ギルドの隣のトールス専門学校への道
『そうですね。半年でここまで出来れば十分。
ギルドの隣になるトールス学校まで行けるよう訓練しましょう』
乗馬も慣れて、ホテルの領地内も散歩出来るほどに。
ブリックさんもお墨付き。
今回は、学校までブリックさんとホテルから
馬で王都内のギルドへ向かうことになった。
通常の走りで行けば、片道1時間。まだ初めてで慣れないので、
30分の場所で5分程馬を休ませ小休憩を入れる。
『道のりを覚えることと、自分のペースを掴むことです』
初めてホテルの外へ出掛けるということで
祖父母も門まで見送りにやってきた。
「練習なんだから。過保護にしないでくれよ」
「だが、初めて異世界の町や王都に出るんだ。心配だ。
腰に剣は装備したか?埃が舞うから薄手のマントを羽織れ。
それから、これは学校への申し込み金と
飲み物にはお茶だ。これが水筒」
あちらの世界の保冷・保温も出来る水筒
(よく見れば、コレ昨年欲しがったとかで、母さんに強請って
10本買わせたヤツだ。俺、家に呼び出しくらって
安価を探せって、ネットで検索させられたんだよ)
「こ、これ」
ジッと水筒を見つつ、祖父を見ると
「今年、エリイに貰った最新のヤツだ。昨年のではない」
(また、買わせたのか)
「水筒ってな。実にいいものだぞ」
「知ってる」
祖母も慌てて、手に持っていたものを押し付けてくる。
『これは、お腹が空くといけないから蒸しパンよ。
ブリックさんの分もありますから。分けてね。
それから馬の背に乗せられる皮の袋。何か欲しい物でもあったら
食べたりするのにお金よ』
「う、うん」
『これは、この領地に住んでいるという身分証明のカードよ』
「証明の」
「マチ。そのカードは、パスポートだ。どこへ行くにも
自分がどこの誰か分かるようになっている。ギルドでも
学校でも必要になる」
「作ってくれていたのか。有難う爺ちゃん、婆ちゃん」
ここで終わりになるかと思えば、
あれこれ心配され、過保護かと思うほどの内容になっていく。
『怪我をしたら、これを塗るのよ』
「何かあったら、近辺警護をしている騎士に相談しろ。
特に詰所がいい」
いつ終わるのか、果てしなく長く
見ていた門番の2人は、大笑いしてるし、ブリックも苦笑している。
周囲を見ながら、マチは祖父母から渡される物を受け取るが
恥ずかしい。
「だから、俺子供じゃないから」
やってきた乗合馬車が停まり、宿泊者が荷物と一緒に降りてくるが
マチ達の騒ぎを見て微笑ましく見ている。
門番の2人が笑いながら、宿泊者の応対を始めたところで
サッサと行くことにした。
「もう、行く。ブリックさん、お願いします」
『はいはい』
カポカポ、馬の足音しか聞こえないようになる。
まっすぐな道には、歩いている人もなく。
少し早歩きの感じで走らせている。
片道1時間なら、ベテランは走らせて行くものだが
まだ道にも慣れていないマチは、ブリックが慎重に
ペースを量っているようだった。
「今日は、晴れて良かったですね」
『全く。それにしても話しが出来るほど、余裕が出来ましたね』
「ああ、そういえば。揺れていると舌を噛みそう」
『上達しました』
2つ小さな村を通り過ぎ、3つ目の村で休憩となる。
「ここが30分先の村ということか」
馬から降りると、休憩所の馬番が走ってくる。
『馬番のジャジスだす。馬を預かりやす』
「ああ、有難う。あそこが休憩する場所?」
『はい、こちらだす』
少し訛りのあるこちらの人族でいう80代のがっしりとした男が
マチとブリックを団子屋へ誘導する。
『ここイソナ村は、果汁と在人様考案の焼き餅が美味しいですよ』
「へえ」
案内された場所は、村の入り口から数メートル先。
何人か旅人の姿が見える。
『馬は、こちらの厩だす。御用の時は、呼んで下せえ』
ぺこっと頭を下げると、2頭を厩へ連れて行った。
「店の外観からして、まるで江戸時代の団子屋のようだ」
『ここは、在人様考案で、彼がホテルから王都までの道にある
村で、それぞれの良いところを生かしたことをしてはどうかと
トールス卿に進言されて実現したんだ』
その時の話を思い出すかのように。
団子屋の店先の長椅子に座ると女性店員から
お水の入ったコップと温かい濡れた手拭いが渡される。
(気の利いたカフェだ)
まずは焼き餅と果汁を2人分注文しながら
顔と手を拭くと、ブリックが感心していた。
『手拭を渡された意味が理解されているとは』
「ああ、これは俺のいたところでも、気の利いた
カフェとかレストランがしていたからな」
(そういえば、ホテルのバイキング式のレストランも濡れたおしぼりを
出していたな)
在人は、どこまで手を貸したのだろうか?
