日常?
今日は快晴。
トールス専門学校は、通常通り。
今日も年齢の幅広く、生徒達が集合している。
マチがホテルからギルドへ住まいを変えて、
今までの経緯を取りあえず話し、疑問だったことを
親しくなった彼に聞いてみた。
『いろいろ大変だったんだな。しかし、今出来ることとくるか。きついなあ』
事情を話してみると、いつも隣りの席に座る魔族は、腕を組んで
何やら考え込んでしまった。
「きついか?」
きついというか、もう当たり前の事だとしか思えないので
今のマチには、やるしかないという気持ちしかない。
『俺は、今その立場にあるから。その言葉は余計に堪える』
エーヴェと呼ぶよう言われている
彼ことエーヴェルト・ワズルアは、下級貴族の魔族で、ワズルア家の4男。
長男と次男の扱いよりは、格下。
『3男は、自分の道を進む自由があるからと、貴族の学校を
サッサと卒業して、今は気ままな旅に出ている。
俺も我慢して卒業しておけば良かったと今更ながら思う』
「そんなに学校を卒業するのは大事な事なのか?」
『ああ、3年バカをして思った。俺は貴族の一般的知識も
国内の知識も中途半端で、何かするにも挫折ばかりだ。
まともに勉強していたら、直ぐに分かることが分からないってところが
他の人に知られて恥ずかしいと思った』
彼は苦虫を噛み潰したような顔をさせ、頭をガシガシと掻き毟る。
「そうか。一般的な知識は、最低でも必要な事なんだ」
マチが、自分の世界の義務教育と比べながら考えていると
『学校をまともに行けない奴は、苦労していた。農家は、
農業をしていればいいと思っている。だが、俺から見ればその作物が
売れない場合どう暮らすのかと疑問が湧く。
孤立している村になると、独特の自分達の村でしか理解出来ない会話が
成り立っていて、他の地では言葉が通じないときている』
別の友人の話しが出て、マチは頷いた。
「エーヴェ(エーヴェルト)って、何歳?」
『今年30』
美形な男は真面目に返答する。
20代だと思っていたマチは、「え?6つも年上だ」と驚いた。
『え?マチ24なんだ』
今度は、魔族青年が猫の目のような瞳孔になって、全身で驚きを現した。
「そう」
『へえ、15、6と思っていたよ』
「どんなけ年下に、見てんだよ」
平然と子供扱いで見られていたことについマチは、声を荒げてしまった。
『人族なのに、幼い顔立ちだから。つい心配して
兄心が疼いてしまった。この気持ちを何と呼んでいいか分からず姉に話したら、弟を持つような感じねと言われていたよ』
「失礼な奴だ。まあ、6つの差だということで、認識を改めてくれ」
『・・・・』
「その残念な目で見るのもやめてくれるか?」
『そうか?俺としては、兄達の気持ちが分かり
兄達と和解出来たものだからな。つい残念な気分だ』
たぶん、自分にも年下の弟分が出来たという感じを
言いたいのだろう。
「もういいよ」
そんな俺達は、順調良く学習出来て、現在は初心者コースの
最終教科まで進んでいた。
そう、入学してから5か月目に入った。
ホテルの襲撃を受けて半月立っている。
昨日、襲撃した大元が分かったところだ。
明後日、そいつを城へ招いて、祖父母、国王とギルド長、隣国2国とで
協議するという話をこっそりと、ギルド長から聞いたところだ。
(俺は参加することも出来ないんだよな)
ギルド長からは、今は学生を楽しんでおけと諭されている。
しかも『跡を継げば否でも出て行かなくてはならんからな。
自由な時に伴侶でも見つけておくことだ。
そうしないと、独身で過ごす時間が多いぞ。
在人自身は、異世界の人間だ。寿命も100年生きられるかどうかだが、
こちらの人族はおよそ200歳。お前はエフィルの血が混じっておる。
寿命もその外見もどうなるかは、誰にも分からん』
そうなのだ。
異世界人の婚姻は、祖父母が最初。
2番目は、実子である母とその兄。
それ以降の子供や孫と続く子孫は、どうなるかはまだ誰にも分からない。
魔力を持っていることや属性について夕食の時にギルド長に話をしたら
『それは良い事を聞いた。跡継ぎとして、これは目出度い話しだな』
と、喜んでいた。しかもだ。
『魔術、剣術は、特によく学んでおけ。卒業したら、実践であちこち
修行をさせてやる』
と、どうやらホテルには直ぐに戻してくれそうにない発言で
マチは少し落ち込んだ。
(俺、ここからまた修行になるのか。ホテルの皆の期待に応えられる男に
なれるだろうか)
カタン。
ポケットからギルドカードが落ちた。
直ぐに気が付いて、エーヴェルトが椅子から腰をずらして
床に落ちたカードを拾ってくれる。
その時、他人でも見ることが出来る少しだけ表示された簡易プロフが
彼の目の前で表示された。
『お、悪い。・・・あ?』
「ん?」
その簡易プロフを見て、彼はヒュッと息を呑んだ。
「どうしたんだ?」
『おい、この表示間違いないとしたら』
「え?何?」
顔を通常モードに戻して、彼はカードをマチの前に出した。
「え?」
マチは、自分のギルドカードの表示を見て、目を見張る。
(なんだコレ)
どういう仕組みなのか、ギルドカードは個人情報が魔術で移される。
