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馬車管理のお仕事

3か月が経った。

マチは、馬番の仕事を卒業した。

毎日馬の世話をし、馬がどうしたいのかがなんとなく分かり

毛並みの手入れも最初に比べれば

大人しく受け入れられている。

他の馬も出来るか、客から預かっている馬にもお世話をしてみると

上手く誘導もひとりで出来るようになり

アシマネのハンスから合格を言い渡されたのだ。


次の仕事は、その隣にある施設 馬車の管理。

次の服装をメイドから受け取る。

バシーグ達馬番の4人に

『頑張れ』

と、応援されながら、隣の施設へ向かった。


ちなみに乗馬は70点だと、ブリックに言われるまでには上達した。

普通に直進と止まることがなんとか出来たからだ。

走るとか、ちょっと馬がぶるぶると首を振るわすだけで

身体が動けなくなるので、よく落とされることで

点数が引かれて行く。


『まだこの乗馬施設内しかダメです。腕は90点としたら

外への外出も許可出来ます』

中々厳しい鬼教官だ。



『マチ様、頑張るぞ』

マチの前に現れたのは、羊耳の男性獣人。

「おお~、羊の執事?」

『え?』

「あ、ごめん。そんなキャラクターを思い出しただけなんだ。

あ、話を続けてください」

『はあ、それでは。私はご覧のように人族ではなく。

羊獣人と呼ばれる種族で、名をバルグ。どうぞ宜しくお願いします』

「マチです。宜しくご指導お願いします」

頭を下げると、羊獣人も頭を下げた。


「あの、バルグさんも俺には様を付け、丁寧な言葉を使うつもり

ですか?」

マチが、バーシグとした会話を説明すると、彼は頷いた。

『マチ様は、そのままでいいですよ。

私達農民は、生まれ持った身分の差が身についてしまっていて

改善は中々難しいものです。

これでも、言葉の訛りもかなり改善し、相手に聞き取れないような

不快感もさせないように出来ました。

貴方は私の上司のお孫さんだ。私は、在人様には本当に

救われたのです。貴方自身も、私に普通に接して頂けることで

安心しています。そのままでお願いしたいと思います』

「分かりました。俺もちょっと尊敬語が出てこなかったり

失態があるかもしれません。貴方のしたいように受け止めますので

俺の考えているホテルの従業員は仲間だということを

受け止めて頂けますか?」

その言葉に羊獣人は、ほお・・と、感嘆。

『在人様に、こちらで会った時を思い出します。

マチ様、私も貴方を友人であり仲間として入れて頂けるというなら

私もそうします。宜しくお願いします』


2人、かたく握手をすると仕事に移ることにした。


屋根付きの施設内には

いろいろな形の、大小の差もある馬車が5台並んでいる。

いわば、向うでいうところの車の駐車場ってところだろう。

その車の管理をこの羊執事でなく、羊獣人がしているということなのか。

『こちらの馬車は、全て宿泊者の所有する馬車です。

馬は馬番で預かりますが、馬車はこちらで綺麗に掃除をします』

「掃除?勝手にしても?」

『はい。宿泊者の方に許可を得ています。ゴミを取り除き

外観の部分はモップで洗います』


また旅をする人の為、王都へ行く者の為

彼は出来るだけ綺麗にして返すのが好きらしい。

頼まれれば、安価で修理もする。

「凄いな。修理もするのか」


『実は、私は馬車マニアでして』

「馬車マニア?」

聞き返すと、彼は笑う。

『はい。若い頃はお金を稼がないと暮らしが成り立たないもので

村ではありきたりの狩人をしていました。20年も前ですが

ギルドへたまたま顔を出した時に、こちらのホテルの従業員募集が

ありまして、働くことになりました』

「へえ」

『募集要項が馬車の管理だったのですよ。

村でたまに旅人や行商人が使う馬車に憧れを抱いていまして

それが職業になるかと思うと、嬉しくて。

このチャンスを逃すものかと応募しました』

楽しそうに掃除道具を木のロッカーから取り出すと

水を汲みに行きましょうと、馬車の施設の裏手の

水道のある洗い場へ向かった。


(つまりだ。俺の世界でいうところの車好き(マニア)が

趣味を職業にしたようなものか。それは毎日が楽しいだろうな。

俺もSEで機械マニアだから、よく分かる。

好きな事が毎日仕事として出来るのは、楽しいからな。)


だが、しかし。

いきなり家電の掃除機が登場し、マチは驚いた。

「それは、掃除機」

『はい。在人様が、効率が良いからと勧められまして』

コンセントも施設の端にあった。

(爺ちゃん。いいのか?)