そんなことを考える。
焼き餅は、本当に餅を焼いて醤油が塗られて
海苔が巻いてあるものだった。
果汁は、少し薄くしたグレープフルーツのような味に
甘味が足されて冷たくて飲みやすい。
焼き餅に合う果汁だ。
「旨い」
マチが頬張ると、ブリックも笑いながら食べ始める。
『私の学生時代の時は、過疎の村になりそうでしたが
40年前に改善されて、今の体制になったそうです』
「へえ」
周囲を見ると、果実の木がたくさん植えられた畑が見える。
もう少し先を見据えると、緑の何かが揺れている。
(もしかして餅米の稲)
畑では、何か作物が作られている。
きっと昔よりも豊になっているのだろう。
食べ終えると、出発することになった。
預けていた馬に跨ると、馬番の男は頭を下げて見送ってくれた。
(これって、俺が住んでいた国のマナーだな。
爺ちゃん、この作法がどれだけ威力があるのか知って教えたな)
見送る行為は、旅を続けている人を和ませてくれる。
村を離れ、30分後には予定通り、王都にたどり着いた。
身分証を門番に見せると直ぐに中へ通された。
「大きい街だな」
ヨーロッパの映画を、城やその城下町を思い出させる。
石畳や馬車が行き交う道。
人々の服装。
『さあ、こちらに行きますよ』
馬に乗って、街中を行くとギルドに到着した。
ギルドの説明を受けてから、その裏手にある学校へ向かった。
「本当にお隣さんなんだ」
トールス専門学校と読む文字をじっくりと眺める。
「え?トールスって、領地の」
(今頃気付いた)
『ええ。ここは、領主トールス卿が建てた学校です。
王都なので、建てることも大変でしたよ。
王都の学院を説得して、貴族でない者達全員が、少額の学費で
一般的な知識を学習出来ます。ただ、希望者のみですが』
「一般の国民に教育をという?まあ、旅をするとか
ギルド関係か、仕事や商売したい人が多そうだな」
『在人様が、王に進言されたそうです。国民が国の文字が書け
読むことが出来、計算やこの国の歴史を知ることで
国民が国を理解し、国の発展に繋げると』
(爺ちゃん、いろいろ手を出しているなあ)
『ちなみに、在人様の友人となられ、ホテルにも
お忍びで遊びにいらしてますよ』
「もしかして、その時の王サマ?」
『はい』
この国の王様は、爺ちゃんの知り合いであり戦友。
この国を陰ながら応援しているらしくて
相談に乗っているという事実をブリックさんから聞く。
『私の他に元貴族のエディン・マックリン。
今は、ホテルのコンシェルジュをしています。
後はアシル・トラバース。彼は、国内のギルドへ営業に回っています。』
国内にギルドは、支店10(特に人が多い領地)
ギルド派出所20(小さい領地2つの領地のどちらかに1か所)
「営業」
『支店10か所には、ホテルの職員が交代で受付しています。
大きな配達鳥は、支店経由で
近くの派出所の予約の書類を受けてホテルへ届けています。
揉め事があれば、彼が呼ばれて収拾に当たっています』
「うわ、大変そう」
(上司を思い出すなあ。アシルさんて人、かなり大変そう)
トールス専門学校の敷地内に入ると、馬から降りて
近くの厩に置き、玄関へ向かった。
扉の端に大きな銀のベルが垂れ下がっていて、マチが首をかしげると
ブリックは何も言わず、そのベルの紐を引っ張る。
カランカラン。
ベルの音が2回鳴ると、いきなり目の前に人が出現した。
(あのベルは、呼び鈴。そして、ベルが鳴ると、人が転移してくる。
凄いシステムだ。)
マチが感心していると
『はい、どちらさまですか?』
美人な女性が2人に声を掛けてきた。
ブリックは、知っているのか女性に対する騎士の礼をとる。
『お久しぶりです。メル講師。先日連絡しておいた在人様の孫
マチ様をお連れしました』
ブリックが丁寧に騎士としての挨拶をすると、目の前の女性は
微笑みながら頷いた。
『ええ、校長からお聞きしてるわ。ウェトアール様。
始めまして、マチ様。私がこちらの講師のひとり
メルと申します』
「マチ・キノシマです。宜しくお願いします」
頭を下げると、彼女はさらに微笑んだ。
『お待ちしておりました。どうぞ中へ』
彼女の案内でマチとブリックは、校舎の中へと通された。
外観からして、木の校舎。
内装は、昔の映画に出てくるような学校だ。
事務室へ案内されると、懐かしい教員が集まる職員室だった。
