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現代技術対魔術

宴会の次の日。

マチは、母親に連絡を入れて、必要な器具と本を購入し

こちらへ持って来てくれるよう手配した。

「お金はカードで払うよ」

「了解」


今までの通帳の残高を見ながら

カード払いを選んだ。

(高額商品だから。これで何とか上手くやらないとな。

結構痛い出費だ。こんなことなら、もっと真面目に貯蓄して

おけば良かった)


2日後、母が直接こちらの世界まで運んでくれた。

「久しぶり」

俺は、この世界をあまり好きではないと言っていた母が

来てくれたことに純粋に驚いた。

「母直々に持ってきてくれるとは思わなかったよ」

「まあね。父さんの命に関わることだからね。

あんたも元気でいるのかを確認したかったし。いつも携帯で声だけだからね」

心配してたのよと。


母が持ち込んだ大きなカートには、大きな箱が6つ。

機械ばかりで、有名メーカーの名が大きく載っている。

箱の中には、いくつかの箱。


「これで、いろいろ対策してみるよ」

「現代技術がこちらの世界に勝てるといいわね」

「ああ。こっちの世界は魔術があるから。ちょっと心配」

実を言うと、母の言葉は結構効いた。

こちらの世界はファンタジー小説のような世界。

ドアーフ、魔族、エルフ、人族

いろいろな種族や職業が存在している。

そう職業に、魔術師がいるのだ。

魔術、魔法の類があるわけだ。

術を展開されたら、現代技術では難しい。それは百も承知なのだが

言われると堪える。

通常のビデオカメラ、防犯ビデオに赤外線、暗視カメラに

長いコードに、一眼レフカメラ。サーモグラフィーもある。

小型PCもあるので、防犯ビデオカメラとその器具に関して

設定し始める。


門に小型防犯カメラを左右に、祖父母の自宅玄関前と周囲で4つ

ホテルも玄関、ロビー、廊下に取り付ける。

人があまりいない時間帯に、協力してくれる母親がカートを押し、

マチがこっそりと梯子を担いで取り付けていく。


自分の部屋に戻り、小型PCで記録出来ているかを確認。

「どう?」

母は、息子の仕事ぶりに改めて感心していた。

「ああ、夜は暗視カメラが重要視かな。昼間は通常防犯カメラで

確認出来る。爺ちゃんの家の前も綺麗に写るよ」

「あら、本当。確認についてはいいけど、貴方自身は剣の腕は?」

「無理。剣は学校で習っているけど、とても。相手を倒せるほどの技術はない」

「傭兵とは渡り合えない?」

「ああ。まだ数か月前に習い始めた俺には、人を守るだけの腕はないよ」

(そんな素晴らしい腕があれば、欲しいところだよ)