ヴィイイ。


一応音はそれほど大きくはない物だが、吸引力は中々。

まずはハタキで馬車の天井から埃やゴミを落とし、掃除機で吸引。

馬車内の埃が吸い込まれていく。

それから絞った布で、拭き取りをする。

内装の掃除の後は、外観。

箒で上から掃き出し、その後を濡れたモップでゴシゴシ。

絞った布で拭いたら終わり。


車掃除をしたような感覚だ。


『今日はこれで終わりです』

「あの4台はどうしますか?」

『一番奥のは、3日前から。2番目は2日前。こちらの2台は昨日です。

今日は昨日遅くにいらしたので、この1台のみです。

滞在は明日までなので。この後、馬車がこちらへ誘導されなければ、

暇な時間になります』

馬車で来る客がいなければ、暇なのだ。

「予定は聞いているんですか?」

『朝、予約を聞きましたが、昼から1台で。後は馬単体の方々です。

暇な時間は、食堂でお茶をしたり、馬番が忙しければ手伝います。

後は、馬番の方も暇でしたら、畑を手伝いに行きます』


仕事がないということで、マチは彼と食堂でお茶をすることにして

一端、馬車のある施設から離れた。

「予約って、どうやってするんだ?」

『このホテルのですか?』

「ああ。連絡手段がどうなっているのか、知らないんだ」

『確か、このホテルの申し込みはギルドの使い魔が連絡していると

聞いていますよ』

「ギルドの使い魔?」

『この国のどこのギルドでも予約出来ます。ギルドでしか予約が

取れないようにしているんですよ』

「突然泊りには来れないのか?」

『確か門番の2人に直接会って、部屋の空きを確認してもらい

空きがあれば、予約なしでも可能でしたよ』

「ちなみに使い魔って、どんなもの?」

マチは、どうやら使い魔=悪魔か何かを想像した。


バルグは、どんな感じだったかを考えながら

『確か、配達鳥でした。』

「はいたつどり?」

『このくらいのサイズで、足に文書を入れた筒が取り付けてあります』

(もしかして、鳩サイズで、足に筒を付けている伝書鳩の

イメージでいいのかな?)

『大きな鳥の時は、このくらいでしたよ』

彼の体型以上を腕で示すので、マチは混乱した。

「ええ?そんな大きな鳥?怖いな」


庭を通り過ぎようとして、自分の頭上に影が出来て

マチが怖々顔を空に向けるとプテラノドンをイメージさせる

翼竜の姿が頭上を通り過ぎて行った。

「おいおいこの世界、翼竜なんているのか?」

おっかなびっくり。


どこへ行くのかそのまま目を向けると、大きな鳥?は玄関前に

静かに調整しながら降りた。

実に賢い。玄関は壊されなかった。

玄関のガラスの扉中からフロント担当の一人が走ってくるのが見える。

大きな鳥が足を差出すと、フロント担当者は筒から紙を取り出す。

遅れて玄関から出てきたメイド2人は、大きな銀のトレイに

大きな肉を持ってきた。

どうするのかと凝視する。

銀のトレイを大きな鳥の前に置いてやると、鳥は嬉しそうに

15分程掛けて食べた。

その間に、フロント担当者は、中で作業し、色の違う紙と何かを包んで

鳥の足の筒に入れて蓋をした。


すると、フロント担当者が羽ばたく準備に入る鳥から離れると

大きな鳥は、周囲を確認してから少し離れた芝生まで歩いて止まる。

羽ばたきが強くなり

上へ静かに上昇し、飛び立って行った。

『あれですよ。ギルドからの連絡手段』

「バルグさんよりも大きいですね」

(なんて大きさだ。全然想像していたのと違う。

しかも周囲の皆、気にしてないし。

通常通り?凄すぎ)

