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笑顔が気に食わないから婚約破棄?受けて立つ!

作者: 犬とサルサ
掲載日:2025/10/24

「血が沸騰する」という瞬間はこういう事か、と俯瞰している自分と、そして「堪えろ今じゃない」と律している自分の間で、私はどうにかこの(バカ)の前に笑顔で立っていた。


「笑ってればいいと思いやがっていいかげんにしろよ!」


(バカ)がピンクブロンドの売女のような女を侍らせながら宣う。

残念ながら、この(バカ)は私の婚約者であり、年が明ければ結婚式を上げる予定だった野郎である。


が、今しがた破断になった。


「俺は!お前とは絶対に!!!結婚しない!!!」



バカが。


「いつもヘラヘラ笑って『仕事が迫っておりまして』とかすかしやがって俺の言う事も聞かないで…」


その後のセリフはもう耳に入っていないが、大体は「俺を立てない」「女のくせに仕事ばかりで」等婚約開始から言われてきたセオリーなお話だろう。

領主代行として仕事で1ヶ月以上婚約者に合わない日々が続いていたので、そろそろ不味いかと思って呼び出されたカフェテリアに来てみれば隣に女を侍らせた婚約者バカが居てこのザマである。

貴族街の一等地にあるカフェテリア。周りは全員顔見知り。皆様、そろりそろりとこちらの顔色を伺いながら腰を上げて退店していく。

明日には貴族界に隅々まで浸透していることであろう。どんな刑罰だ。



どうしようかなー。このカフェテリアのオープンエリアでのこの珍事…。

絶対お店に迷惑掛かってるもんなー…。あ。スタッフが店長呼びに行ったわ…これは終わったなぁ…。婚約者(バカ)が。


「聞いてるのかアン!」


「…ダルシマー公爵子息。結婚を破談なさるなら、私の事は家名で呼んでいただけません?」


笑顔を止め、口に扇子を当てて、不快であると目で射抜き殺すように睨みながら、私は続ける。


「入り婿であるにも関わらず一切我が公爵家の仕来りも仕事も習おうとしない。そのような方でもダルシマー公爵様と公爵夫人がどうしてもと頭を下げて頼み付けるのでし・か・た・な・く!婚約を続けていればこのザマ。」


すっと隣を見やると、ピンクブロンドの売女は「話が違う」とばかりに絡めていた腕を外し、少しづつリーチを取り出す。

ほう、逃げ出す気か貴様。


「お名前は方々で伺っておりましてよ。ギザット男爵令嬢ミサ様。」


ギシリ、とミサは体を強張らせ「え、えっと…?」と小首をかしげる。そうかそうか。そのあざとい仕草でこのバカを籠絡したか。


「大方『俺は王家にも名が売れた男なのに、大したことのない女と結婚させられそうなんだ』くらいの事を言われて『まぁお可哀想私ならマリオ様の事をもり立てて見せれますのに』みたいな事をのたもうたのでしょうけれども」


二人とも、ポカーンとしながらこちらを呆然と見つめているが、多分当たっているのだろう。青くなってみたり赤くなってみたり顔が面白おかしい色になってきている。いいぞ、その調子だ。


騒ぎを聞きつけた店長が更に上層を呼びに行きだした、そう。ここは「うちの一族」が経営するカフェテリアだから。

こんな場所でよくもまあ、浮気女を連れてきて婚約破棄を突きつけようなどと思うものだ。バカの思考は全くわからない。


「王家に入り婿と紹介したのは事実です。『ティーブライド公爵家にいずれ名を連ねるもの』として貴方は王家に招かれ、名前を認知されている。そうでございませんか?ダルシマー公爵子息。」


「なにをいう!…確かに入り始めはそうであろうが、俺は俺の実力で第二王子の側近として…!」


「第二王子のお母様…ミリー王后様は我がティーブライドの血の流れの方。入り婿ながら気にかけていただけるのは当然の事。まぁ、それも今日まででしょうけれども」


バカはそれを今思い出しました、みたいな鳩が豆鉄砲食らったような馬鹿面をしてこちらを見ている。

最初の勢いはどうした、鳩豆(言い方)


