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存在意義◇

なぜお気に入りにしてくれているのか、理由がわからない

 俺と輪廻は互いに互いを眺めるように見つめていた。錆びた色の赤いフード付きパーカーで短パンのようなスカートの輪廻。女だったか?という疑念が過ぎる。興味ないけど。

 『スカートなのは便利だからな ほら、少し捲ればナイフやら武器を取り出せるだろ? 雨の日にゃ蒸れなくて楽だしな』

 「人の心を盗み見たように言うね」

 『盗み見た、ねぇ 駄作と似た存在なんだし、それくらいわからなくもないさ 目線見りゃわかるだろ』

 影と闇。

 似たような存在だが、決して同じではない。光あっての影なのと違い、闇は別に存在する。

 いや、輪廻は光と影も別々の存在って言ってたっけ?

 「まだ続いてる……続けてるが正しいのか? 終わりが来るまでは止める気はないね」

 『それはまた人の心を盗み見たように言うんだな』

 「お互い様だろ、同じような存在なんだし」

 雛乃のことを、輪廻は気にしている。正確には今だに雛乃をそばを離れない影を気にしている。

 観察とか傍観と同じ意味で。

 『それで、一度でも報われたのか? いやいい、その顔見りゃわかる 相変わらず無駄なことしてるな』

 「だから駄作なんだろ」

 『違わないが、理解に苦しむ 何度も駄作と会ってきたが、これだけはわからない お前さ、それで満足してはないだろうけど、幸せなのか? 殺人鬼に聞かれるのも、またアレだけどな』

 「幸せ?」

 傍観してる第三者だからこそ、輪廻はこんなことを聞ける。俺みたいに雛乃の影じゃなくて、雛乃みたいに秀でた点がある奴じゃない、闇だから。

 ある程度、俺と雛乃を見ていたからでもあるけど。

 輪廻の問いに、俺は答える。

 「幸せか?と聞かれたら、幸せではないと答えよう」

 『その言い方だと不幸ではない、と言いたげだな なんでだ?』

 「前に輪廻が言ったろ、光と影は別々の存在だって 幸も不幸も大概同じさ」

 それはわかるが、納得はできないな、と輪廻。

 『光と影は時と場合がないからそう言えるけど、幸と不幸はあるだろ 例えば中世ヨーロッパの貴族と庶民とかな』

 「じゃあ言い換えよう、幸せじゃないから不幸じゃない」

 『それこそ意味がわからない』

 「数式じゃないのさ 幸せの度合いが高く、不幸の度合いが低いからといって、そんな人の人生は幸せか?といえば違う、必ず不幸だと思う時もあるのさ」

 『……それだと駄作は最悪だな』

 輪廻は理解できたように、憐れみの眼で俺を見る。似た存在からそんな眼で見られるとは、なかなか傷つくものだ。

 相変わらず興味ないけど。

 『幸せじゃないから不幸じゃない つまり、幸せを知らないから、不幸を知らないってことだ 自分は幸せだと思ったことがないのかよ』

 「幸せを知ることで不幸を知るなら、そんな幸せはいらないってことさ 違うな、幸せ自体に興味がないからか」

 『駄作の駄作たる所以だな なんでも興味ないで済ませられる、世界全体を否定してるようなもんだ』

 「実際世界に興味ないからね」

 『そりゃ駄作だ』

 輪廻は形だけ笑った。俺は形すら作らず笑ったけど。


 輪廻とは約二年前に初めて会った。その日は中学二年の始業式だったはず。午前だけで学校は終わるから、雛乃と二人で帰った。

 普通なら友達と午後に遊ぶ予定でも組むのだが、雛乃は両親と進級祝いをするから、そんな会話をせず帰る。

 言わずもながら、俺をそばに付けて。

 その頃からすでに、雛乃をストーキングする奴らは大勢いた。俺に殺意を向けるのは忘れない。俺も興味ないので、無言で雛乃のそばに居たのだが

瞬間

ブルリと

背が震えた。

 さっきまであった殺意の中に、わかりにくいように殺気が忍んでいた。それは明らかに俺を狙ってるようで、優柔不断に雛乃に移ろうともしていた。

 その決めかねていない状況に、内心俺は安心していた。

 すぐに行動、雛乃に何も告げず、人気のない場所に移動する。

 殺されやすい場所に、まさに殺されるために。殺しやすい奴を狙わせるために、殺されるべきでない雛乃を守るために。

 路地裏の突き当たりまで来て振り返ると、そこにソイツはいた。

 俺の意図を理解して、それで俺を追ったごとく、手首から肘辺りまでのバタフライナイフを手にして。

 「……取り敢えず、ありがとう」

 『……殺されるのに、ありがとう?』

 「死ぬことなんかに興味ないね ただアイツを狙わず、俺を殺しにきたことに感謝してるのさ そのままアイツを付けて、人気がなくなったら殺すこともお前にはできたはずだから」

 図星だからか、それに苛ついたのか、いつのまにかバタフライナイフは肩を割いて、突き当たりの壁に突き刺さっていた。

 血が出て真新しい制服を汚すが、例のごとく興味がない。

 『ふぅん……お前さ、あの女が好きだからそうやって守るのか』

 「好きじゃないさ、むしろ嫌いな部類に入るね あたかも持ってそうで、普通過ぎる俺からすれば嫌な存在さ」

 『なら』

 「だからって俺が死んでアイツが生きる方が順当って感じがするだろ? 理由なんて、その方がそれっぽい、ってだけのことさ」

 雛乃よりか、なんの変哲もない俺が死んだ方が、世間一般老若男女庶民平民一般市民の皆は生きやすい。財閥の一人娘が死んで世間が慌てるよりか、静かに殺人事件の方がね。

 『お前、自分どころか世界を傍観してるみたいだな』

 「そうでもない、ただ流れを読むだけさ」

 『詰まらない人生ストーリー 駄作だ、全く だけど現実味があって、嫌いじゃあないな』

 殺気は消えた。そして殺人鬼は笑った。

 俺は笑いたくなかったのに、笑った。


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