特訓します。
ホテルへ戻ると、母が祖父母と一緒に出迎えてくれた。
既に父が携帯で母に連絡し、あちらの世界から呼び出していたらしい。
リビングに入るなり、2人は揉めだす。
「だから結婚する時に、挨拶した方がいいと言ったのに」
「ダメだ。話し合いが出来る相手でない。あちらの世界で言うところの
毒親だ。自分が親族のトップに立っているから、自分の思う通りに
周囲が動かないと気が済まない。俺も幼少から、親族の娘から母の思い通りになる者達の婚約者候補が5人いたからな」
そう父は、こちらの世界の元の姿になると、イケメン顔だ。
凄い魔術師で、元宮廷魔術師。
父の母が、同じ魔術師同士で結婚させ、力のある魔術師の子供を
待ち望んだことだろう。
父親の話しが事実なら、宮廷魔術師時代に、婚約者候補が接触して
煩わしかったことだろう。
それなのに勝手に飛び出して、あちらとこちらの世界の人族とのハーフと出会って婚姻。マチという男子が生まれている。
マチは、父の母が思うような孫ではないだろう。
SEで機械関係に強く、剣はまだ見習い中
魔術に関しては、ようやく最近習い始めたばかり。
そして、ホテル経営者の跡継ぎ候補として
こちらの世界へ戻ってきた。
そもそも結婚も子供がいることも、こちらの世界の父の親族は
誰ひとりとして知らない。
ただ、それが国内の重鎮が集まってのホテルでの事件の会議で
集まった中で、父が自分から暴露してしまった言葉を
その中の誰かが知らせる可能性がある。
「悪かった。俺が考えなしで部屋へ入ったから」
凄く反省している父親は、祖父母の家のリビングのソファで
仲良く一緒に座る母の肩で項垂れている。
母親はそれを黙って受け入れていた。
「貴方のせいじゃないわ。犯人や他国には牽制になったと
父さん(在人)も言っているじゃない」
「はあ、でもうっかりしてたよ」
後悔している様子なので、母親は大きくため息を吐いた。
「マチ。お父さんの親族は、上級魔術師ばかりよ。まともには戦えない
相手だけど。逃げるだけの力はつけておいて。
捕まれば、貴方に義両親の関心が向いてしまって
前のお父さんは、義母さんの言いなりだったから。貴方もそうなるように
洗脳を受けてしまうかもしれない」
「え?洗脳?まるで人形のように?」
「そうね」
『北の魔術師の者達は、王を守る為に考えて生きてきているから
魔術師の増員を考えているのよ。だから領主が毒親に
見えるかもしれないけど
王中心で考えているから、身内は領主の言葉に従うのよ』
エフィルは、この国の愛国心で生きている人の性質を説明してくれるが
恋愛結婚が出来ないことと、領主によって運命が決まることが
恐ろしく感じる。
昔の自分達の国と似ているとマチは思った。
全て国の為に、領地の為、お家の為、身内を動かす人達。
人として扱われていない北の魔術師の里。
(武士の時代から、しばらく当主の意見が強く、親族は逆らえない
そんな時代が続いていたな。戦争が起きて、その後、それらが
少しづつ薄れて行って、今がある。
父さんは、本当に上手く逃れてきたなあ)
感心して父を見ると、母に甘えているので、威厳が薄れてしまう。
「父さん。いい加減にしてください」
「え~、最近仕事が忙しくてエリイに触れるの久しぶりなんだけどな」
「あら、トーイ。昨日も一緒にいたでしょ。子供に嘘はダメよ」
「あれ?そうだったかな」
仲睦まじいのはいいが、目の前でてへぺろをしている男が
最強の魔術師と言われているのかと思うと、詐欺だと思えてしまう。
マチはこめかみがヒクヒクさせることを覚えてしまった。
「・・・・」
「忙しいかもしれないが、毎日1時間は、マチの魔術の指導を
してくれないか?トーイ君」
祖父が語りかけると、父は祖父の顔を見て、頷いた。
「そうですね。夜7時には、マチのいるギルドの宿舎へ行きます。
マチ、いいか?」
「あ、はい。それまでに少しでも貰ったテキストを読むことにするよ」
「ああ、そうしてくれ」
ようやく通常の日常に戻る。
ホテルから父親の魔術で戻ったものの夜遅く。
朝から寝不足で学校へ行くと、エーヴェルトが教室でぼんやりとしていた。
他の生徒達は、いつものように席に座っていたり、雑談していたり。
「おはよ、エーヴェ」
『ああ、はよ』
「どうかしたのか?」
『この手紙見てくれ』
彼から手渡された手紙は、一昨日に起きた城での会議の話題だ。
「これ、どうしたんだ?」
『姉の夫が、書記官なんだよ。どうやら、マチが言っていた
城での会議のひとりに入っていた』
手紙の内容は、北の魔術師の地ラファーレーンの領主からの詳細要請。
「これ、持ってきてもいいものなのか?」
『ダメだと思う。でも、机に開いてあったものを偶然見つけて
持ってきた。帰宅した時、ちょっと心配だけど。
それよりもマチ、これ。君の事を探している意味じゃないかと思ってさ』
詳細=父が現れたこと=父の言葉=嫁と子供の存在
「ああ、芋づる式に調べられるね」
『この手紙は、また戻しておくからいいとして。マチ、大丈夫なのか?
俺はあれから考えていたのだけど。最強魔術師の家って、北の地を治めているカールナー一族だ。姉に聞いたところ、あそこの領地は、8割小から大と魔力持ちの民だ。親族は半数が上級魔術師。
20年以上前に当主の長男が行方不明。それがこの会議で姿を見せた。
これは、嵐が来る予感がするよ。
義兄は、何のことか分からない様子だった。今日は真意を確かめる為
上司に相談しに行っているところなんだ』
黒板を見ながら、エーヴェルトは自分の意見を述べた。
「心配してくれたのか。有難う」
『まだ知られるのに、時間が掛かると思う。だから
今のうちに魔術師対策の特訓はしておいた方がいい』
「なるほど」
エーヴェルトが魔術師のついて調べたことを打ち明け
魔術の本をマチに見せる。
『この本、持ってないか?』
「あ、持ってるよ。それ、魔術学園のテキストだ」
『持っているなら、特にここを読んでおくといい』
知り合いが魔術師学園の出身で、借りて来た本で
その知り合いが教えてくれた魔術師対策のページを開く。
『ここ、魔術師は、規則を破るとかすると、魔力を奪う契約になっている。
魔力を奪う魔術について、少し載っている。ただ、この呪文は
親族の者でも当主とその周囲の首脳陣しか知らないそうだ。
もしかしたら、君の父親は知っていないか?』
「魔力を奪う呪文?」
昨日聞かされた話しを思い出し、マチは魔術師にも何等かの弱点に
気付いた。
『マチ?』
つい考え込んだマチに、エーヴェルトは心配顔で覗き込んだ。
「あ、済まない。呪文については知らないが、君が言ってくれたことが
ヒントで、いろいろ案が浮かんだよ。今日から特訓だ」
北の魔術師の地 ラファーレーン
領主
アレクシア・カールナー 200歳 銀髪 碧眼 1M80
トゥーレの母 一族の長
バーナード・カールナー 201歳 銀髪 碧眼 1M90
トゥーレの父 アレクシアの夫