お互い姉妹
妹という存在は何かと有利だ。あとから生まれた分際で、姉が築き上げた物を根こそぎ奪い取る。
婆ちゃんの「可愛い」も、爺ちゃんの「小遣い」も妹の元へ流れていく。そのついでに私も「お一つ貰うよ」って感じである。
小2にして学んだ。
この世の不条理『お姉ちゃんだから我慢しなさい』
世界で一番キライな言葉だ。
◇
「ねぇママ。今日麻婆茄子食べたいよ」
妹が口をとがらせて言った。いいわね、と母が無条件でノるから、なんだかムカついて「私はカレイの煮付けがいいな」と言った。
本当は麻婆茄子だろうがサムゲタンだろうが鉄火巻だろうが、何だってよかった。
「えー、ちぃちゃんは麻婆茄子がいいよ。お姉ちゃんもそうしよ」
「やだ。私、ナス嫌いだもん。グニグニしててキモいから」
ナスへの『キモい』のイントネーションは、気持ち半分、妹に込めた。察知したのかふてくされて泣きわめく妹を、母は庇った。
「お姉ちゃん、ちぃちゃん泣かしちゃダメよ」
「……ふーん。お母さんは、ちぃちゃんの味方なんだぁ。ふーん」
「サツキ。意地悪になってるわよ」
お母さんの宥め方が癪に障る。本当にわかっていない。私は一杯我慢してることあるのに、食べ物さえも自由にできないの!?
「じゃあ、麻婆茄子でいいよ」
やるせない気持ちでドアを閉じた。
妹の泣き声がピタリとやんだ。やっぱりウソ泣きだったんだ。あざとい奴め。あんなののどこがいいんだか!
(あ、ヘアゴム。リビングに忘れた)
ドア越しにお母さんと妹が話している。
妹の拗ねた声を宥める親の声。ちょっと真剣な感じがする。私の時は丁寧に聞いてくれなかったのに。
かと言っていきなり乱入して騒いだら私が馬鹿みたいだ。聞き耳を立てる。妹は舌っ足らずな発音で、こう言っていた。
「お姉ちゃんずるいよ。いつもお洋服の一番乗りはお姉ちゃん。ちぃちゃん青が好きだけど、いつもいつもオレンジなの。昔々にお母さんとお父さんも独り占めしてた。ちぃちゃん生まれる前の壊れたラーメン屋さんの思い出も、ちぃちゃん無いんだよ。お姉ちゃんずるいよ」
私は自分の今着ている服を見た。今日はお気に入りのオレンジのワンピースだ。そう言えば、身長が伸びる毎に洋服をお母さんと買いに行く。妹はいわゆるお下がりだ。
(青が好きだったんだ……)
はじめて知った妹の好きな色。お下がりで好きな色じゃない洋服を着るなんて、私ならばさっきの様に抗議するだろうな。
お父さんとお母さんを独り占めしていた期間があるのは事実だ。その間、ラーメン屋さんで好きなメニューを食べて、漫画を読んで、店主さんに可愛がられてと、そんな話が食卓で上がることもある。
なるほど。妹にも不満の1つや2つや3つくらい、あるのだな。
「私もお姉ちゃんなりたいよ……」
こぼれた妹の本音にハッとする。妹は決して『妹』であることを武器に周囲に媚びていた訳ではない。
必死で自分の存在を振りまいていたのだ。私への嫉妬心を抱きながら。
(もう、何で言わないのかなぁ!)
肝心なことはうまく言えない妹。姉である私とは違って、自己主張が苦手なんだな。
────となれば、ここは姉の力を使うしかあるまい!
「お母さん」
私はドアを開けて、お母さんに言った。
「また背が伸びてきたの。新しい服が欲しいな。ついでにちぃちゃんのも買ってあげたら?」
あくまでも私の洋服選びの『ついでに』と提案したのは、姉としての小さなプライドだ。
妹の目のハイライトがあり得ないくらいキラキラしている。漫画か!
「わかったわ。さすが、お姉ちゃんだものね」
お母さんが、「ふふ」と笑いながらちぃちゃんの頭を撫でた。いつもなら少し嫉妬もしたけれど、今はもうそんな気持ちは、ちょっとだけ無い。
「お姉ちゃんえらーい!」
妹が立ち上がって、私にハグしてきた。その時のぬくもりがヤケに嬉しくて、
「お互いに好きな服着てカフェ、行こ」
そんな約束をしてしまったり。
つくづく思う。
妹という存在は何かと有利だと。
おしまい




