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俺が歌姫、彼女は貴公子 〜男女逆転して配信始めました〜  作者: 乙希々


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8/9

ここからが本番ですよ。

 ◇


 ──あれから、数時間後。


「あ、いつきちゃん、私、予定を思い出しちゃいました、これで失礼しますねっ!」

「お、おい、ちょ……」


 二人で歩いている途中、久遠くおんはくるっと背を向け、あっという間に人ごみの中へと姿を消した。


「──っと待て、よ……」


 と、ファッションビルが立ち並ぶストリートのど真ん中に一人取り残され、空回りした右手は虚しく、俺は呆然と立ち尽くす。


「くそっ、なんて勝手な……」


 悪態をつきながら、ふと目の前のショーウインドに映る自分の姿に目がいく。


 ぱっつん前髪のショートボブ……というか、おかっぱ。もこもこしたコートにゆるふわニット、スカンツという名の、下がスウスウしないスカートに厚底ブーツ──、


(って、誰だよおい!? 女子だ、女子っ! 気づかず着ちゃう俺も俺だが……)


 思わず、頭をわしゃわしゃとかき乱す。当然、鏡の中の女の子、いや、自分も同じ動作。この姿では見苦しいことこの上ない。


 とりあえず、乱れた髪を手ぐしで元通りにしてから一呼吸。スマホを取り出し、画面をタップ。時刻を確認し、一気に顔が青ざめた。


(──やばっ、大学……、マジでギリギリだ。早く行かなきゃ……でも、この格好で? それはさすがに──)


 上はまだ許せる。だが下はまずい。元の服に戻そうと、紙袋を……って、持ってない。買い物の途中、どっかの店に忘れてきたらしい。


 探すに戻る時間はないし、ズボンを買う金も……ない。お約束かよ。


 てか、ホントどうする……。


 今日の講義は諦めて……いや、出ないと単位がヤバい。留年するかも?


 ああもうっ、と俺はそのまま駅へと向かった。




(……くそっ、歩きにくい──)


 急ぎ足で歩くたび、スカートもどきの長い裾が足にまとわりついて鬱陶しい。周りの視線も気になるし、って言っても、誰も俺のことなんて見てないだろうと、無理やり自分に言い聞かせ、改札口を抜ける。


 羞恥心にさいなまれながら電車を乗り継ぎ、どうにかこうにか大学前に到着。


 慣れない厚底靴に何度も足を取られつつ、見慣れた校舎が視界に入った瞬間、どっと疲れが押し寄せた。


 しかし、ここからが最難関。


 こんな女装フル装備で、教授、その他大勢が待ち構える講堂に突入せねばならない。


 できるだけ気配を消し、なるべく人と目を合わせず早足に歩く。普段は気にも止めなかったざわめきが、やけに耳につく。


 幸いなことに、「よお、水瀬」なんて気安く声をかけてくる友人は皆無。これこそコミュ障の特権。悲しいけど。


 講堂では、出口に近い席を確保。出席は学生証をリーダーにかざすだけなので、難なくクリアー。ってことで、このまま退散したいところだけど、せっかく苦労してここまで来たし、このまま講義を受けて……大丈夫? でもまあ以外といけるかも、知れん。


 とことん地味な女子大生を装いつつ、テキストを出して……って、ない。そもそもカバンすら持ってきてない。てか、一体何しにここまで来たんだ。なにもかも、久遠が悪い。


 そんなとき、だった。


「何かお困りですか?」


 突然の優しい声に、俺はビクッと肩を震わせ、恐る恐る隣を振り向く。


 すると、野暮ったい黒縁メガネ姿の女子が机に頬杖をつき、こっちを見てた。


「い、いえ、何も……」


 咄嗟に目を逸らす。


 ……が。


「嘘は、いけませんね〜」


 その子が、スーとメガネを外し。


 ……っておい、まさか。


「ふふっ、その慌てよう、最高に面白いです。さあ、樹ちゃん、ここからが本番ですよ」


 と、如月久遠がニコッと笑う。


「──はぁ!?」

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