「婚約破棄の件、然と承りましたわ」


「ま、まて!婚約破棄などとは言っていない!結婚しないと言っただけで…」


「同義でございましょう?それともなんですか。賠償が惜しくなりましたか?」


「ば、賠償????」


「左様でございます。ギザット男爵令嬢にも合わせて賠償請求がなされると思いますれば、それが惜しくなったのかと」


「え?私も?…なんで?」


とびっくりした顔で口を両手で抑え涙目になるなど、まだあざとさを捨てない根性は買いたい所だが、残念ながらお前もだ、売女。


そうこうしている間に、カフェテリアの入口には我が家の家紋が入った馬車が入ってきたようである。

窓から見れば、我が家の中でも一等良い馬脚を誇る8本足のスレイプニルを2頭も携えて来たようで、気合の入ようが垣間見れる。


「賠償など…!私たちがなぜそんなものを払わねばならんのだ!結婚しないと言っただけではないか!」


「話にならんな」


声を聞いた瞬間、私は最上位のカーテシーを行う。


「アンルシア、楽にして良い」


「ありがとう存じます。王太子殿下」


「お、王太子殿下!!!!」


「誰が貴様に声を発して良いと言った。控えよ!」


王太子殿下に続いて父が入ってくるなり残りのバカ二人に厳命した。額には汗びっしょりである。政務中にあわてて来てくれたんだなぁ…父上。


バカ二人が慌てて膝折礼を取ると、父が鼻息荒く、マリオの前に立った。


「我が家も…我が娘も舐められたものよな」


父は周りを見渡すと、店長に目配せをし、もう一度マリオを見やる。

多分店長は憲兵なり、領兵なりを呼びに行ったのだろう。素早い。


「お前の父は如才ない良き友人であるというのに、息子の育て方だけはなってなかったようだな。いや、家督を次ぐスチュアート君は出来た人柄であるから、貴様の生来から来る腐りきった物なのだろうな。」


父はあけすけもなく言い放ち、後ろでは王太子が苦笑いしている。


「わ、私…だ、騙されて…」


膝折礼から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだミサが両手を胸に当ててほろほろと大粒の涙をこぼしながら上目遣いで王太子を見上げている。

うーん、女優になったら良いと思う。


「ギザット男爵令嬢。貴方に発言は許していない。もう一度いう。控えよ」


「あ…」


父の覇気に真っ青になりながらそれでも王太子にすがろうとするミサ。しかし王太子が一瞥もくれず私を見つめている。


「アンルシア嬢、貴女の事だから大丈夫だろうとは思ったけれども…居てもたっても居られなくてね」


王太子も第二王子も同じ母であらせられるから私達一族とは昔ながらの付き合いである。


「マリオよ。君が何故、私ではなく第二王子の側近であったのか考えたことはあるか」


「は…?…恐れながら…いずれ王太子のお側に仕えるため…第二王子の元で研鑽を積み…」


「違うよ」


マリオが話している最中だが、王太子は話をぶった切った。


「第二王子がお前の首を刎ねる機会を伺って側に置いているだけだ。弟はお前が公爵家に居ても王家に居てもやらかすなら、王家の監視下にあったほうが良いだろうというからな。」


「く、くび…?」


王太子は冷ややかな目で言葉を続ける。


「お前が、そこの男爵令嬢に第二王子近辺の有ること無いことをすべて話してしまっているのは影の調査で調べ済みだ」


「当たり前だが、側近は常に情報漏えいをしないか、スパイ活動を行っていないかなど厳しく監視されている」


王太子と父に言われ、そんなこと初めて知りましたみたいな顔をしながら、マリオは俯いて震えている。


「そこの男爵令嬢が下位の者が主催するお茶会で更に余計なことをべらべらと話し、こちらに苦情が上がり始めていたのでそろそろお前らを切らねばならぬとは思っていたのだがな」


父が更に覇気を強め、ミサがとうとう失神した。多分、床が濡れているので失禁もしていると思われ。きたないなぁ…。


「お前に与えた情報など、大したことはない。弟がそういうふうに情報操作するよう伝えていたからな。お前は側近だと信じていただろうが、ただただ、弟にテストされ、ふるい落とされたゴミにしか過ぎん。」


