貴方の誕生日は特別です 後編
[貴方の誕生日は特別です]後編
「よしっ、今から出かけるよ!」
「え?」
今出かけるって言ったか?
「どこに?」
「前から行きたいって言ってた映画!」
「えっ、うん」
「よしっ、行こう!」
「少し待ってて」
「わかった、薫」
階段を鳴らしながら昇り部屋のドアノブに手をかける。ドアを閉めて床に座り込んだ。
やばい、どうしよう? 服とか。これじゃあれに並べなくない?今日はカジュアル系の服だったよね。じゃあ私もあんな感じにしようかな?髪の毛は、ハーフアップでいいか…。
クローゼットを開け、服を漁る。さっと着替えて、鞄を持つ。
「お待たせ、待ったみやちゃん」
「ううん!。カッコいいね」
「っ、ありがとう」
二人は電車に揺られて映画館に着いた。
いつ来ても映画館の前は独特な匂いが漂ってる。ポップコーンなのか? 何なのだろう?
「見たかったのなんなの?」とチケット売り場の売機の前、みやちゃんがこちらを見て疑問符を浮かべた。
「知らなかったのに誘ったの」と正直私はビックリした。
「うん、聞いた事ないし」と当たり前かの様にいういうみやちゃんは早く教えろと言わんばかりに顔で訴えてくる。
「え〜と、これ」と私が指を差した先にある文字を見た瞬間、
「マジで?」と振り返り声を溢した。
「うん、もしかして血とか駄目?」
「えっ、あーイヤうん、いいよ」
「何がだよ」
「見よう!」
そう彼女が指を指した先は結構ヤバめな血とか、ガッツリの闘いものだ。何なら年齢制限がついている。
「本当に平気?」
「うん。これでも男だからね」いやこれは男とか関係なくないか?
「でも、ポップコーン買って」
私の誕生日だよね?と喉まで上り詰めてきた言葉を飲み込み、
「いいよ」と返事をした。
館内に入り、席に着く。もう既に少し震えている。可愛い!
時期に暗くなり、みんな大好き映画のルールが流れてきた。
〜鑑賞中〜
「本当に平気だった?」近くにあるカフェに入り、抹茶のドーナツを食べてる彼に薫が声をかける。店内はいい感じのレトロな雰囲気だ。電球から出る優しいオレンジの光に包まれながら私たちはテーブル席に座っている。周りを見渡してもそんなに人ご居ない店内だ。
「結構辛かった」と苦笑いをした彼。
「ごめんね」
「何で?」
「えっ?だって、無理だって分かってたのに見せちゃったから」
「バレてたの?」と彼は口をドーナツから外し驚いていた。
「わかりやすかったし。だからごめんね」ともう一度謝ると、
「いいよ、謝んなくて。」
「は?」私は意味が分からなかった。私の趣味に付き合わせて、嫌な思いをさせて謝らなくていいなんて。
「だって、僕がやりたくてやったから」
「いや、でも……。」
「それにさ、たまには我儘言っていいよ」
「いつも、僕の事を優先してくれるじゃん。だから誕生日くらい我儘言ってもいいよ!」
彼はニカっと笑う。太陽の様に輝いてた。
その姿がどんどん滲んでいく。頬に何かがつたる。
「大丈夫?薫」と焦るみやちゃんがボケた視界に映る。
「なにが?」いつもより、変な声が出る。何だろう、喉から声が出ている感覚だ。
「……、泣いてるよ?」
「えっ?」私は目に手をつける。確かに目が濡れている。
「今、止めるから」といい天を仰いだが、涙が止まる様子はない。涙は電気に当たり輝いている。
「あれ、止まんないや」といった私の顔は笑えていただろうか?
そんな、私を見てみやちゃんが席を立ち店を出た。強引に腕を引っ張るみやちゃんはいつもとは違くかっこ良い、キリッとした顔をしていた。「どうしたの?」私の問いに答えずにズンズン進み、人気のないベンチに座らせられた。まだ涙は流れている。
みやちゃんは隣にすわる。
太陽に照らされながらみやちゃんが口を開いた。
「泣きたい時は泣けばいい。ずっと前のこの日も薫は泣いていただろうから。」
「でも、せっかくの誕生日くらいは笑顔の方がいいと思うよ。新しい一年の始まりだからね!」と言った彼の瞳には泣いている私の顔だけが映し出されていた。綺麗な瞳はきっと私よりも美しい世界を写しているだろう。
「ありがとう」気がつくと私の涙は止まり、口角が勝手に上がった。
「たまには迷って、頼ってね」といった声は私の耳まで届かなかった。
「今なんて?」と私が聞き返しても、
「何でもない」と言い返されてしまう。
誕生日の意味が分からなかった。
何で祝うのか、だがそれは今にしてわかった。その人が大切だからだ。生まれてきた事に感謝するために祝うのだ。
happy birthday
今年も良い一年を