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記念写真

「マチ、今日は領主のトールス家へ一緒に来てくれないか」


朝食を祖父母の自宅でと呼ばれたマチは

意外な誘いに「え、あ・うん。いいよ」と、戸惑いながら返答した。

『実はね、3日前にハンナが出産したの。皆でお祝いに行こうって

話をしていたところなの。マチにとっては、はとこになるかしら。

マチがこちらの世界にいるから、1度はハンナとそのご主人の

ファーブス子爵と顔を合わせておいたらと思って』

祖父の言葉に続いて、祖母がフォローする。


「え?生まれたんだ。はとこになるのか。分かった。今日だね」

『学校には、連絡は入れておくわ』

「婆ちゃんに任せた」

「マチ、カメラと直ぐに写真が出来るよう器具も準備してくれないか。

お前から、家族の写真をプレゼントにしたらどうだ?」

祖父の話しに、マチは頷いた。

「なるほど。そうだね。記念写真になる。いつ出発?」

「お前の準備が出来たらだ。この屋敷の前に場所を用意する。

食事が終わったら、急いでくれ」

「了解」


マチは、急いで部屋に戻ると、リュックに器具をあれこれ詰め込む。

祖父から貰っていたバッグにそのまま突っ込み

大急ぎで扉の鍵を閉め、祖父母宅へと走った。


まだ馬車は到着していなくて、祖父母はメイド達と雑談している。

「お待たせ」

「おお、来たか」

『今日は、バルグが担当してくれるそうよ』

「へえ、バルグさんの?初めてだな。楽しみ」


そうして、馬2頭立ての馬車が到着し、毎日会っているものの

御者の腕は知らない。

『お待たせしました』

バルグが執事の服装で御者台から降り、丁寧に礼を取ると

馬車の扉を開けた。

優雅に祖母の手を取り、席へ促し、次に祖父に頭を下げる。

マチが乗り込もうとした時は、ロータッチ。

「楽しみだよ。宜しく」

『任せて』


楽しそうにバルグが御者台へ上がり、馬車はゆっくりと走り始める。

屋敷から裏道を通り、門前で門番に声を掛けて

王都方面へ向かう。

途中、右の道に曲がり3つ村を通り過ぎると領主の館が見える。

馬車で片道2時間。意外に早い。

馬のみ単身でなら1時間。

自転車なら、どうだろう。


窓から見える景色は、森の景色と村の景色。

護衛に4人傭兵が着いてきていた。

「え?護衛? 前に連れて行ってくれた時は、護衛はいなかった。

何かあった?」

マチの驚きの声に、祖父母が苦笑した。

「よく気が付いたな」

『流石、マチね。今日の館には、子爵が来ているの。

貴族によからぬ事をする者がいないとは限らないから。

一応、着いて来てもらったのよ』

「てっきり、魔物とかが出るのかと思った」

祖父は、少し複雑な顔をさせながら

「魔物は、この国では北の森だな。この辺りは、討伐したから

今は見かけないな。ただ、魔物よりも厄介な盗賊が出るように

なった。村では自警団が守っているようだが、近々ギルドから

討伐の派遣が来る予定だ」


そんなことになっていたとは、とマチはさらに驚いた。

「そんな話、学校でも聞かなかったよ」

「ああ、それは3日前の話しだからな。まだ王都までは

伝わっていないだろう」


物騒な話を聞きつつも、朝早くだったのが良かったのか

何事もなく領主の館に到着。

早速執事が出迎えてくれ、相変わらずの女性陣が現れた。

『まあ、時間通りだわ』

『朝食は採りました?』

「ええ、大丈夫です。招待有難うございます。

そして、おめでとうございます」

祖父が、礼を取りつつ、領主の妻であるイルイゼラへまずは挨拶し

次に隣りのイルイゼラの娘メイラに孫の誕生のお祝いの言葉を

掛ける。

2人は、男子が生まれたことで、かなり喜んでいる。

マチの世界では、男女どちらでも喜ばれるが

ここは異世界。そして子爵家へ嫁いだ娘が跡継ぎを産んだことで

両家は安堵している。

(昔、そんな時代があったな)

