お悩み相談、乗るっす
「あ、あの、ゴロさん…そ、相談があります!」
「す?」
それは掃除を手伝ってもらっていた時の事。ずっと何か言おうとしてはやめるをくり返していたるっぴーが、一大決心でも口にするかのような勢いで放った一言に、ゴロは雑巾を絞る前足を止めた。
「───どうぞっす」
「る、あ、ありがとうございます」
とりあえず落ち着いて話を聞こうではないかとリビングへ移動し、温かい紅茶を淹れる。るっぴーの左側、直角になる位置にある一人掛けのソファに腰かけたゴロは、それでと話を切り出した。
「相談、というのは?」
「る、えっと、その…」
何かを言うでもなく、また紅茶に手をつけるでもなく、ただ膝の上でギュッと両手を握り締めるるっぴー。相当緊張しているのは伝わったので、ゴロはそれをほぐそうと話題を探した。
「る、るっぴーさんは東の中心出身なんすよね?」
「は、はい」
「ぽってぃー先輩達もそうっすが、生まれた時から都会で生活するってどんな感じっすか?」
「どんな、ですか?」
「あ、えっと、おいの故郷はとても田舎なので、西の中心に来た時は何もかもが未来の世界みたいに思えたっす。初めて駅のエスカレーターに乗った時は、下り用の階段を必死に駆け上ろうとして駅員さんに怒られたっす」
「る」
今となっては懐かしい失敗談に、るっぴーの口元にも思わず笑みが浮かぶ。しかし、すぐにそれを手で押さえる。
「す、すみません。失礼な事を…」
「いいんすよ。この話をすると、大体のぬいぐるみは笑ってくれるっす。ぽってぃー先輩曰く、テッパンネタっす。故郷の事は誇りに思ってるっすが、るっぴーさんみたいに生まれながらの都会育ちには憧れるっす」
「…みいは…都会と言っても、あんまり外に出た事はなかったので…」
「す、そうなんすか?」
また俯いてしまった彼に首を傾げると、るっぴーは少し言い淀む様子を見せてから静かに話し始めた。
「実は…みいは小さい頃大きな病気をして、ずっと入院していたんです」
「病気っすか?どこか悪いんすか?」
「あ、えっと、違います。今はもう治って、病院にも行かなくてよくなっています」
わたわたとするゴロに、るっぴーも慌てて補足を入れる。ホッと胸を撫で下ろすゴロを見てから、話の続きを口にする。
「病気が良くなるまでは、幼稚園も学校も行けなくて…こんな性格だから、同じように入院している子達とも上手く仲良くなれなくて…そんなみいを元気にしてくれたのが、テレビやラジオから聞こえてくる歌でした」
ふさぎ込んでしまう気持ちを軽くしてくれる明るい歌。心を打つような切ない歌。それらを聞いていると、不思議と時間を忘れられた。一緒になって口ずさんでいると、辛い気持ちがスーッと消えていくような気がした。
「だから、オーディションのニュースを見た時は、今度はみいがそういう気持ちを届けたいと思って応募しました」
「そうだったんすね」
「でも…」
シュンと耳が垂れる。
「この前のドルチェットでの合同レッスンでみいの事を良く思わないぬいぐるみがいるのを知って、みいが合格したせいでデビューの機会を失ったって聞いて、とても申し訳ない気持ちになったんです」
「…」
「みいなんかよりずっと努力をしてきたぬいぐるみが夢を掴めないのに、何の取り柄もないみいがこんな大きなチャンスを貰って本当に良かったのかなって…ぽってぃーさんやゴロさん達にも迷惑をかけるだけなんじゃないかって…だから、今からでももう一度選考をやり直して…」
「長いっす」
「るっ?」
ポスッと頭にチョップを食らい、るっぴーは目を白黒させる。頭に手をやりながら自身の左側を見ると、真剣な顔をしたゴロがこちらを見つめていた。
「まず、るっぴーさんは大きな勘違いをしてるっす」
「勘違い?」
