0.1秒間の思考
「先輩、好きです!付き合ってください!」
……どうしようか。
全ての始まりは1時間前、卒業式が終わってなんとなくロッカーを開けてみたら、一枚の紙が入っていた。
どうしても言いたいことがあります。桜の木の下で待ってます。
簡素な白い便箋に一行、名前もなくそう書かれていたのだ。たちの悪いいたずらだと思ったが、無視するのもなんとなく気になるので、来てみたらこの状況。何、ここは少女漫画ですか?
とりあえず。彼女が誰なのかを聞くことが多分必須なのはわかる。名前も知らない相手に可否も何も言えない。「君、誰?」だと流石に強いだろうか。敬語にする必要は、少なくとも先輩と言っているのだから同級生ではないし、大丈夫だろう。というか同級生だったら流石に顔を見てわかる……いや、そこまで自信ないけど。だったら「ごめん、とりあえず名前聞いてもいい?」とかだろうか。あ、でもこのごめんを「付き合えません」の意味で取られると面倒…?いや、どうなんだろう。逆にさっぱりしてていいのかな。にしてもこの顔すごい見た事あるんだよな……
あ!やばい、この子部活の一年生のマネージャーじゃん、確か。引退した後に入ったから完全に記憶から抜けてた。うわ、それじゃ「誰?」はダメだわ。名前も絶対聞いたはずなんだよね、えっと……そうそう、ナカタ。ナカタ…ヒナミとかだったと思うけど…あれ、ナナミだっけ。無理だ、わからん。というか、てことはあの後ろにいるのは二年のマネージャーのニシとヒガシだよなあ。
そっか、そういうことか。これニシの嫌がらせか罰ゲームかなんかだ、多分。ニシは俺達には良いマネージャーだったけど、あんまりいい噂聞かないしなあ…ってことは、これは本気で相手にすると逆にナカタに迷惑がかかる可能性もあるってことか。つまり「ごめん。気持ちは嬉しいよ、これからも部活をよろしくね」とかがさっぱりしてて無難かな。そうするか。
…待てよ、それでニシの気が収まらない方がよりナカタに迷惑がかかるんじゃないのか?じゃあなんか持って帰って話題にできる感じにした方が良いってことだろうか。話題にできることってなんだ?せっかくの桜だし一句読むとか?なんだっけ最近聞いた気がするあれ…初桜……なんかなんとかなんかなり、みたいなやつ。駄目だ、先輩としての威厳がない。じゃあいっそ「さくらさくら」歌うとか……やばいやばい。思考がネタに走りすぎている。
やっぱ事実を伝えるのが一番だろうか。素直に断るか、仕方ない。というか卒業なんだからここでカミングアウトしても何の問題もないじゃないか、そうだよ、初めからそうすればよかったんだ。きっとこの手の話題は俺の話でもニシは食いつくからナカタに迷惑もかからないだろうし。
「ごめん、俺、彼女居るんだ。これからも部活のことよろしくね」
「ほら、早く行って来いよ」
「え、でもニシ先輩……わかりました」
ミナミがとぼとぼと桜に向かって歩いて行った。ニシはおそらく何も思っていないんだろうけど、私はあの先輩のことが好きだ。せっかくマネージャーが居るのになぜかすでに彼女がいる人が多いこの部活で、唯一といっていいほど彼女の話を聞いたことがなかった。もちろん、優しくて強くてあと顔もかっこいいから好きになったというのもあるけれど。
「ほら、ヒガシ。そんなとこ見てないで」
「あ、うん。そうだね」
見てみると丁度先輩もついたみたいだった。
「先輩、好きです!付き合ってください!」
「ごめん、俺、彼女居るんだ。これからも部活のことよろしくね」
私の初恋、呆気なく完敗。先輩ってさっぱりしてる人だったんだ。