そう。第二王子は兄である王太子が大好きすぎるし、私達一族が大好きすぎるきらいがある。

前々から私の入り婿になる予定だったマリオが気に食わないと、ずっとマリオがボロを出すのを待っていたのだ。

まあ、待つまでもなく今ここで破滅したわけだが。


「わ、私はアンの夫になる男ですよ…!そんな私を疑っていたというのですか!?」


失神したミサを部下たちが担架に乗せて運び出している横で、マリオは涙と鼻水をとうとうと垂らしながら泣き叫んでいる。



「当たり前だ。アンルシアが我慢強くお前の事を庇い立てていたから様子を見ていただけで、こちらはいつでもお前を切る準備が出来ていた。」


「庇いたてるなど…私本当に仕事が忙しくて…」


こいつの事を考えている余裕など無かったのだと言いかけたが、咳をして言い直す。


「父上、王太子殿下…この度は『躾しきれなくて』申し訳ありませんでしたわ」


「し、しつけ…だと…!!!この俺を…貴様!!!!」



涙と鼻水だらけの顔を起こしてこちらを睨みつけてきたので、ガン!とヒールを鳴らし、ニッコリと笑いながら覇気をあらわにする。


「黙れ?」


「ひっ!」


「入り婿とはいえ、ダルシマー公爵様には良くしていただき、お互い交流も有る間柄。子さえ授かれば断種し公爵様の許可をもらった上で放逐しようと思っていただけ。それを売女と繋がりよくもまぁ王家に泥を塗って…」


前々から私の計画を聞かされていた王太子も父も、うんうん頷いている。


「ただで済むわけがなかろうが、ゴミが!」


ガン、と更にヒールを鳴らす。

私のヒール、硬めの鉱物で出来てるのでいい音するのよねぇ。え?勿論自己防衛のためですけど…?


「ダルシマー公爵ご一家には累が及ばない程度ではありますが、貴方にはしっかり賠償を請求させていただきますわ」


いいですわね?とにっこり笑ってマリオを見た。


過去一の笑顔である。喜べ、お前の大嫌いな笑顔だぞ。





その後、私の怒気を孕んだ笑顔への恐怖で脱糞までしたバカは同じく担架に乗せられて運ばれていった。

運ばれていった先は、王家が管轄する…というと聞こえは良いが、旨味もゼロ、危険性は無いものの離島すぎて誰も管轄する気がなく、しかしながら放置されても困る離島の灯台守のお目付けである。

