻き付けられ
フィルナの足を動かせないようにぐるぐる巻きにされている
「この糸……まさか?!」
「そう、その通りです、地面に落ちていた糸を使わせてもらっただけです」
その糸はアスミが負ける直前に糸を全て切り刻み、地面に落とした事による物
それをフィリシアは利用し、今こうなっている
アスミがやった事をフィリシアは知らないが、あの行いがけして無駄じゃなかった
それを証明してくれたようにハンナとメイドの目には映る
その中、カナ達によって支えられて座っているアスミはその光景を見ると
心の中で思う
『私のやった事が……後に繋がった……アイツは凄い奴ですね、ハンナ』
それは負けて悔しい思いをフィリシアが背負い、フィルナに向かって
一緒に戦ってくれているような気持ちにさせてくれる