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俺が歌姫、彼女は貴公子 〜男女逆転して配信始めました〜  作者: 乙希々


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4/9

カラオケデート?

 ──あれから、ぐだぐだ押し問答の末、俺は結局「デート」という甘い言葉に流され、久遠くおんと二人で街に出た。


 バスの座席でも「うー、いつきちゃんのメイク、今回は叶わず〜でしたが、次回こそ」とブツブツ怖いことを言っていた久遠だが、バスを降りるなり俺の手のひら……じゃなくて、右手首をガシッとつかみ、カップルの列で溢れかえる映画館や、デートで定番のプリクラやクレーンゲームのゲームセンターを華麗にスルーし。


「樹ちゃん、ここは最新設備が整っていてオススメなんです。さあ入りましょう!」

「え、え、なんでいきなりカラオケ? 普通、映画とかカフェとかじゃ……」

「あ、2名です、あとフリータイムでお願いしますっ」「おいっ!」


 真っ昼間のカラオケボックスに引きずり込んでいく。


(……まあ、世の中にはカラオケ《《デート》》という言葉もあるしな)


 と、無理やり納得したはいいが、昨日のファミレスと同様、狭い個室で女子と二人きりのシチュエーションに心臓をドクンドクンさせながら、俺はすでに二人分の飲み物やポテト、ピザ(パーティーサイズってマジか!?)を勝手に注文している久遠の横顔をちらりと見た。


 楽しげにタッチパネルをポチポチする久遠。早速なにか歌うらしい。


(まあ、元ボーカルだしな、歌ってなんぼだ。ここは女子らしく、YOAS◯BIとか◯doあたりか?)


 そんなことを考えていると、久遠は画面から顔を上げ、俺にマイクを差し出してきた。


「はい、樹ちゃん」

「はいってなにが?」


 疑問視する俺に、久遠はにこりと笑い。


「《《元》》ボーカリストは歌ってなんぼですけど、ここは一つ、《《元》》ギターリストの樹ちゃんから歌ってもらいます」


(おい、勝手に決めんな、つか、人の心を読むな、あと元ギターリストってなんだよ、俺は今でも現役、それに久遠だってまだ──ってマジか!?)


 照明が回る薄暗い部屋のなか、大音量でモニターから流れてくるのは、俺が昔見ていたアニメ、それもカラオケで定番なテレビ版の主題歌じゃなくて、ちょっとマイナーな劇場版の曲。変調が激しくやたらキーも高い。つまりベテラン女性シンガーが歌う難易度激高アニソン。


「どうです? 歌えます?」

「歌えな……いや、とりあえず原曲のキーを下げ」

「ぶーだめです、そのままでっちゃってください」

「いっちゃってイの字絶対違うだろっ!? あー、もうっ!」


 もう曲も始まってるし、観念して重たいマイクを握りしめた。別に、ライブで歌うわけじゃない。たかがカラオケだし。


 前半の滑り出しは、意外なほどスムーズにいった。いきなり女性ボーカリスト特有の突きつけるような高音。だが俺は小中学生の合唱で、なぜか女子に混ざってソプラノパートを歌っていた黒歴史……じゃなかった、経験がある。そのおかげか、難なくクリアーできた。


 続いてAメロ。曲が激しくなりリズムが取りづらい。それでも前のバンドでコーラスをしていたのが幸いした。下手くそなボーカルに合わせる苦労に比べればなんてことはない。


 そして、最大の山場となるサビ。


 高音キーと波打つような激しいリズムが混ざり合ってもうやけくそ。


 前のめりでマイクに叫ぶ。


 叫ぶ、叫ぶ、叫んでえる、吠えて叫んで思い切り喉の奥から声を絞り出した──、


「ハァハァ……」


 最後まで歌い切り、俺はマイクを久遠に突きつける。


「……さ、さあどうだ。次は久遠の番だからな、思い切りキーが高い曲を選んで──」


 すると久遠は、俺からマイクを受け取らず、口をぼーっと開けていたかと思えば、急にキラキラした目でこちらを見て。


「す、凄いです……やはり私の目に狂いはなかった、みたいです」 

「へ、なにが? いやだから、次は久遠が歌う番で」「ではでは、次の曲に行きますね。私が大好きな魔法少女アニメの〜、ダークとポップどっちがいいですか? 両方とも難易度SSクラスです♪」

「どっちも歌わないからっ!」


 こうして、俺の人生初デート? は、久遠の無茶振りに俺が歌い続けるという、まさに一人カラオケの無限地獄と化したのだった。

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