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虹の頂

作者: 北本てつ

通り雨が過ぎて空には見事な虹が架かっている。夏の入道雲と虹のコントラストがとても綺麗でいつまでも見ていたい。雨のおかげで空気はひんやりと気持ちよかった。


そうだ、この風景を写真におさめておこう。


私は買ったきり余り使っていなかったデジカメを持ちだして何度かシャッターを切った。写真に関してはズブの素人でカメラを選ぶ時もお店の人教えてもらって一番扱いやすいものを選んだくらいだ。そんな私だから納得のいく写真は中々撮れなかった。それでもしつこく、何とかこの景色を残したいと粘った甲斐があってようやく良さそうなものが一枚撮れた。

満足した私はまたぼんやりと暫くの間虹を眺めていた。



夜になってから撮れた写真をPCに移して改めて見ていると小学校の時の友人との会話が頭をよぎった。


「虹ってどこから生えてるか知ってるか?」

「知らない。虹って生えるものなの?」

「そうだよ。木とか花だって雨が降って太陽が出ると生えてくるって先生言ってたじゃん。」


思い出すと笑ってしまうような会話だが、当時の私はなるほどと妙に納得したものだ。そして、友人は虹がどこから生えているのか教えてくれた。


「虹はさ、森から生えてるんだよ。」

「森?」

「そうだよ、じいちゃんが言ってた。森で虹を見つけたら登って行けるんだって。」

「すげぇ。」


私も友人も純粋な少年だったのだろう。暫くして彼は引っ越してしまったがある日一通の手紙が届いた。それには虹の写真が同封されておりこんなメッセージが書かれていた。


見事な虹が生えました。森に行ったけど虹は見つからなかったよ。いつか絶対虹の頂上に立ってやるんだ!


虹の頂上。大人になった今だからだろうか、何だかとても素敵なフレーズのような気がする。あの手紙はまだ残っているかな?写真もあるかな?今度実家に戻った時に探してみよう。


PCの画面には昼間撮影した虹の写真がいくつか表示されている。一番最後に撮ったものを選択して画面いっぱいに表示させた。

中々良く撮れているじゃないか。

この虹の頂きからはどんな景色が見えるのだろう?


いつか絶対虹の頂上に立ってやるんだ!


友人の声が聞こえた気がした。私も是非立ってみたいものだなと思いながらPCの画面を見つめた。


お前もいつか立てるよ。その時は一緒に景色を見ような。


誰かの声がした。驚いて部屋を見渡しても誰もいない。独り身の三十男の部屋に誰かいても怖いけど。

気のせいだということにしてPCに目を移す。

虹は相変わらず見事に生えていた。

そしてその頂には何かが立っている。

私は驚いてフリーズしてしまったが、なぜか恐怖は感じなかった。少しずつ写真を拡大していく。

そこには少年がいた。虹の頂きに少年のままの友人が立っていた。にこにこしながら手を振っている。


「そうか、君はそこに立てたんだね。」


少年は満面の笑みで親指を立てると、なかなかいい虹を捕まえたねと言ってまた手を振りながら消えて行った。


「君の虹には劣るけどね。」


私はそっとPCを閉じた。

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