喉を潰され、断種もされての離島ぐらしなので灯台守の老人とほそぼそ暮らすしかない。

そのまま、代交代になり、彼が灯台守になる日も来るだろう。


ダルシマー公爵家には概要は大雑把に伝えてあったので「煮るなり焼くなり」と心からの謝罪と少なくない賠償金と王家への寄付がなされた。

公爵様は疲弊し、早々に世代交代なさるご予定らしいし、長男のスチュアート様はマリオを心のそこから毛嫌いしているので、実家に出戻る目も潰えた。

ミサはそもそもギザット男爵家の中でも問題児扱いされていたらしく、賠償金を払いたくない男爵家はミサを早々に売り飛ばした。

どこ、とは言わないが、かなり劣悪な場所に高値で売り飛ばし、そのお金を丸々とこちらに寄越し、領地に引っ込んでいった。

当分、王家にも下位の貴族界でも爪弾きにされるだろうことは本人たちもわかっているだろう。

領地経営に力を注ぐことでその苦難を越えようとしているのだと推察する。




で、私といえば。




「だから僕にしとけばいいのに」


第二王子が私の執務室に勝手に上がり込んで、なんなら勝手にソファーに寝転がりながらこちらにぼやいている。


「いや、もとはと言えば殿下がマリオをお抱えしなければ、あのバカはここまで転がり落ちなかったのでは…?」


私は、領地の書類に目を向けながら第二王子に答える。

そもそも、こちらは婚約者として王家に紹介しただけで、後は家でバカはバカなりに使いどころがあるかな、と思っていた位である。

使えなかったら種だけ貰って断種して放逐…あ、ここらへんはさっきと同じか。まぁ、そんな感じで処していいって家族内で解釈一致してたのにだ。

それを第二王子が側近にと打診したから、あのバカは調子に乗って領地の仕事をこちらに丸投げし、ただただ王家に遊びに行って情報漏洩した大馬鹿者に成り下がったのである。

こちらも、なんならマリオも実際のところ第二王子の手のひらの上で転がされていた気がする。


「だって。僕がアンルシアと結婚したかったんだもん。」


だもん、というところで私の筆は止まる。

この、いい歳こいた第二王子が可愛子ぶりっ子して駄々をこねた発言をして何が可愛かろうか。


「世迷言ばかりおっしゃって…。」


私が正論で話を続けようとすると第二王子が言葉を続ける


「兄上はもう、体の細い少年ではないし、私もスペアではなくて良いだろう。」


そう。王太子は幼い頃から少し体が弱く、心配されていた。病弱というほどではないが、念の為の保険としていつも第二王子が控えていて、幼い頃結婚を意識したことはないわけではないが、無理だと早々に諦めて婚約者を各々探すことにしたのである。

とはいえ、今ではかなり立派な体躯だし、私の父や現王とスレイプニルに跨り鹿狩りに行ってしまっては王妃、うちの母と王太子妃3人に正座させられ雷を落とされる程度には健康そのものである。

さらに王太子妃のお体には今、次の光になられる方が居られることが判明したばかりである。

もっと言えば、私との結婚を諦めきれなかったのか第二王子はずっと独身で婚約者も作らずのらりくらりといい加減に生きていたのである。


「血が濃いとはいえ、母上は公爵の又従姉妹。それに、これでティーブライドにばかり権力が傾く、などという家は義姉上が黙らせるさ」


ティーブライトと双璧をなす公爵家の出である王太子妃は私達と仲が良い訳では無いが、ダルシマー公爵家とタッグを組まれるよりかは第二王子を差し出して我が子の地位を確たるものにし、自分が奥の実権を早々に握ったほうが早いと考えていそうではある。


しかも、まぁ多分…私の執務室にこのように転がり込めるほど、第二王子は父の了承も得てあとは本丸を落とせば良いとなっているのであろう。

父の政略も王家の思惑もよく分かるだけに、それらすべてを飲み込んでも第二王子への怒りが湧いて出る。


「殿下」


ゆっくり椅子から立ち上がり、ソファーの前に移動する。


「アンルシア、名前で呼んでよ…」


「殿下。私は、()()()()怒っておりますのよ。」


にっこり笑って王子を見やると、第二王子はしゅっとソファーに正座した。


そう。私の笑顔は、いつも怒っているとき、余計な事をしやがって…とブチギレる寸前のときに自分を止めるために笑っている。

マリオが『いつもニヤニヤして』と言っていたのはまさしくである。怒っているときほど笑って敬語で話していたほうがいい。ブチギレる気持ちがだいぶん落ち着くし、なにより馬鹿に付ける薬は無いと一笑に付した格好になるからだ。


親近者や近しいものほどそれを熟知し「アンルシアの笑顔ほど怖いものはない」と怯えている。…殿下のように。


「私になにか言うことがあるのではないですか?根回しをし、婚約者であったマリオを蹴落とし、家族や王家を説き伏せた後に私と婚約したい…自分と結婚すればいいとおっしゃるのは、順番が違うでしょう?」


完全に怒気を孕んだ笑顔はマリオに向けた笑顔の再来かのようである。


「じゅ、じゅんばん」


「そうです。貴方は、一体私と()()()()()()のです?」


「どうなりたいって、だからけっこん…」


「種だけ貰って放逐するような婚姻関係でよろしいと?」


「そんな!それじゃマリオと同じじゃないか!!違う、僕は…!」


そう言ってハッと顔を上げて、そして第二王子は真っ赤な顔で土下座した。ソファーの上で、であるが。


「アンルシア!君が好きなんだ!!!!お願いします!!!!!僕と結婚してください!!!!!」


「はい。末永く…クリフト様。」


「アンー!!!!!」


半泣きで私の腰に抱きつく、この情けない策士王子を、今度こそ躾けながら家をもり立てていこうと思います!(にっこり)

前に作ったアカウントが飛んでしまい、新たに作り直すことにしました。

なんとなくの勢いで書いてしまいましたので、多少のお目溢しを頂戴できればと思っております。


笑顔で説教されるほど怖いものはないですよね(正座

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