第132話-過去の物語-ファーストフェイズ
これはハンナが小さい頃……10代のハンナがまだ『アスミル家』が逃げ出さず
まだ家の中で訓練などをしていた頃のお話
この頃のハンナは母親であるフィルナの言う事を聴く良い子……
だったのかも知れない
言われた訓練、礼儀作法、貴族としての勉学など
数は多い物のハンナなりに『アスミル家』に恥じない人間になろうと努力していた
その頃だろうか……ハンナに取って父親であるアスク
この頃はまだ家に居る事はあったが、特に何することもなくこれと言って
何かを教えてくれる事のない父親は近づく必要はないと母親に言われていた
ハンナはそれに従い父親に近づかなかった
だが……そんなある日
ハンナが裏庭でのフィルナからの訓練を終え、フィルナが家の中に入ったのを
確認するとハンナはその場に体育座りでしゃがみ込み溜息混じりに独り言を洩らす
「つ、疲れたぁ……お母さんは厳しい……それにレイピアはなんか使いにくいし
それに……こんな訓練は貴族に必要なのかなぁ」
そう独り言を洩らした時、ハンナの目の前に1人のメイドが笑顔で立っている
それに気づかずハンナは独り言を聴かれた事による動揺が心の中で広がっていた
しかしメイドはその場にハンナと同じように座り、話かける
「お嬢様、自分に必要だと思う事をやるのが大切な事なんですよ
自分に必要ないことを真剣にできる人も素晴らしい人ではあるのですが」
「……あなた名前は?」
ハンナはこの家で働いているメイドの名前を知らなかった
知らなかったと言うより……フィルナが覚える必要がないと言ったので
ハンナは覚える事をしなかったし、関わる事もしなかった
もちろん身分的な物は合ったのかもしれない……だが今のハンナは
何故か目の前で同じように座ってくれたメイドの事が気になって仕方なかった
だからこそハンナは目の前のメイドの名前を聴こうと、そう思ったのだ
「私の名前ですか? 私は『ナリア・バートン』です
お嬢様がお名前を聴くのと私とお話するなんてありませんでしたのに」
「……ナリアは、好きな事はあるの?」
「はい、ありますよ、服を買いに行ったり料理を作ったり
後はそうですね、お掃除も好きですよ」
「掃除って……だからここでメイドを?」
「そうですね、ここは意外とお給料高いですし、頑張っています」
「お給料なかったら私と話もしなかったと言う事ね」
「それはないですよ、私はお嬢様とお話してみたかったんですよ
だってお嬢様って何が好きな食べ物とか言わないから……」
ナリアはその場で即答した、もちろんお世辞と言う言葉がある以上
ハンナは信用しないかもしれない……だが、ナリアにとって
ハンナは話した事のない興味対象であり、ぜひ話をしてみたい相手なのは
たしかでもあり……そして何より仲良くしたいと言う事
「私? 私は特に好きな食べ物は……ないかな」
「そうなんですか? それなら今日からいろんな物作るしかないですね
お母様が怒るかもしれませんが、お嬢様が喜ぶなら喜んで」
「なんで私のために? 無理しなくてもいいのに」
「お母様より……お嬢様、ハンナちゃんのほうが話をしていて楽しそうですから」
「ちゃんって……なんか嫌、呼び捨てで良いわよ」
「わかりました、ハンナでも、お母様の前じゃ呼び捨てにしませんから
もしもして……煩く言われるのは嫌ですし」
「うん、わかった……後1つだけお願いがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「私の遊び相手になって、お母様の言いつけ通りやってるけど
楽しい事じゃないから……もしよければだけど」
「ええ、構いませんよ、遊び事はまかせてください
ただし外に出るとお母様が煩いので、家の中でできる事をしましょう」
「……何があるの?」
「そうですねぇ……困った時は『あの人』に聴きましょう
付いてきてください、ハンナ」
ナリアはそう言うと立ち上がり、家の扉があるほうに歩いていく
それに続くようにハンナは歩いていくが……ハンナは1つだけ
ナリアに付いて引っかかる事があった、それは……
ナリアは呼びすてで呼ぶが敬語を使っている事
傍から見れば、姉妹、またはお付の者など
それでいいのだが、始めて親しくしてくれる『人』なのだから
ハンナにとってナリアは『始めて仲良くしたい』
そう思える人と出会った瞬間である