「それなら、弓は?」

「弓?」

「マチは、高校の時弓道やってたでしょ?当時弓道のドラマが流行っていて

人気のスポーツで」

「ああ、弓か」


高校時代、人気ドラマで弓道が出てきて、当時弓道が流行った。

アニメやドラマの影響は中高生には大きい。

マチは、切っ掛けは弓道が当時人気だったことで入部し

友人と一緒に3年やっていたのだ。弓の腕前は当時のトロフィーと

賞状が示している。

「ほら」

母が部屋の扉を開けると、父が弓道の道具一式を持って

立っていた。

「え?父さん?あれ、東京に行っていたんじゃ」

久しぶりに会う父親は、少し含みのある笑顔だ。

「ははは。爺さん達を守るんだろ?向うは平和だから

武器らしいものはないが、これならお前も使えるだろ?」

手渡されて、受け取ったマチは、そのまま台の上に乗せる。

「そうそう。古来は馬に乗ってヤブサメをしていたものだ」

「ヤブサメ、ああ、流鏑馬ヤブサメか。馬に乗って弓を放つ

あの儀式か。俺に出来るかなあ」

「弓道は、弓が長いからな。これも一応持ってきた」


洋弓。

アーチェリー(全長1M50cm)一式。

「クロスボウは、結構購入に厳しいからね。殺傷能力が大きくて。

これなら、こちらの世界の矢も使えると思う。

背負えるように、オプションも買ってきた」

「なるほど」


マチが、弓を見ながらいろいろ対策を巡らしていると

両親は、不安そうに息子を見ている。

「ん?」

「マチ、人を殺める可能性は考えているか?」

「え?」

「こちらの世界では、普通に起きてしまうことかもしれないが

私達は平和な国から来ている。本来、息子をこちらへ送り出すことは

悩んだのだよ。お前を失うことが怖くて。

身の危険を感じたら、逃げて欲しい。

これを持ってきたけれど

出来れば、こんな物が活躍するようなことにならないことを祈っている」

「父さん」


「こちらの世界も平穏であってくれたらと思う」

「貴方」

「この世界には、母さんが勝手にお前を押し付けた。私は反対だからな。

見習い期間とか言って、こちらにいるそうだが

お前が本当に嫌なら、私は戻って来て欲しい」

父親からの言葉に、マチは一瞬ここへ来た時の自分を思い出した。


「そうだった。俺、見習い期間だ。この世界で本当に住むか

まだ決めてなかった」

「え、そうだったの。私、マチが適任だと思って決めたのだけど」

母親は、マチの言葉に後悔し始めた。

「でも、ちょっとやる気が出ているところ。確かに、3日前

怖い重いをした。怖い思いをしたけど、皆頑張っているところを

見せられたら、頑張ろうという気持ちが強いんだ。

きっともっと酷い事が起きていたら、自分がどう思うかまだ

分からないけれど」

そう、マチはまだ本当に怖い思いをしていない。

その時、逃げ出すのか逃げずに立ち向かうのか。


「こちらの世界で、やってみるということだな」

「ああ、父さんのところへ戻る時は、俺が気持ち的にも

全てにおいて負けた時だと思う。あ、お盆とかお正月とかの

帰省は別として」

ふふっと笑うマチに、父は分かったと頷き

母は、気まずそうな顔をさせた。

「母さん、母さんを別に悪く思ったことはないから。

ここはここで面白いと思う。まだ本当の怖さを味わってないけど

やらせて欲しいと思う」


息子の言葉に彼らは、頷いて元の世界へ帰って行った。


夜、灯りが点る時間、お茶の誘いを受けたマチが

背にアーチェリーの弓、機材を片手に祖父母宅へ訪れると

「エリイがお前に悪かったと言ってたよ」

と、祖父が

『ふふ、マチに全部丸投げしたものの、マチの気持ちを全く

聞かずにこちらへ行かせたこと、今更後悔したみたいよ。

マチがこちらで頑張るって言ったから、あの子反省したみたいよ』

と、祖母から。

「そう。ま、俺も何も考えてなかったからな」

マチは、PCを前にすると、祖父母宅の防犯カメラをチェックし始めた。

「ま。それはおいておいて、今のところは怪しい奴は引っかかってない」

「そうか」


「それはそうと、もう少し情報が欲しい。

爺ちゃんが狙われた理由は、電気とか温泉だけではなく

今までの功績からして、何か南の国で欲しい技術があるのかな」

「南の国でか?」

「そう。何か話をした時、気が付いたことなかった?」

マチが伺うと、祖父は首を傾げた。

「話しか。確かこの火は温かいが熱くないなとか。

火ではないのか?とか。後は、レストランの味付けが塩と胡椒

だけではないなとか。向うの国から持ってきてバーに置いてある酒が

美味しいとか」

祖父は、真面目に考え始める。


メイドが新しいお茶を持ってきて、テーブルのカップを下げ始めた。

その時。


ピピピ。


祖父母宅周辺に何者かの気配がしたのかPCから

小さくではあるが異常警報が鳴り響いた。

祖父母とメイドは、音に驚き、マチは慌ててPCを確かめた。

夜8時少し前で、辺りは暗くなっている

その暗闇の中、赤外線サーモグラフィーが人の気配として

赤と黄色で表示される。

(2人、屋根と木の上か)


マチは、背に背負っていたアーチェリーの弓を手にし

矢を一本取り出した。

(威嚇に、1本木の上のヤツに打つか。ただ、魔術師だと

厄介かもしれない)

