婚約破棄で私の妹と婚約? 勝手にどうぞ。〜復讐は余裕すぎました〜
「お前との婚約は破棄だな。お前の上位互換がそばに居るというのに、俺クラスの人間がそちらを選択しないはずがない」
私は、偉そうさランキング国内一位と予想される某中堅貴族の長男、カルドにそう宣言された。
元々、私とカルドは政略結婚の予定だったから、もう婚約破棄は勝手にどうぞって感じだけど、ただ、お前の上位互換云々のところが流石に少々ムカつくかな。
まあ…私のそばに居る上位互換っていうのは、私の妹のことで、その妹がとても素晴らしい人間なら全然ムカつかないんだけどなあ…。
残念ながら驚くほど可愛いのに、呆れるレベルで性格が悪い。
とはいえ、なぜか性格の悪いもの同士って惹かれ合うこともありますからね、カルドの私の妹が互いに親しくしたいのであればそれでいいんじゃないですかね。
とはいえ、私の方にも本音がある。
まず、性格の悪い妹が容姿と要領でうまくやっていけてるのが納得いかないこと。
そして、素晴らしい恋をしたいということ。
ある意味、カルドに婚約破棄されたのは運がよかったって考えることができるわけ。
自由に、素晴らしい恋をしてみせますわよ!
そう意気込んでしばらく経ちましたけど、私が最近片思いしている男性は、全然私に興味がなさそうなのよね…。
その男性というのは、ツォードという名前の、貴族の天文学者だった。
まずさ、天文学者というのがロマンチックだと思いませんか?
星はとてもロマンチックなわけなので、それを調べている天文学者もロマンチックだと私は考えます。
それに、そもそもツォード、彼自身が、若い星のように輝く銀髪が美しい、眩しい存在。
まあ、あれね。
紹介していて思ったけど、片思いっていうか、私がファンみたいな存在って感じね…。まだかなり手前の段階…。
でもね、私がツォードと話す機会は、週に一回、コンスタントにあるの。
というのも、実は私が、ツォードから仕事を依頼されている。
どんな仕事かっていうと、天文関係の測定器の製作。
私の本業が何かって言えばぬいぐるみ職人。
正直天文関係の測定器とは全然違うと思うんだけど…と最初は思っていた。
最近は関連が深いのがよくわかる。
実は天体観測の測定器には、多くの糸が用いられるのだ。
そしてその糸を、歯車や部品に精巧に繋げなければならない。
だから私のぬいぐるみ職人としての技術が活かせるっていうわけ。
今日も、ツォードとの打ち合わせの予定が入っていた。
「こんにちは」
「……こんにちは。今まずいぞ。この歯車と歯車がうまく噛み合わなかったら、ここ数時間の作業が無駄になってしまう」
「あら、それは大変な瞬間じゃないの」
「そうなんだ。だから振動を与えずに、静かにしといてくれると助かる……」
「って言われると、鼻が痒くなってきた。これは……くしゃみが予想されている」
「なら一旦部屋の外に出るんだ。ほんと頼む」
「わかりましたあ……」
で部屋の外に出た瞬間めっちゃでかいくしゃみが出た。
大丈夫かな。部屋ごと振動させてないよね?
部屋に戻ると、ツォードがまだ歯車を見つめていた。
「なんか今ちょっとくしゃみで揺れたけど……」
「え、揺れたの? 外に出たのに?」
「まあ……でも歯車は大丈夫だった」
「よかった」
よくないかも。
外に出ても中を揺らすほどでかいくしゃみをする女の子可愛くないもんね。
あーあ。やっぱりツォードくんに女性として意識をしてもらうのは無理だな。
もう仕事の依頼先の人、それで固定になっちゃってるだろうなあ。
「……歯車が噛み合った! よし。……待たせて申し訳ない。打ち合わせをしよう」
「はいはい、ぜひお願いします」
「さっき歯車まで完成した、この装置を見てほしい」
「これは……なんか時計のように規則正しく動きそうね」
「実際、規則正しく動いてほしいが故に歯車を使ってるんだ」
「そうだったのね」
「星の動きを予測するために、一定の速度でゆっくり歯車を動かして、空のどの辺にいつなんの星がやってくるかを…このドーム状の木の板に書き込む」
「板に書き込んだ文字は消えるの?」
「そこなんだよ。チョークだから消えるんだけど、擦らないと消えないんだ」
「まさか…それを消す仕組みを糸で作るの?」
「そう。それをお願いしたいなと思って。もふもふした糸をドーム状の板のてっぺんから、板にくっつくように下ろしていって、そのまま一回転すればさ、板に書いた記録が一旦全部消せるでしょ?」
「イメージはなんとなくわいた。机上の空論ならできそうね。けどさ、そんな曲がった板に綺麗にくっつく素直な糸があるわけないでしょ」
「そうなの?」
「だってツォード。どんなにもふもふな糸でも、基本的に真下に垂れるのよ」
「ダメじゃん。君の裁縫技術でそこを乗り越えることも…」
「できません」
「うわー」
「ただし……」
「おおっ」
「一個試したいことがあるわ。それはね……静電気を使ってできないかっていうこと」
「静電気か。なるほど。頭が良すぎて感動している…」
やった! 頭が良すぎるって褒められた!
