第2章 ー残香ー
ベッドに横たわり、浅い眠りの中にいた。
ふと、頭のあたりのクッションが、わずかに沈む。
誰かが腰を下ろしたような、そんな感覚だった。
まだ眠気が残っていて、意識を手放そうとする。
そのとき、今度は頭を撫でられた。
やさしく、何度も。
――そんなはずはないのに。
「起きなさい。朝よ」
聞き覚えのある声だった。
懐かしい、優しい声。
昔は少しだけ煩わしく感じていたはずなのに、
今は、その一言だけで胸が締めつけられる。
少女は勢いよく布団をはねのけた。
そこにいたのは――
「……お母さん……?」
枕元に、母が座っていた。
あの頃と同じ、穏やかな表情でこちらを見ている。
「なぁに、急に。いつもは起きないくせに」
何気ない、いつもの口調。
「……お母さん……お母さん!」
声が震えた。
涙が、止まらなかった。
「どうしたの?嫌な夢でも見ていたの?」
その言葉に、言い返せなかった。
夢なのは、どちらなのか分からなかったからだ。
視線を動かすと、ドアのそばに人影があった。
「そんなに怖い夢でも見たのか」
父だった。
いつものように歩み寄り、ベッドの横に腰を下ろす。
「大丈夫だよ」
その声を聞いた瞬間、
少女は二人に抱きついていた。
「お父さん……お母さん……」
確かめるように、強く、強く。
「大丈夫だ。ここにいる」
「安心して。私たちがいるもの」
その言葉が、あまりにも自然で、
あまりにも当たり前で。
――このままでいいと、思ってしまった。
全部が夢だったならいい。
この時間が続けばいい。
まだ、伝えたいことがある。
まだ、一緒にいたい。
そう思って、口を開こうとした瞬間――
目が覚めた。
そこには、誰もいなかった。
さっきまでの温もりは消え、
部屋は静寂に満ちていた。
「……お母さん……お父さん……」
声に出した瞬間、現実が形を持つ。
「……なんで、死んじゃったの……」
言葉と一緒に、涙がこぼれる。
抑えていたものが、崩れていく。
そのときだった。
――ピンポーン。
玄関のチャイムが、部屋に響いた。




