なに逆ギレしてんの!?
「樹ちゃん、素敵です、凄く似合ってます!」
「そ、そう?」
俺は耳の横でふわりと揺れる、軽くなった髪を指先でつまみながら。
「でも、なんかさ、女子っぽい気がするけど、変じゃないか?」
「変じゃないです。むしろかっこいいですよ?」
久遠の視線が、なぜか泳いでいた……が、会計を済ませてくれた手前、これ以上突っ込めない。
さっき美容室の大きな鏡で見た、耳やうなじが切り揃えられたヘアスタイル。たしかにすっきりしている、けれど、どうも腑に落ちない。俺の気のせい?
久遠は俺の様子をチラリと見て、すぐに目を逸らした。怪しい。
やっぱ、こいつ何か企んでいそうなので。
「じゃ、じゃあ、今日はありがとな、バンドの件は、後でゆっくり話し合うってことで」
「待ってください、せっかく髪も可愛くなったんですから、お洋服も新調しましょう」
にこりと微笑む久遠。逃げる隙を与えない、そのクールな笑顔が怖い。
「い、いや、別にいいってこのまんまで……ちょちょ、ちょっと、やめろって──」
有無も言わせず、俺のひ弱な右手首は久遠にがっしりと掴まれた。
◇
「──ほら、このニット、樹ちゃんにぴったりです」
「にっと? そ、そうか? なんか俺にはブカブカじゃ……」
「それがいいんです、あえての、オーバーサイズ(ボソッ、かわいい)」
「え? なんか言ったか?」
「いえ、なんでも。そういうのが流行りなんです」
「あー、このボトムス、かわ……、いえ、かっこいいです」
「え? てか、これってスカートじゃ……」
「違います。これは「スカンツ」といってれっきとしたズボンです。ほら、ちゃんと両足がわかれているでしょ? 最近の男の子に大人気なアイテムです」
「へ、へえ。俺、ファッションとかよくわからなくてさ」
「この帽子かわいい……いえいえ、今の樹ちゃんに凄く似合うと思います」
「あ、うん……?」
という感じで、店のあちこちを引っ張り回され、気づけば昼時。カフェの席で俺は、見慣れない服装で身を縮めていた。
「……なあ、久遠」
「え、なんですか? もしかして私のハンバーグ、欲しかったりします? もうしょうがないですね〜少しだけですよ、あ~ん♡」
「あ~ん♡、じゃねーよ、この格好、どう見たって女子の格好だろっ!?」
ちなみに、さっきまで着ていたデニムやらシャツは雑に紙袋の中に丸められていたりする。せめての抵抗で、唯一死守したジャンパーだけは羽織っているが、下半身だけはどうにもならない。このスカンツなるボトムス? は、腰から足首までを布で覆うだけの、下がスウスウしないだけで、やっぱスカートじゃん。
「って久遠、さっきから俺をからかってない?」
「まさか、私は至って真面目です」
「真面目って、お前な……」
出会った当初から、久遠は俺に対し、なぜか女扱いしていたけど、さすがに今日のはやり過ぎ。男の俺に女子の格好をさせて何が楽しいんだか。
「ところで樹ちゃん」
「な、なに?」
気がつけば、久遠が俺の顔をジトーと見つめていた。オレンジジュースをストローでちゅうちゅう吸いながら。
「……普段はどこのコスメブランドを使ってます?」
「はあ? そんなの使ってるわけねぇだろ」
突然、何を言い出すかと思えば、もういい加減にしろ。
「(まさかのノーメイクですか、ああそうですか、ブツブツ)」
「おい、今なんか言ったか?」
「いえいえ、なんでもありません。では、ご飯を食べ終わったら、次はアウターと靴ですね、樹ちゃん覚悟をしておいてください」
「ちょ、なんでだよ!? つうか久遠、なに逆ギレしてんの!?」