驚きを通り越して、本当にファンタジーなんだと

物凄く実感した時間だった。

フロント担当者達が普通に受け渡ししてるし

メイドさん達のあのお肉を運んでくる行動は

麻痺しているとしか思えない。

マチの茫然とした返しに、バルグはマチのいうところの

日常茶飯事の出来事。

特に驚くこともなく、羊の執事のような顔で。

『凄いですよね』





従業員食堂でおやつのケーキとコーヒーをトレイに載せると

2人でテーブルへ。

「バルグさん、他の方々は?」

馬車管理担当は、4人いる。

『今日は仕事があまりないので、畑に行ってます』

「ああ、そうなんだ」


馬車マニアのバルグがメインで働き、補助として他の3人が

協力している。

実は、他の3人は農家出身で畑担当と兼任している。

「畑か・・」

『あいつら天職だから、畑仕事はお手の物ですよ。

従業員食堂やレストランやバーにも野菜もここの畑で

作ったものなんです』

ちなみにその人達は、バルグさんと同郷で

バルグさんが誘ってホテルへ就職した。

つまり、羊獣人。


(羊って、畑仕事好きなのか。)


「そういえば、実家はどこ?」

『ここから半日行った先にあるパナ村です。

羊獣人とウサギ獣人が多く住んでいます。』

「へえ、獣人の村なんだ。行ってみたいな。特産は?」

『季節や土地が良いのか、果実が多く実るので、果実なんです。

10種類あります。他は狩りです。

それ以外は、出稼ぎに行きます。』

(え?羊が狩り?狼なら分かるけど。羊が。

外見に騙されていけないのか)


果実は1年の内の3か月。後は、狩りか王都や街へ出稼ぎに

行くのが通常。

『ここへ就職できたことで、毎月固定された給金が出て

安心して過ごせます』

果実は自然任せなので、不作の年も豊作の年もあるので

不安定。

「そうなんだ。バルグさんは、結婚は」

自分も彼女が欲しい年頃なのに、機械マニアなのでモテない。

馬車マニアのバルグさんは、どうなのか気になった。

『ええ、村に妻と娘が2人います。毎週お土産を持って

帰っています。』


このホテル週休2日で、交代制。

『もう可愛いんです、うちの娘達。

今10歳と12歳ですが、とにかく妻に似て美人。

先週、料理を覚えたとかで、2人で作ってくれたものが

美味しくて』

毎週戻って、家族で過ごす話から、娘達の成長の話し、

奥さんとの惚気話に変わり、中々終わらない。

語りだすと止まらないのだと、後悔したマチだった。


馬車の管理施設では、1か月でハンスから合格を

もらうことが出来た。

というか、あまり忙しい時期でないので

バルグ1人で仕事が出来てしまうので

先に乗馬を取得するように言われてしまった。

『おめでとうございます。乗馬頑張ってください。

私もブリックさんには厳しい指導を受け・・

大変な目に遭い・・』

辛かった話しから合格点を貰えた時の嬉しい事と言ったら

と、話が長くなりそうなので

「バルグさん、ご指導有難うございました」

と、早々に退散した。


乗馬施設では、そちらの馬番と馬の世話をしながら

ブリックが空いている時間は、とにかく練習。

背にひとりで跨ることすら、中々出来なかったが

毎日となると、ぐったり感が凄いが

体力がついてきた。

股は痛くなるし、腰は痛いしで

2日寝込むこともあったが、徐々にサマになっていく。


体育系指導から穏やかに指導が変わって

マチも自分が馬に乗れたことを実感した。

馬が自分に合わせてくれる。

よく映画でも見る、馬と散歩が出来る。

顔がニンマリとなる。


夜遅く毎日乗馬訓練していることを心配した過保護が

拍車しているような祖父が、いつものように

携帯へ連絡があった。

乗れたことの嬉しさから

「乗れた。自転車の許可を」

報告しておねだりしてみた。


「・・・・。ブリックが卒業させたらかな」

「爺ちゃん」

相変わらず、自転車の許可は避けられた。


自転車をこちらに持ってくることで、こちらで何か

都合の悪いことでもあるのだろうか?

ようやくマチも名言を避けているような

祖父に疑問を持った。


(否、俺気付くの遅すぎ?それとも別に何かあるのかな)






馬車の管理担当


バルグ 外見白い羊獣人 男性 46歳

黒いスーツみたいな服装を着ているので

マチの世界でいうところの羊の執事のようにも見える。

元田舎の森の狩人。馬車マニア



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