「で、静電気はどうやって発生させるんだろう」
「天文学者さんの方が詳しいんじゃないの?」
「確かに星同士の引力に事は似ているが…静電気はこすったりしないと出ないんじゃ…」
「そうね、だから外から何かをこすって、ドーム状の板に電気を帯びさせるのが一番シンプルな方法ね。まあとにかく一日その装置を貸してくれれば、お望みのものを作ってあげるわよ」
「助かりすぎる」
というわけで、私はツォードから装置を借りて持って帰ってきた。
……うん。よくよく考えたらさ、大きくミスったわね!
ツォードの部屋でコツコツ作業することにしていれば、たくさん……めちゃくちゃたくさんツォードと一緒にいれたのに、自分の家に持って帰ってきちゃった!
色々と下手すぎるのよ!
でも私には、乙女心以外にも職人魂的なのがあるので、当然のように一人で作業に取り掛かった。
そして、作業、ご飯、睡眠、を繰り返して……やっとできた!
ツォードに見せに行こう!
あ、引きこもってて身だしなみがやばいからもちろんそれを整えてから……。
「できたよツォード!」
「うおっ。すごい勢いで入ってきた」
「大丈夫。装置は柔らかいぬいぐるみを緩衝材にして、慎重に持ってきたから」
「助かる」
私は早速袋から装置を取り出してみせた。
「見ててね、ツォード」
「うん」
装置の歯車を回した。
カチカチと動き、ドーム状の板に、チョークで星の位置に印がつけられる。
そして…写真機がドームの印をしっかりと記録した後、板にフィットしたもふもふの糸がコンパスのように回転して、いたの印を消し去った。そしてまた、カチカチと歯車が動き出す。
「すごい」
「ちなみに、このもふもふの糸を外せば、印は消えないまま新たな印が付けられる。つまり星の軌跡がドームに描かれるってわけ」
「つまりモード切り替えができるってことか」
「そういうことよ。どう? これで星々の動きの計算がちゃんと記録できそうかしら?」
「完璧だね。早速今夜の星の状態に針を合わせ、先々まで星々の動きを予測する計算を始めるよ。本当にありがとう」
「流石天文学者のツォードね。ここからが本番だもんね」
とはいえ、私はむしろ依頼を受けている時がメイン。
ツォードが測定に集中している時は、一応週に一回は会ってはいるけど、大した話をせずに終わってしまう。
それが少し寂しいなと思う。
でも今回ちょっといつもと違う状況になった。
ある騒動が起きたのだ。
その騒動の存在は、次の週にツォードに会った時に教えてもらった。
「星占いのビジネス化ですって!? どういうことなのツォード」
「えーとね、要は星占いというのはエンタメなんだ。だけど本気でこうしなければならない、これをするとダメだ、などと脅して、それを達成するためにお金を使わせる占い師たちが現れ始めたらしいんだ」
「うわー、ひどい人たち」
「もしかしたら、天文学者としての論文執筆よりも先に、今回の騒動の対処に僕の装置が役立つかもしれない」
「え、もふもふ糸を私がつけたやつ?」
「うん。と、いうのも、きちんと星々の動きが予測できることを示せれば、占いの教えで脅される人も減るんじゃないかなと思うんだ」
「確かにそうね! それにしても、その星占いを使った詐欺をしている人たちは、一体どんな人たちなのかしら? ちゃんとした占い師ではないわよね?」
「どうやら最近占い師を名乗り始めた人たちらしくて、まだ正体もよくわかってない。やっと今、みんな警戒し始めたからどこかで大人しくしているのかも。でも脅すような内容の占い結果を告げられた人たちは、今もお金を使わされてると思うよ」
「本当にひどい……急いで星々の動きを予測してそれを発表してちょうだいよ」
「今もうすでに、装置を動かしっぱなしだよ」
「流石ね! ……私も装置が動いているところ、見守ってもいいかしら?」
「もちろん。でもお陰様で自動でどんどん記録できるから、退屈かもしれないけど……」
「ううん。退屈じゃないもん」
「本当に?」
「本当に。ただし! もしツォードが面白い星のお話をしてくれた場合ね」
「はあ……要は僕頼みか」
「いいじゃん。最近私、結構活躍してるでしょ? これからも活躍するためには、発想力とか、想像力が必要なのよ。星に関する興味深い話を聞けたら、想像力とか鍛えられると思うなあ……」
「わかったよ。じゃあ……ブラックホールの話をしよう」
「面白くない! 怖い! ホラー以外でお願いいたします!」
「わがままな注文だなあ。大体星っていうのはスケールが大きいんだから、細かいところまで話したら怖いものばっかりだよ。ほとんどの星は、もし近づいたとしたらすぐ僕たちがやられてしまうし」
