第117話-2人の女性、2人の男性-
走りながら私は剣を右手に持ち直し、走り込む
フィリシアさんも同じようにレイピアを持ち直し、私めがけて走ってくる
そしてお互いがお互いを交差してすれ違う……
傍から見たら……何も起きていないように見えるが、擦れ違いざまに
お互いがお互いのほっぺ近くを武器で突いている
しかし、同じ考えだったのか、その一瞬だけ首を同じように傾げた
私は反対側を見るとフィリシアさんは首を横に向けこちらを見ている
その顔は凄くうれしそうに……そしてフィリシアはスティナに聴こえないように
独り言を洩らす
「やっと……やっと出会えた……私の相手になる子を
ずーと、ずーと……待っていたわ、私と戦える子を」
その直後、体を反転させ、フィリシアさんは私に突撃してくる
その速度は先程よりも速く……髪をなびかせ、レイピアを構える
私は同時には走り出さず、その場で剣を構え、重心をその場に固定し
追撃の態勢に入る……剣を両手で自分の顔付近からお腹ぐらいに斜め構える
それは傍から見たら『可笑しな光景』なのだろう
カウンターとも言えない、もちろん……その構えが何を意味するかは
私自身しか知らないのだから
「……新しい型? カウンター? どれでもいっか……やってみよっ」
フィリシアさんはその速度のまま、私めがけて片手を後ろに下げ
レイピアを突き出してくる、それを剣で止め、一瞬……剣から手を離す
その動作にフィリシアさんは驚いた顔をした、その一瞬の時間を逃さず
体を回転させ、回し蹴りをフィリシアさんに浴びせながら落ちて行く剣を手に取る
その行動を観客席らしい場所付近まで連れて行かれたエステが主催者の男性に聴く
「……あれはありなのか?」
「ん? 君は何を言っている? この大会は『相手に参った、降参』と言わせた
者が勝ちで、武器のみに攻撃していいルールだよ」
「いや、あのスティナの蹴りは対戦相手自身を蹴り飛ばしてるように見えるが」
「……もっとよく見たまえ、あの子が回し蹴りを浴びせたのはレイピアの持ち手
それも、一瞬だが剣を手放したが持ち直している、問題はないな」
「あんたは一体……何者なんだ?」
「私か? 私は『アスク・アスミル』、ハンナの父親だよ、エステ君」
「……まさか、ハンナの父親……だったなんて……それにしても若そうに見える」
アスクと名乗った男性は、髪はセミロングの黒髪、服装は黒い服に赤いズボン
そして黒いサングラス、服はまぁ、着替えたりしたのだろうが……
サングラスは付けなくてもいいと思ったエステである
「ん? ああ、このサングラスか? これは有名税って言うやつだよ」
「有名税? アスミル家が凄いのは知っているが……それと関係が?」
「ふぅ……あの2人は私の名前も父親ともよばなかっただろ?
理由は簡単だよ、私は忘れられた人間なんだから」
「忘れられた?」
「そう、私が旅に出かけたきり戻ってこないから、勝手にいなくなった人
扱われるようになったのと……おまけで一応、私は『剣勇』だしね」
『剣勇』
この土地において、反乱……市民と貴族、盗賊と街人……そのな事がよく起きた
そんな時に剣を構え、最前線で戦い抜き、一躍『英雄』とまで言われた男
そして……この街で行われる全ての闘技大会を総なめした
そんな歴史を持つアスクに与えられた称号、『剣を持つ勇敢なる者』
この土地において知らない者はいないとまで言われているが……
娘と妻にとっては旅に出て戻ってこない父親程度なのだろう
「剣勇? よくわからないが凄いってことか……まぁ、この試合
どっちが勝つか、わかっているんだろ?」
「さぁね……運が良いほうが勝つとも言えるし……試合は最後までわからない」
「運か……」
「ほら、試合が進むよ、話をしている場合じゃない」
アスクが広場を指差す……
私は回し蹴りを浴びせた後、追撃に行くために吹き飛ばされたフィリシアさんに
武器を構えるが……吹き飛ばされながらもフィリシアさんは微笑んでいる
その直後、地面に両足を付け、吹き飛ばされた反動を押し殺そうとするが
地面から砂埃を上げ、止まるとその反動を利用して私めがけて突きを出す
あの一撃で武器を手放さなかったフィリシアさん、そして今も予想外の行動を
起こす、私はそれが楽しみでしかたなかった……何故なら、それを『模倣』
できるのだから
私は先程フィリシアさんが見せてくれた『カウンターの姿勢』を剣でやる
その行動をすぐにわかったのか、小さく舌打ちをすると、レイピアを地面に
突き刺し、そのレイピアを両手で持ち、それを軸に体を回転させ両足で
私の剣を蹴り飛ばす、その反動で私は後ろに押される
私は衝撃で目を瞑った後、目をあけ、フィリシアさんを見ると
地面に刺した剣を右手で引き抜き、服に付いた砂を払うと私を見ながら言う
「どんなもんだいっ、私にだってこれぐらいはできるのさ」
「すごいですね……折れやすそうな武器なのに……」
「ん? これは折れやすいよ、だから刺した位置から曲げたりはしてないよ
……でも、まさか『カウンター』の方法を真似するとは予想外」
「フィリシアさんから予想外って聴けただけで……少し嬉しくなります」
「そう? それなら今度は私が予想外な行動を見せてあげるっ!」
「はいっ! お願いします!」
フィリシアさんは優雅にその場で一回転すると、髪を靡かせたまま
私に走り込む、それも右手のレイピアを自分の顔付近まで持ち上げて
笑顔で突撃してくる