メル講師は、一番奥に座っている老人に声を掛けた。
『校長先生、お着きになりました』
彼は椅子に座っているものの、渋い感じの大柄な男だった。
マチの感想は、ファンタジー世界での王族に仕えている
将軍のイメージだった。
(か、貫録があるなあ)
『ようこそ、マチ様。ウェトアール様。話しは、
在人様が先日こちらにいらした時に聞いています。
前の椅子にどうぞ』
営業トークガンガンで、しゃべりは将軍のイメージは全くない。
校長席の前のソファーへ並んで座る。
『こちらは、3つのコースがあります。
全部続けてもいいですし、途中のコースで終わっても良いとしています。
年齢も10歳から100歳近くと差が大きいです。
獣人、人族、エルフ、ドアーフ等、いろいろな種族がいます。
1つ目のコースは、初心者コースで
文字、数字、言葉使いについて学びます。大体5か月で習得出来ます。
2つ目のコースは、応用コースです。文章、応対の仕方
特に読み書きは、かなりのレベルまで学習します。応用なので
3か月で習得出来ます。大抵は、このコースで終わる方が多いです。
3つ目は実技コース。今までの学んだ学習をどのように生かすかを
実技で実践します。商人になる方の学習のようなものです。
1年を通して、商人のノウハウを学びます。
危険も伴うので、剣術、馬の扱いも必要なので、乗馬もあります。
実際に、商売の訓練をします。』
説明を聞いているうちに、マチは自分はどこまでのコースを
学習するべきなのか迷う。
『マチ様は、在人様から何かお話しは聞いていますか?』
「いえ」
『そうですか?私は、先日在人様から、全てのコースの申し込みを
受けました』
校長の言葉に、マチは口をあんぐり。
「え?全部?」
『はい』
ブリックは、校長の話しに頷いた。
『マチ様、ここはやっておいて損はないですよ』
「ええ?ブリックさん、俺、1年8か月コース?決定?」
『そうですよ。騎士の学校は、13歳から5年ですよ。
それに比べたら、1年8か月は短いです』
言い放つと、ギンと目が座っている。
きっと、今自身の騎士の学校の思い出が頭の中でぐるぐるしている
と悟った。
校長は、静観中。
マチが静かになったところで、他の講師にお茶を運ばせ
ローテーブルに3人分置いてもらう。
カップを持ち上げ、ズズっと飲んでから。
『若い時は、チャレンジするものだ』
威厳ある言葉で、〆られた。
「分かりました。腹をくくります。たぶん、爺ちゃんに反論したところで
無駄ですから」
(やられた。見習い期間として1年だったはずなのに。
これでは、正当な理由を付けて
ズルズルと伸ばされているよ。上手いこと考えたな爺ちゃん)
祖父から持たされていたお金を渡すと、校長が別の人を呼んで
そのまま会計へ回された。
『ははは、やはり在人は孫にもそうか』
「ところで、校長先生は将軍か何かしていたんですか?
剣術とかやっているように思いますが」
『最終コースで、剣術を教えている1人です。
実は、これでも魔術師なんですよ、私』
ブリックは、知っているのか
『先生は、有名でしたよね。噂はよく聞いております。
王都の学院でも一目置かれていて、お会いした時は感激でしたね』
『ははは、嬉しいね』
マチは、今回ほど外見で職業を見てはいけないと
何度も思った。
(なんて迫力のある魔術師なんだ)
帰りは、ギルド内を5分程見学し、帰宅となった。
ギルド長がいなくて、挨拶は出来なかったので、また次回となる。
帰りの道では、行きと違いかなりゆっくりして
行きとは別の村の茶店で、エフィルの蒸しパンをブリックと
食べた。水筒のお茶は結局飲まず
店で出されたコーヒーを購入して飲んだ。
ホテルと同じ味で、ブリックに聞くと、コーヒー豆の産地で
仕入れていると聞かされた。
それも爺ちゃんが苗を持ってきて、指導したとかで
ここでも爺ちゃんの武勇伝を聞くことになった。
ギルド
ギルド長 ワイズ・ローレン
100歳 男 2M 渋い感じの大柄な昔傭兵
トールス学校
学校長 ウォーレン・ハザー 111歳 男 1M90センチ
魔術師 元冒険者
講師 ランドン 48歳 男 魔術師で商人経験アリ
講師 メル 50歳 女性 学士 元王都学院教師
ランドンの学院での先輩
アルセイル国
国王 オーランド・アニス・アルセイル 75歳 男
王妃 ブリューエット・ボーヌ・アルセイル 70歳 女性