その表示は嘘偽りのない表示として、この世界では認識されている
代物だ。それが、どういったわけなのか
マチの表示に、「現最強魔術師の息子」という文字が浮かんでいる。
「現最強魔術師?誰の事だよ」
マチの母親エリイは、こちらの世界のトールス家の領主の次女の娘。
父は、向うの世界の医師。ハーフ。でも、魔術師だとは聞いたことがない。
父親は、どうだったかな。
父親は、木ノ嶋家の名を継いでいる。別に婿に来なくてもいいのに
木ノ嶋の性を名乗っている。名は十伊。
(そういえば、父さんてどこの出身だろ。母さん側や祖母の実家は
知っているのに。父さん側の実家とか祖父母に会ったことないな)
「なあ。最強魔術師って、誰のことか知ってるか?」
マチの質問に、深く考え事をしているエーヴェルトは、マチの声で
我に返り、顔を上げた。
『ああ、そのことで今思い出していたところだ。
現時点で、この世界で最強魔術師と言われているのは、
トゥーレ・カールナーだったはず。確か20年以上前から
行方不明として捜索が出ているはずだ』
「か、顔は見たことあるか?」
『俺自身は、幼少の身だ。当時絵姿が出回っていたが
銀髪に碧眼で、かなり容姿が整った顔だったはずだ』
この学校でもどこかにあるはずだと、休憩している先生を訪ね
その場所を聞き出して、マチの元へ戻って来た。
「凄い行動力」
『気になることは、白黒つけたいタイプなんだ。こっちにあるそうだ』
彼についていくと、そこは歴史書ばかりを扱った部屋。
壁には、国王家族の絵姿や有名な人達の絵姿も掛けられている。
「この中に」
『確か・・』
歴代の国王家族、魔族やエルフ、人族等の絵姿の中から
魔術師の部隊の絵姿で、彼は立ち止った。
『この人だ』
エーヴェルトが指刺した人物は・・。
(父さんだ。銀髪 碧眼だけど父さんだ。これを茶髪と黒目にすれば
父さんだ)
茫然としたマチを怪訝そうに見る彼は、
『どうだ?知り合いか?』
「ああ、たぶん父さんだよ」
ポツリと零したマチの言葉に、今度は彼エーヴェルトの方が
動きを止めて、完全に驚愕態勢。
『本当か?』
「ああ。父さん本人に聞かないといけないけど」
と、言いながら、直ぐに確認を取りたくなり、ポケットから
携帯を取り出す。
『マチ、それは?』
「父さんと連絡出来るもの」
名前を父さんでアドレスを探し、電話を掛けてみる。
(間違いであって欲しいな。間違いではないだろうなあ)
トルルル・・・。
カチッ。
「はい。俺だ。マチか?どうした」
いつものテンションの父親だ。
「無事か?家に帰ってくるのか?」
そんないつもと変わりない父親らしい言葉。
「あのさ、父さん」
「ん?」
(言いづらい。だけど、ここで聞かないと)
「父さんて、魔術師なのか?」
いきなりストレートに質問をするので、背後で聞いていたエーヴェルトは
変な顔でしゃがみこんでいた。
「聞いたのか?」
「いや。学校で絵姿を見た」
「俺がいたのか?」
「ああ。銀髪 碧眼の父さんだ」
「そうか。バレたか。まあ、いつかはこんな時が来ると思っていたな。
まあ、そういうことだ」
シュン。
そんな音がしたかと思うと、青紫の魔方陣が目の前に浮かび
シュワッと音がして、銀髪碧眼のスーツ姿の男が現れる。
「と、父さん?」
「よ」
背後でエーヴェルトが、アワアワと口を開けて放心していた。
「これか」
父親は、マチの前に現れ、マチが見ていた絵姿で自分を探し見つけた。
「ああ」
「そうか。ま、仕方がないな。でも、俺は自由に生きるつもりだから
このまま行方不明で」
「まあ、そうだね。母さんと幸せでいてくれたら、それでいいと思う」
「出来た息子だな。そういうこと。今は幸せな生活を手放す気はないぞ」
まあ、自分の本来の姿と実績や功績、偉業がバレたけど。
「そこの君」
『は、はい』
「マチの友達だね」
『は、はい。エーヴェルト・ワズルアです。あ・その魔族で4男で』
30歳の大の男がアタフタと自己紹介する。
「父さん」
「はは。これからもマチと友達でいてくれ。で、俺については見なかった
ということで」
エーヴェルトは、上下に頭を揺らし、了承した。
『分かりました。何か理由があってのことだということですね。』
言葉遣いも丁寧になっていた。
「そういうことだ。ま、俺の血がマチの中に流れているから。
そのうち魔力が出てくるかもな」
「ああ。水と土の属性」
「おお、そうなのか。ま、頑張れ。魔術が使えるなら、安心した。
そろそろ母さんが心配するだろうから、戻るとするか」
ニカッと笑って、魔方陣が出現し、姿も掻き消えた。
『ああ、びっくりした~。マチ、俺は何度驚かされるのか』
マチの父親の姿が消えたことで、エーヴェルトは肩を竦めた。
「・・24年生きて、今初めて父親の真実を知った俺の身にもなってくれ」
マチはマチで、その場でしゃがみこみ、両手をついて
へたれた格好になる。
『・・・え~・・』
マチのボヤキに、エーヴェルトはさらに驚いたのだった。
木ノ嶋十伊 キノシマ トーイ 50歳 マチの父 茶髪 渋い男性
1M80
トゥーレ・カールナー 銀髪 碧眼 異世界では知名度のある最強魔術師
年齢不詳 モデルのような容姿 消息不明で捜索中