「爺ちゃん、婆ちゃん。屋根とあの木から怪しい奴が見える」

PCの画面を見せると、彼らは頷く。

「魔術師だと、俺の力では何とも出来ないと思う」

その言葉に2人は頷く。

そもそもどうやって、こっそりとこの家の付近まで

来ることが出来たのかが分からないのだ。

(門にも防犯ビデオは設置していたのに、引っかからなかった。

何者だろう)


傍にいたメイドは、茶器を後ろ手に押し

祖父母に本館へ行った方がいいと提案してきた。

『こんな近くまで不振者が来るのは変です。私は、魔術が使えますので

サポートいたします。本館のアシマネがいるところへ避難された方が』

「いや、今日は8割の客が泊まっている。危険な目に遭わせられない。

出来れば、ここで抑えたいところだ」

『貴方、私も戦います』

「エフィル、だがこんなに暗いと・・」

『ええ、暗闇での戦いは苦手ですが、そうは言ってはいられません』

ドレスをぱっと外すと、傭兵姿になる。

(婆ちゃん、いつでも戦えるようにしてるのか。すげえ)


マチは、赤外線サーモグラフィー機能があるスコープを持ちながら

確認しつつ、弓を構えると、先に火の矢が1本こちらへ放たれた。

それを祖母がジャンプしながら前に出てきて剣で叩き落とし、

次の一手が来るのか構える。

マチはその間に矢を手際よく3本放った。

次の魔術が放たれる前に、矢が次々と飛んできたこともあり

木の上の男は、逃げようとして1本が足に刺さり、

ズザザザっと大きな音を立てて地面へ落ちて来た。


その間にもマチは直ぐに屋根の上を確認し、3本矢を手早く放つ。

屋根を走って行く姿を矢が追うが、間に合わない。

それでも、マチは追いかけ矢を放っていると

屋根から飛び降りて来た。

そのまま背から剣を取り出し、マチへ向かって走ってくる。

戦える者がマチと祖母しかいないと確認したのか、

1人でやれると思われたのか、刃がこちらへ向かってくる。

そこへ今まで祖父を守っていたメイドが魔方陣を完成させ

一撃を放った。


「うわああ」


メイドの一撃は、電撃。

祖父曰く、スタンガン並の威力があるとか。

不振者は、その場で倒れた。


メイドが既に防犯ベルを鳴らしていたので、ホテルの警備担当が10人程

走って来た。5人は、自転車だ。


『オーナー』


「ああ、なんとか無事だ。そこに倒れている2人を

捉えてくれないか」

『分かりました』


15分程で、今回は捕縛終了。2人と人数が少ないことから

元々偵察だけだったのかもしれない。

「今回のような事は、久しぶりだな」

『ええ、3年前までは、頻繁でしたのに。急に、どうしたのかしら』

祖父母が何とも言えない内容をマチに聞かせたので

マチは、回収していた矢を取り落した。

「え?どういうこと」


「いや、こういったことはホテルが軌道に乗った40年前から

よくあったからな。最近は平穏だったが。どうやらまた狙われだしたかな」

『また対策を考えた方がいいわ。門は、大丈夫かしら?』

自転車で周囲を探っていた警備員の数人が、慌てて祖父母のもとへ

やって来た。

『門番の2人ですが、1人は重症、1人は縛られて顔の怪我が酷く』

直ぐに他の警備隊が、門へ救護班を連れて走って行った。

厩と施設の方では、馬や馬車は無事だということを告げた。


門番の話しにエフィルは悲しげな顔をさせて、在人を見る。

彼は苦い顔をさせつつも、ホテルを守る為にと

次の指示を出していた。

マチはここで弱音を吐かず、次の指示をしている祖父の背を見て

大きな存在だと実感した。



(ここでの爺ちゃんは、絶対の存在だ。その存在を失ってはダメだ。

皆、爺ちゃんを失いたくないという気持ちが凄い。

ここのホテルで働いている人達は、爺ちゃんが全てだと考えている。

それが凄く分かる)

『マチ様』

弓を持っていたマチに、警備隊のひとりが祖父母達と共に

安全な部屋へと促してきた。

マチは頷くと弓を背に背負い、PC等の機材を閉じて片手に持った。






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