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ナンバーワン、決めるっす(後編)

「───と、これからも頂いたこの賞に恥じぬ仕事をしようと思っております。この度は本当にありがとうございました」

 壇上で頭を下げるぬいぐるみに、パチパチと惜しみない拍手が送られる。

「俳優部門は文句なしね」

「せやな」

 隣のテーブルから聞こえたキャシーの言葉にぽってぃーも頷く。主に時代劇で活躍しているベテランの彼は、飄々(ひょうひょう)とした役から迫力のある悪役まで幅広くこなす名優だ。本人はとても気さくで温厚な性格をしており、いつだったかどってぃーが幼稚園で彼の親戚の子供とケンカをしてしまった時はわざわざ出向いて仲裁をしてくれた事もあり、その時に少し話をしたゴロがやはりスターは違うと感動したのも懐かしい思い出である。

「では続きまして、モデル部門の発表です」

 司会者の進行に合わせて、壇上の大きなモニターに三位から順に名前が発表される。ここまで見ていて改めて思うのは、ドルチェの所属タレントの層の厚さは芸能界でも指折りだという事だ。受賞していなくても十分すぎる活躍をしているぬいぐるみだらけで、ゴロは自分がここに座っているのが不思議な気持ちだった。

 そっと隣に座っているシロに話しかける。

「モデル部門は誰が受賞するっすかね?」

「さー、多分…」

 シロが答えかけたところに、モニターには【ミハイル・ボルク】という名前が表示される。

「ボルク!ボルクが受賞したわ!」

「おめでと~」

「すごいね」

「やったやん、ボルク!」

「やったやった!」

 キャシー達から祝福の言葉をかけられながらも、当の本人は涼しい顔で壇上へ向かっていく。

「ボルクさん、冷静っすね」

「さー、それでこそボルクさー」

 シロも受賞には納得だったのだろう。チューっとオレンジジュースをすするその顔は、どこか満足げだ。

「ミハイル・ボルクです。この度はこのような栄誉ある賞を頂き、大変光栄に思います」

 受賞の挨拶を聞きながら、キャシーはウキウキと手を合わせて笑う。

「嬉しいわ!トルタから受賞者が出るなんて、何だか夢みたい」

「日頃の活躍を思たら当然やろ」

「でも嬉しいの!ぽってぃーだって、ゴロ君達の誰かが受賞したら喜ぶでしょう?」

「そらそうやけどな」

「ここだけの話、私グループ部門を狙ってるのよ」

 突然の宣言に、ぽってぃーだけでなくゴロも驚く。

「珍しいな。キャシーがそういう事言うなんて」

「だって、それだけ頑張って活動してきたって自信があるもの。私が信頼して選んだ仲間なのよ?ぽってぃーがグループをスタートさせてたら、わからなかったかもしれないけど」

「せ、せやな。でも近い内にデビューの予定や。今回は間に合わんかったけど、次に開催される事があったらわいらが取らせてもらうで」

「そうね、ライバルとして期待してるわ!ゴロ君もね!」

「す、す、恐れ多いっす」

 隣のテーブルから視線を一身に受けるゴロは、宣戦布告を純粋な笑顔で受けられて悔しがるぽってぃーを気にしながら頭を下げる。

「それでは、続いてグループ部門を発表させて頂きます」

「きたわ!」

 司会者の言葉に、キャシーは両手を組んで発表を待つ。ゴロも何だかドキドキしながらモニターに注目すると、三位、二位と続いて【トルタ】の名前が大きく表示された。

「!やった…やったわ!信じられない!」

「感極まって抱きつくのはいいけど、できれば相手はぽってぃー以外が良かったなぁ」

 興奮するキャシーをティノが苦笑しながらぽってぃーから引き剥がし、ほら行こうとメンバー全員を促す。

「受賞したトルタを代表してリーダーのキャシーさん、一言頂けますか?」

「はい…!本当に、こんな素敵な賞を頂けた事に感謝の言葉もありません…!メンバーが一丸となって頑張ってきた結果が、今日こういった形で実を結んだ事を嬉しく思います…!」