「そっかあ……じゃあ伝説とか神話系で!」
「それは天文学者だからと言って詳しいわけではない」
「でもなんか知ってるのあるでしょう?」
「一応あるかな」
「じゃあそれで!」
「えーと、じゃあ50億年前のことです……」
「50億年前!?」
「そこに突っ込まれるとなかなか先に進めなさそう……」
「すみませんでした……」
「星を守っておいてほしいと、悪どい女神に頼まれた男がいました」
「登場時点で悪どいと判明してる女神……恐ろしいです」
「その女神は星の資源を独り占めするために、男を騙して守らせていたのです。そして、それからしばらくして、男は自身が悪事に加担していると気づきました」
「可哀想……」
「その男は、人生を悲観して空に旅立ち、夜空の星々を平等に守ることにしました。だから空の高いところを小さく周回している明るい星のことを騎士の星と呼ぶのです」
「騎士の星って聞いたことあるけど、そういう由来だったんだ!」
「そうなんだよ」
「でもあれね……私も詳しく聞いてない身であれだけど、ツォードの境遇と少し似ているわね」
「……そうだな。結構前のことだけどね」
「50億年よりは最近でしょう?」
「そりゃあもちろんだいぶ最近だよ」
そう。ツォードはかつて悪どい令嬢に利用されて研究をさせられていたことがある。
その時の令嬢は口が上手く、美貌も備えていて、ツォードと婚約の話まで出ていたらしい。
もっとも、私がツォードから最初の依頼を受けるよりも前の話で、その時私はツォードのことを知らなかった。
ツォードのことをいい人だなって思って片思いとかしてるのもその時よりはだいぶ最近の話。
だから私は噂レベルでしか聞いてない。
でも、とても許せない出来事だなと思う。
もしかして、その時の令嬢と、星占い悪徳ビジネスも、何か関係があるんじゃない?
とにかく、今も装置が真実の星々の動きの測定をしてくれているから、それを待つのみ。
私はツォードに良いよって言われたので、大胆にも夜遅くまで、私は彼の部屋にお邪魔したままだった。
「そろそろ百年先の予測まで記録が取れる頃だ。ここから先は流石に誤差が大きくなりすぎてしまうから、百年分の記録までにしようと思う」
「百年でもとてつもない時間だわ」
「早速記録の結果を、研究成果として大々的に発表しよう。そうすれば、占いに脅されている人たちも救われる」
「いよいよツォードの名が轟く時かもね」
「もちろん発表資料には君の名前も添えておくから、名が轟いたとしたら、君と一緒にだね」
「えっ。ありがとう。私も名が轟いちゃうかもなのは、楽しみね!」
そしていよいよツォードの測定の成果が正式に発表された。
最初から興味を示していたのは、主に天文マニアだったが、段々と国中に広まっていき、占いで脅しているのは全部でたらめで、悪質な詐欺だと皆気づき始めた。
そして、実際に占いを受けた人たちの証言が集まっていき、顔がほとんど隠れた占い師だったというのに、指の形、目の形、身長、体型などから三人の容疑者が割り出された。
「で、その三人のうち一人が、僕を昔騙して研究させた令嬢だったというわけだ。まあもうかなりお年寄りだけどね」
「マジですか!」
「君はここで驚いちゃダメでしょ」
「え、なんで?」
「それは、残りの二人の容疑者が、君の妹とその妹の夫だからだよ」
「ええっ。てことは、私を婚約破棄してきたあいつと、妹が……まあ性格は悪かったけど、そんな根っからの悪事に手を出すなんて……」
私が驚いていると、
「まあ、一応まだ容疑者だからね」
とツォードは冷静に忠告する。
私も一旦落ち着く。
でも詳しい調査を長々とやるまでもなく、どうやら証拠が出たみたいだ。
三人とも牢屋に入れられてしまった。
一応親族や友人が牢屋に入るのを見送ることができる機会があった。
そこで……私を婚約破棄したカルドと、私の上位互換こと妹は、情けない姿になっていた。
私に顔を向ける勇気もなく、ぼーっとしているだけだった。ただし、牢屋に向かって歩かされている。
真実を描き出すことが好きな天文学者のツォードに協力しただけで、結果的にいとも容易く復讐できてしまったのであった。
☆ ◯ ☆
そして……私は毎日ツォードと話せることになった。
だって、婚約したんですもの。
驚いたことに、ツォードの方から私に想いを伝えてくれた。
私に勇気がなかったのは置いといて、両想いだと分かった時、嬉しくて泣いてしまった。
そして今は……
なんだかんだで変わらずに。
ツォードと一緒に、星々の華麗なふるまいを探究している。
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