No.21 似合、う?
* * *
「んっきゃぁぁぁぁぁ! パーペキ、グッジョブ、バッチグーだよ、モユちゃん!」
「うんうん、文句無しね」
「確かに、これが一番似合ってるわね。リボンとも色が合ってるし」
三人は満足といった表情で、私が今着ている服を頷き見る。一体何度着替えされただろうか。
脱いでは着さられ、着ては脱がされ。成されるがままに大量にあった服を着替えされていった。
沙姫に脱がされて、沙夜に着せられ、深雪が次の服を用意する。
なんとも息のあった動きで、一切の無駄なく素早く、的確。でも、凄く楽しかった。
研究所に居た時は青く薄い服一枚か、いつもの制服だけ。こうして沢山の、色々な服を着た事は無くて、新鮮だった。
正直言えば、忙しく着替えされたから疲れはしたけど。
「おい、モユが溺れてるぞ」
どこか呆れが含まれた声が聞こえた。
声がした方を見ると、匕が立っていた。
「あ、咲月君! ちょっとこっち来て!」
「いや、それよりもモユを解放してやってください」
沙夜は立ち上がり、匕の腕を引っ張る。
「いいからいいから、見てみなさいって」
「え? あ、ちょっと……」
半ば強引に連れられ、匕は少し戸惑いながらも言われるがままに従う。
「じゃん! どうですか、咲月先輩!」
そして、私を隠すように立っていた沙姫が、ひらりと横に避けた。
目の前には、沙夜に連れられて匕が居る。
「お?」
まるで何か珍しい物でも見るかのように、匕は目を僅かに見開く。上から下へ、ゆっくりと瞬きせずに視線を落としては、再び下から上へとやる。
なにかおかしな所があったのか。少し不安になり、着慣れていない服と言うのもあって落ち着かず、もぞもぞと小さく身体を動かしてしまう。
「ほぉー、これは意外。お前って黒い服、似合うんだな」
匕はしゃがみ、私と同じ視線の高さでもう一度服を眺める。
それも、どこか関心しながら。
「でしょ!? これが持ってきた服で一番似合ったんですよー!」
今私が着ている服は、元々着ていた制服と違って薄く半袖で、涼しい。
首の辺りにフリフリしたのが付いてて、色は黒。沙姫達の会話では、ブラウス、というらしい。
下の服は制服と変わらず、ヒラヒラした服。ただ、制服と色が違って白。これは確か、スカートと言っていた。
それを着ている私を見て、匕は似合うと言ってくれた。
「……似合、う?」
様子を伺うように近くに居る沙姫に目を向ける。
「そうそう、咲月先輩も可愛いって、モユちゃん!」
「……かわいい」
確認するように呟いて、着ている服を見直す。
可愛い――――そう、匕が言ってくれた。
研究所に居た頃はそんな事を言われた事など一度も無かった。服を見るどころか、私を見てくれている人は居なかったから。
周りは皆、人では無くヒトとして見てきた。私をモノとして接して、扱われた。似合うなんて勿論、可愛いだなんて言ってくれた人も、言われた事も無かった。
こういう時、どんな顔をすれば良いか解らない。
――――けどとても、嬉しい。
「にしても、随分とまぁ散らかしたもんだ」
匕は足を伸ばして、呆れつつも関心した様子で部屋を見回す。
「うわぁ、こんなに散らかしちゃってたんだ……夢中で気付かなかった」
匕に言われて初めて気付いたのか、服が散乱している部屋を見て頭を掻く沙姫。
床は勿論、ソファやテーブルにまで、私が着せられた服が散らかっていた。
「でも、皆で片付ければすぐ終わるわよ」
床の服を拾って、沙夜が苦笑しながら言う。
「じゃ皆、私は仕事に戻るから後よろしく」
そして深雪は、言い終わると同時に素早く部屋から出ていった。
「あ、逃げた」
「逃げたわ」
「逃げたな」
深雪が居なくなった廊下を見て、匕達三人の声が重なった。
「しょうがない、俺も手伝うよ。モユ。お前も手伝え」
溜め息を吐いて、匕は足元にあった服を拾い上げる。
言われ、私も散らかった服を拾う。
「それじゃ、私と沙姫が服を畳むから、拾ったら持ってきて」
沙夜はテーブルで拾った服を折っていく。慣れた手付きで、服は綺麗に四角く畳まれた。
「……はい、沙姫」
「ありがと、モユちゃん」
沙姫に拾った服を渡すと、沙夜と同じ手付きで服を畳んで、鞄の中へ次々と仕舞っていった。
「ほい、沙夜先輩」
「あ、そこに置いてて」
「あいよ」
匕も拾った服を渡して、畳まれた服が段々と高くなる。
それを沙姫がカバンに押し込んでいくが、周りを見ても服はまだまだ落ちている。
「って、どあぁぁ!?」
沙夜と沙姫の服を畳む姿を見ていると、大きな声が聞こえた。
声のした方を向くと、匕が片足を高く上げて僅かに浮いた姿が目に映った。直後、盛大な音とともに畳まれた服が宙に舞った。
どしん、と。
「ってぇ……」
転んで頭を打ったらしく、匕は身体を起こして後頭部を擦る。
「あはははは!」
「咲月君、大丈夫?」
沙姫はそれを見て笑う。対して沙夜は、匕を気に掛ける。結構大きな音がしたけど、匕は大丈夫そうだ。
踏んづけた服がヒラヒラと上から落ちてきて、匕の頭の上に乗っかった。すると、沙姫は更に声を大きくして、沙夜もクスクスと笑い出す。
当の匕は、頭の服を掴んで渋い顔をしている。
私は笑い方が解らない。造り出されて今まで、笑った記憶が無い。
だから、今の沙姫や沙夜みたいに笑えないし、笑っている理由も解らない。
――――けど。
“楽しい”という感情を私は、確かに感じていた。