「ぽってぃー先輩もどってぃー先輩も、シロさんもくくさんももちろんおいも、誰もるっぴーさんを迷惑だなんて思ってないっす。仮に迷惑がかかるような事があっても、そんな事で見捨てたりしないのが仲間っす。そこに遠慮なんかいらないっす」
「る、でも…」
「なんて、おいもそうだったっす」
「?」
ポリポリと頬を掻くゴロに、今度はるっぴーが首を傾げる。
「田舎から出てきて、憧れのぽってぃー先輩の近くでお仕事ができるだけじゃなくて、同じ目線に立てる事になって…でも、自分に自信が持てなくて悩んでいたところにそう言ってくれたぬいぐるみがいるんす」
常に周りに流されず、自分を貫く白い背中を思い浮かべるゴロの口元には笑みが浮かんでいる。
「るっぴーさんは、自信のない自分を変えたくてオーディションを受けたんすよね?」
「る、は、はい」
「その一歩を踏み出しただけで、もう十分変われているとおいは思うっす。るっぴーさんは、とても魅力的なぬいぐるみっす」
「ゴロさん…」
「せやで」
「るっ?」
「どってぃー先輩、帰ってこられてたんすか」
ヒョコッとソファの後ろから顔を出したどってぃーに、ゴロとるっぴーは驚く。
「大体お前口を開けばウジウジウジウジ、あんだけええもん持ってて何言うてんねん!」
「る?」
「"る?"やないねん!お前の歌であいつら黙らせたん忘れたんか!」
どってぃーが言っているのは、合同レッスンでの事だろう。くくに完膚なきまでに言い負かされたらいおん丸達は、ならばと矛先をるっぴーに向けた。だがそれも、直後の歌のレッスンで完全にはねのけたのである。ゴロ自身、何かが乗り移ったのではないかと思わせるほどの変貌ぶりに鳥肌が立ったのを覚えている。歌い終わった頃には誰も何も言えなくなっていたのだが、この反応を見るにどうやらるっぴーは気づいていなかったらしい。
「そうですよ~、るっぴー先輩」
「くくさんまで。いつから聞いてたんすか?」
どってぃーの横から顔を出すくくは、何やら不満そうに口を尖らせている。
「ぶっちゃけ~、るっぴー先輩は事務所に入る時期ほとんど変わらんって聞いたし、経験で言うたらくぅの方があると思ってたし"先輩"とかつけんでええかなって思ってたんやけど~」
「お前、だんだん本性出てきたな」
「でも~、あの歌はめっちゃ響いたっていうか~、るっぴー先輩って憑依型なんやなぁって思いました~。せやから別にそんな自分を卑下する必要ないと思います~。っていうか~、そのスペックで自信ないとか嫌味にしか聞こえませんけど~?く♡」
「る、る…」
そんなつもりはないとふるふる首を振るるっぴーに、ゴロが優しく語りかける。
「るっぴーさんが不安に思う気持ちはよくわかるっす。でもそんな時は、こうして仲間を頼ってくださいっす。いつでもお話を聞くっす」
「る…ありがとうございます」
礼を言うるっぴーの声は少し震えている。
「あー、るっぴーお前泣いとんのか?」
「やぁ~ん、るっぴー先輩泣かんといて?」
「る、る」
どってぃー達にからかわれるるっぴーの顔からは、さっきまでの曇りが消えたように思える。それを見たゴロの顔も、ホッと安心したように緩むのだった。
「心配いらんかったみたいやな」
「さー」
そんなやりとりを階段の上から見守る影が二つ。自室にいたぽってぃーは、何やらリビングが騒がしいので様子を窺っていたのだ。途中からシロも加わったのだが、彼はゴロにアフタヌーンティーの準備を頼みに行こうとしていたのをぽってぃーに止められ渋々傍観していた。
「一時はどうなるか思てあれこれ考えとったけど、るっぴーもくくもウチに馴染めそうやわ。これも全部ゴロのお陰やな」
「まあまあ先輩らしくなってきたと思うさー」
「それ、本人に言うたったらどうや?ゴロも、お前からそう言うてもろたら喜ぶで」
「さー」
素知らぬ顔で適当な相槌を打つシロに、ぽってぃーはやれやれと苦笑するのだった。




