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俺が歌姫、彼女は貴公子 〜男女逆転して配信始めました〜  作者: 乙希々


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5/9

チェンジ

 人生初デート、と称したカラオケワンマンショーから翌日。またりもせず、俺は如月久遠きさらぎくおんと会っていた。


 で、今日。


「じゃあ、いつきちゃん。早速始めちゃいましょう」

「あ、はい。つうか、始めるって、なにを?」

「バンド演奏を、です」

「いや、まあ、そうなんだろうけど……」


 夕方、久遠に電話で呼び出され、俺が強引に連れてこられたのは、ドラムセットやアンプ、ギターが並んだ防音室──まぁ、よくある時間制のレンタルスタジオだった。ちなみに前のバンドで使っていたところよりも料金が高く、一時間、三千円(税抜)もする。


 頭の中で財布の中身を数えながら、まじまじと料金表を眺めていたら、久遠がニコッと笑い。


「えーと、料金は気にしないでくださいね、ここは全部私が持っちゃいますから」

「えっ、マジ?」

「うんうん、マジですね〜」


 正直助かる。今月の仕送りも心許ないし、バンドばかりで、バイトもろくにしてこなかったし。


「で、でもさ、なんだか悪い。というか、久遠ってもしかして、金持ち? まさか、どこかのお嬢様だったりして……」


 黒髪ロングに加えて、今日着ているのも英国風? ワンピだし、特に相手を振り回すさまは、わがままお嬢様そのものだ。


「えーと、い、いえ、ごく普通の、一般家庭育ち、ですね、お父さんはただの公務員ですし、お母さんは専業主婦、です」

「そ、そうか?」

「ただ、うちの姉様、じゃなくて姉が……少々特殊な趣味の方で、私がショタ」

「ん、しょた?」

「い、いえいえ、かわい……あの、男の子とバンドを組むと告げたら、それは快くスポンサーになっていただきまして、そのぉ……じゃなくて……さ、さあ、時間がもったいないですっ、と、とりあえず、音合わせだけでもしちゃいましょう、ね、ね!」


 と、少々言動がおかしい久遠は、バタバタとマイクスタンドを立て、慣れた手つきで、スピーカーの向きを調整し始めた。


 何だかに落ちないけれど「それもそうか」と、無理やり納得し、俺はスタンドに立て掛けられていた目当てのギターを取り、コードをアンプに差し込む。


(……憧れのレスポール(ちょっと昔のバンドアニメで主人公の女子高生が愛用するギター)。一度はいてみたかったんだよな──)


 ずっしりとした重みを、肩にかけたストラップ越しに感じつつ、久遠の隣に並んだ。今更ながら身長差がキツい。もしこれが男女逆だったら、どれほど良かったか。


「じゃ、じゃあ、なんか適当に演ってみるか?」


 そう言葉を絞り出すと、彼女は口角をニヤリと吊り上げ「ですね〜」と、俺に日本の有名な音楽ユニットのバンドスコアを手渡してきた。


「……って、マジでこれ演んの?」

「はい♡ 当然、天才ギタリストの樹ちゃんなら、楽勝ですよね?」

「……っ、うん……いやまぁ、大丈夫」


 どこからどう見ても難易度激高の譜面を見て、内心泣きそうになってる。こんなの初見で弾けるかよ。


 それでも言った手前、引っ込みがつかなくなった。クールを装いピックを弦に当てる。


 久遠は楽しそうに、楽譜も持たずにマイクの前に立つ。その余裕な表情が、いっそう俺の焦りをあおる。


(えーい、この性悪女!)


 心の中で悪態をつきながら、それでもクールを装ってギターを構える。とはいえ、弾けないものは弾けない。だからできるだけ曲に合わせて簡単なコードを刻む。いちおう曲の形には、なっている……と思う。


「あれれ、樹ちゃん、レスポールが悲しがってますよ〜」

「う、うるせぇよ、ほら、とっとと歌えよ」


「もう仕方がないですね」と、久遠は曲に合わせて歌い出す。


「♪」


 さすがは元ボーカリスト、安定した音程とリズム感で喉の奥を震わせ、歌い上げる。


(……こいつ、昨日のカラオケでは俺ばかりに歌わせて、結局一曲も歌わなかった癖に、どんなもんかと思えば、普通に上手いじゃん。……でも、グッとくるもんがない。良くも悪くも、教科書どおりの歌い方──)


 一曲を終えた。


 結局、俺はエレキギターのリフを最後まで弾かず……というか弾けず、コードをかき鳴らすだけで終わった。これなら格好つけてレスポールなど持たず、アコギでも良かったような? と思わなくもない。


「じゃ、じゃあ次いく? できれば俺が得意な曲をリクエストしたいんだけど……」


 俺が言うと、久遠は「そうですね〜」と、わざとらしく天井を仰ぎ。


「いえ、もう一度、今の曲をやりましょう」

「はあ? もういいじゃん、ほ、他の曲にしようぜ」

「いえいえ、今度は趣向を変えまして──」


 にっと、唇をニンマリ。


「パートをチェンジしちゃいましょう」

「え、パートをチェンジって、まさか……」


 そして、俺をまっすぐ見つめた。


「はい、次は樹ちゃんがボーカルで、私がギターです」

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