マチは、ぼんやりと歴史の講義を思い出す。


「お祝いということで、写真はどうですか?」

祖父母がお祝いの品を渡したところでマチが声を掛けると、2人は喜んだ。

『マチ、有難う』

そして洗礼の儀式のように、2人にきつく抱擁されて狼狽。


彼女達の後方で、待機していた夫達もぜひと許可を出してくれた。

妻達の邪魔にならないよう、常に夫達は控えている。

この世界の貴族では当たり前なのかと疑問を持っていたマチに

祖母は、「夫が控えめなのは、この家だけだからね」とこっそりと

耳打ちされた。

(そうだよな。普通は主が出てきて、その後方で妻が控えるものだよな。

まあ、ここは女性の方が強そうだからかな)


早速、客間に案内され、マチ達の到着を待っていた

ハンナ夫妻と赤ちゃんが笑顔で迎えてくれる。

『ハンナ、おめでとう』

「皆でお祝いに来たよ」

『有難うございます。叔母様、叔父様、マチ様も。前は寝室でしたので

会えませんでしたが、私のはとこなんですね。宜しく、マチ様』

「初めまして、マチです。ハンナさん、宜しくお願いします」

『貴方、こちらは母の妹のエフィル様、夫の在人様。

こちらは、マチ様。私の母の妹のお孫さん。マチ様、こちらは私の夫

クロード・テル・ファーブス子爵です』


ファーブス子爵は貴族らしく優雅に握手を求め

祖父母がしっかりと握手し、次にマチと熱く握手を交わす。

『エフィル様は、ハンナの母君によく似ていらしている。

在人様、ご活躍は耳にしております。この度はお会い出来て光栄です。

マチ殿は、初めまして。在人様の孫ということは』

子爵が顔を上げ、在人の顔を見る。

「はは、気が付かれたかな。マチは、私の跡を継ぐ者だよ」

祖父が、苦笑すると、子爵は頷く。

『それでは、今後もキノシマは健在ということですね。

避暑に最も有名なホテル。せひ、家族で伺いたい』

「ええ、どうぞ。お待ちしています」


そして、先日のようにマチは、写真の話をすると

『写真か。聞いている。ぜひ、家族3人を頼みたい』

子爵もハンナも嬉しそうだ。

前回、母達の写真を見せられたようで、自分達もお願いしたいと

思っていたそうだ。

「では、いいですか?」


まずは親子3人でロングとアップ。母子のみ。家族と領主側の4人と

女性陣のみ。リクエストで男性陣のみ。

最後に全員で。もちろん三脚を立てて、リモコンで自動シャッターを押す。

直ぐにバッグから、リュックを取り出し

器具をテーブルに並べる。

PC起動し、編集。

別の小型機械で、写真として取り出し、加工器具で

ラミネート加工し、まずは全員の分を作り出す。

『まあ、綺麗』

『確かに。素晴らしい。これが写真か。絵を描かせるよりも速い』


『家族写真なんて、素晴らしいわ。

これ、部屋に飾りますね』

伯母もこちらの祖母達もたくさんの写真を見ながら

思い思いおしゃべりが始まる。

夫達も感動しながら、

『孫とひ孫を自慢出来る』

『毎年撮ると、成長が分かるなあ』


家族全員の写真は、A4サイズまで大きくしていると

『こんな大きく出来るものなのか。素晴らしい。

マチ殿。今度我が領地へ遊びに来て下さい。

その時には、私の両親達の写真もぜひ頼みたい。

もちろん、費用はこちらで出します』

すっかり写真が気に入った子爵は、何枚もの写真を夫婦で見ながら

商談を持ち掛けてきた。


「なるほど。口コミ商法だ」

「ああ、写真はしばらく様子を見ながら商売していくのがいいな」

「子爵がきっと宣伝されるかな」

チラッと子爵夫妻を見ると、2人で喜んでいる。

誰と誰に見せると、息巻いている。

こちらでは、絵姿は絵で表す。

写真は、短時間でそのままを写すので、画期的なものだ。

誰かに見せれば、きっとホテルへ連絡が行くことだろう。

「たぶん」

祖父がいつの間にか隣に来て、マチと相槌を打った。



ハンナの夫

クロード・テル・ファーブス子爵 28歳 茶髪 普通 穏やか 186センチ。

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