 ボロボロ泣きながらファンへの感謝を述べる姿に拍手を送りながらも、ぽってぃーの表情は複雑そうだ。

「やっぱり悔しい、っすか?」

「まあ、な。でもこれは、素直に納得やわ。あいつらの実力は、わいが一番知っとるしな」

 でも、とぽってぃーは固く決意した顔でこちらを見る。

「次はわいらや。るっぴーとくくと、六人で絶対頂点に立つで」

「当然やろ。まいスーパールーキーやからな!」

「さー、やるからには全力さー」

「す、っす!」

 自分があそこに立つなど、おこがましいと思うのはもうやめだ。ぽってぃーがやると言っているのだから、自分はそれに必死に食らいつくだけ。そうゴロが奮起していると、司会者がそれではと咳払いを一つした。

「次がいよいよ最後、総合優勝者の発表です!」

「来た!」

 ぽってぃーが一気に緊張した表情で深呼吸をする。ついにドルチェで一番人気のタレントが決まる瞬間だ。ここまで料理に夢中だったどってぃーも、もぐもぐと動かしていた口を止めた。ゴロもドキドキしながらモニターを見守る。

 三位に選ばれたのは、"CM女王"と呼ばれ主にバラエティーで活躍しているタレントだった。持ち前の明るさとトーク力で会場から笑いを誘うスピーチをする姿を見ている間も、ぽってぃーはずっと両手を組んだままだ。

「続きまして、二位は…」

 モニターにバンと映ったのは、ぽってぃーだった。

「ぽってぃー!おめでとう!」

「二位…二位…」

 キャシーの無邪気な祝福が聞こえているのかいないのか、ぽってぃーは呆けた顔でフラフラと壇上へ向かう。

「でぃあ・ぽってぃーさん、今のお気持ちはいかがですか?」

「は、はい…私のような未熟者がこのような栄誉を頂けた事に感謝申し上げます。これも全ては、日頃から活動を支えてくださっているスタッフの皆様、そして応援してくださるファンの皆様のお陰だと思っております。その感謝を胸に、これからも精進していきたいと思います」

「あんちゃん泣いとる」

 ツーと涙を流しながら話す兄を見て、さすがのどってぃーも何か思うところがあるらしい。ゴロも、全ドルチェのタレントの中で二番というのは十分素晴らしい結果だと思いながらも、ぽってぃーの今回のこの催しに対する意気込みを知っているだけに、何とも言えない気持ちになった。

「では、第一位を発表します!栄えある第一回ドルチェ人気投票総合優勝を果たしたのは…」

 会場が暗くなり、ドラムの音と共にあちこちからスポットライトがグルグルと光を踊らせている。緊張感が流れる中、バンとライトがあるぬいぐるみを照らした。

「キャッツ・キャシーさんです!皆様、盛大な拍手をお願いします!」

 ワアッと割れんばかりの拍手が起こる。それを受けるキャシーは、両手を口に当て先程よりも涙を流していた。側にいたぽってぃーは、今にも灰となってサラサラと崩れていきそうである。

「キャシーさん、どうぞステージへ!」

 司会者に促され、キャシーは壇上へ上がる。

「おめでとうございます。一言頂けますか?」

「嬉しいです…!本当に、一票を投じて頂けたファンの皆様には感謝を伝えたいです…!」

「リーダー、ハンカチがちぎれそうさー」

「せやかてシロ…!わい…わい悔しゅうて…!」

 キャシーと同じくらい涙を流しながらハンカチを噛み締めるぽってぃーに、ゴロは何と声をかけていいかわからない。ここだけの話、自分に入れていいのだと言ってもらった票だが、ゴロは憧れの存在であるぽってぃーに入れていた。応援があと一歩及ばなかったのは、自分も悔しい。

「そして何よりも、私がここまで頑張れているのは自慢の同期であるでぃあ・ぽってぃーさんの存在が大きいです。今回は私が賞を頂きましたが、彼とはこれからも良きライバルでいたいと思っています」

「~~~っ…!」

 再び会場に拍手の音が鳴り響く中、純粋な彼女の言葉に打ちのめされたぽってぃーがテーブルに頭をぶつけるゴンという音はゴロ達の耳にだけ届いた。

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