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第一章 ―消失―

幸せの時間は、一瞬で壊れる音がした。

それは水の中で聞いたように鈍く、遠く、現実感がなかった。


雨粒が頬を打っていたのか、

それとも誰かの手だったのか、もう思い出せない。


気づいたとき、少女は仰向けになっていた。

灰色の空から、雨がまっすぐ顔に落ちてくる。


誰かが名前を呼んでいた気がした。

けれど、その声が誰のものだったのかは、もう分からなかった。


——次に目を開けたとき、病院だった。


点滴に繋がれた状態で一人になり、孤独・寂しさに押しつぶされそうだった。


周りを見てもカーテンに囲まれており 言葉を発するのもさえ、しんどかった。

そんなとき、カーテンが開いた。

看護師の定期検診みたいだった。


名前が呼ばれたことはわかったが返事はできなかったが

私の顔を見た瞬間看護師の人の目が見開いたことはわかった。


「先生、患者さんが目を覚ましました、すぐきてください。」

「・・・さん大丈夫?ここは病院だよ。」

「安心してね。」

安堵したのかまた、眠りについてしまった。


次に目を覚ました時は鮮明に覚えている

機械の音が規則正しくなって 病院独特の消毒液の匂いが鼻を刺すようだった。

ただ、どこを見渡しても 家族の姿は、どこにもなかった。


どこにいったのだろうか。 事故の後どうなったのか考えるようになった。

時折、看護師・医者にお父さんは? お母さんはどこにいるの? と声をかけたが、

早く治そうねと 口裏を合わせたように穏やかにいうだけで終わってしまう。


二ヶ月後、退院を告げられた日。

診察室の空気は、目に見えないほど静かだった。


医師は、できるだけ短く、できるだけ優しい言葉を選んだ。


「……覚えているかな。あの事故のこと」


少女は、うなずくことも、首を振ることもできなかった。


「あなたのお父さんとお母さんは——助からなかった」


それ以上の言葉は、頭に入らなかった。

音だけが、遠くで鳴っていた。


家に戻ると、時間だけが進んでいた。


読みかけの新聞。

未開封の牛乳。

賞味期限の近い卵。


世界は続いている。

時間も止まっていない。

それなのに、家族だけが消えていた。


それが、ひどく残酷だった。


夜。

冷蔵庫の低い音と、時計の秒針が、家の中に響いていた。


それは「まだ生きている」という証明で、

同時に「誰もいない」という宣告のようだった。


少女は布団に潜り込む。


暗闇の中で、小さく名前を呼ぶ。


「……お母さん。お父さん」


返事はない。

分かりきっていることだった。


それでも、啜り泣きは止まらなかった。


誰でもいいから、誰か返事をして欲しい。

少女は、そんなことを思ってしまった。

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