表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/57

第9話 ゾンビA「できるようになるまで、めっちゃ練習させられたっス」

 地面に倒れたキアラ・ブリスコー。


 彼女は股間を聖水で濡らしながら、ビクンビクンと(けい)(れん)していた。




 そんな光景を、王都の住民達は遠巻きに見ている。


 貴族学園を卒業した(のち)のキアラは【聖女(セイント)】として、第1王子ギルバートの婚約者として王都民達からチヤホヤされていたはずだ。


 幻想が、打ち砕かれた瞬間だった。




「あら? キアラ様、気を失ってしまったのですか? ここからが、面白いところでしたのに……」




 マヤはちょっと肩を(すく)めた(あと)、異空間から幽霊(ゴースト)を呼び出した。


 実体はなく透けているが、きっちり燕尾服を着ているチョビ(ひげ)の男性だ。


 この幽霊(ゴースト)、生前は音楽家だったりする。




「ミュージック、スタートよ」




 マヤが指を打ち鳴らすと、音楽家幽霊(ゴースト)は魔法を発動させた。


 これは音声魔法。

 空気を振動させ、音を作り出せる。


 マヤと出会う前、音楽家ゴーストは(ぜい)(じゃく)な存在だった。


 音楽への未練からこの世に(とど)まったものの、不完全な音声魔法でラップ現象を引き起こすのが関の山。


 しかし【死霊術士(ネクロマンサー)】マヤの配下となり、強大な魔力を供給されるようになると話は変わってくる。




「な……なんだ!? この音は!? これは……音楽!?」




 鳴り響く音に、王都住民達は戸惑っていた。


 聞き慣れない楽器の音だったからだ。


 地球生まれであるキアラが聴けば、すぐに分かったことだろう。


 シンセサイザーによる、電子合成音だと。


 マヤ監修の(もと)、音楽家幽霊(ゴースト)が音声魔法で再現したのだ。




 (かな)でられるのは、地球で世界的なヒットを飛ばしたナンバー。


 「キング・オブ・ポップ」と呼ばれた、スーパースターの曲。


 ゾンビ達と共に、華麗なダンスを踊るミュージックビデオで有名だ。




 曲に合わせ、ゾンビや骸骨兵(スケルトン)達が踊り始める。


 先程までのもっさりとした動きが嘘のような、キレッキレのストリートダンス。


 しれっとレイチェルまで、(いっ)(しょ)になって踊っている。




 不気味で華やかな光景に、王都民達は言葉を失っていた。


 ゾンビや骸骨兵(スケルトン)は怖い。


 しかし、未知なる音楽に聴き入ってしまう。


 王国の社交ダンスとは明らかに違う、スタイリッシュなダンスから目を離せない。


 騒ぎに駆けつけてきた王国騎士や衛兵達も、呆然としている。




「さて、そろそろ出発しようかしら。ザネシアン辺境伯領に向けて」




 王都の民達に背を向けて、マヤ・ニアポリートは――マヤ・ザネシアンは歩き出す。




 ムーンウォークでついてくる、配下の不死者(アンデッド)達を引き連れて。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 マヤとレイチェルは、王都の郊外までやってきていた。


 追跡してくる者はいない。


 不死者(アンデッド)達は、異空間に戻されていた。


 大軍が唐突に姿を消したため、騎士や衛兵達も混乱しているのだろう。




 あたふたしている王都の民達を想像して、マヤは爽快な気分だった。


 彼女は王都の住民達に、良い感情を(いだ)いていない。


 マヤ・ニアポリートが処刑される夢の中で、彼女が残虐に処刑される姿を嬉々として見物する光景を見てしまったからだ。


 先ほどの不死者(アンデッド)パレードは、そんな王都民達に対するちょっとした(いた)(ずら)である。




「ここら辺で、いいかしら? ゼロサレッキ。馬車とスレイプニルを出して」




 誰もいない虚空に向かい、指示を出すマヤ。


 すると肉声ではなく、念話の魔法で返事が返ってきた。




『おまかせください、お嬢様』




 再び空間に穴が開き、配下の不死者(アンデッド)が姿を現す。


 骸骨が1体だけだ。


 しかし先ほど踊っていた骸骨兵(スケルトン)達とは、明らかに雰囲気が異なる。


 (ごう)(しゃ)な装飾の(ほどこ)されたローブが、格の違いを物語っていた。


 空中に浮遊しているこの骸骨は、死霊の魔導士(リッチ)


 数々の魔法を操る、高位の不死者(アンデッド)である。


 歴戦の戦士や名のある冒険者でも、出会ってしまったら死を覚悟する存在だ。




 リッチのゼロサレッキは、骨だけの手をかざした。


 すると立派な馬車と、(おお)(がら)な馬が出現する。




 かつての大魔導士は(うやうや)しく紳士の礼(ボウ&スクレープ)を取ると、異空間へと帰って行った。




 ゼロサレッキは空間魔法により、異空間に物を収納したり取り出したりできる。


 だが、生きている動物は出し入れできない。


 命なき存在である、不死者(アンデッド)なら話は別だが。


 つまり先ほど出てきた馬も、ゾンビである。




「よしよし、スレイプニル。いい子ね」




 マヤが顔を撫でてやると、ゾンビ馬は嬉しそうに「ブルルッ!」と鼻を鳴らす。


 スレイプニルというのは、種族名ではない。


 北欧神話の主神オーディンが駆る8本足の馬からとって、マヤが名付けた個体名だ。


 このゾンビ馬スレイプニルにも、足が8本ある。


 本人(本馬?)が「足がもっと欲しい!」と訴えたため、マヤが改造手術で増やしたのだ。




「ザネシアン辺境伯領まで、よろしくね」


 マヤがお願いすると、スレイプニルは「(がっ)(てん)だ!」とばかりにいなないた。


 彼はマヤを背中に乗せたり、馬車に乗せて引くのが大好きなのである。




 マヤは馬車の客室へ。


 レイチェルは、御者台へと乗り込む。


 すぐに馬車は発進し、加速を始めた。




 レイチェルもスレイプニルも疲れ知らずの不死者(アンデッド)であるため、夜通し走り続けることができる。


 しかもスレイプニルは、馬鹿力かつスピード狂。


 重い馬車を引きながら、100km/hもの速度で走り続けることができる。


 そんな高速に耐えられる馬車も、特別製。


 ドワーフ職人ゾンビが作り出した、超高性能車である。


 足回りや客室内装にもお金がかかっていて、大変乗り心地が良い。






 優しい適度な振動に揺られて、マヤはいつの間にか眠りに落ちていった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓他にはこのような作品を書いています↓

異世界に召喚され損なったオッサンが、チート能力だけ地球に持ち帰って現金無双
【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

異世界で魔神討伐をして得た超人的な力で、高校野球界を蹂躙せよ!
【異世界帰りの勇者パーティによる高校野球蹂躙劇】~野球辞めろと言ってきた先輩も無能監督も見下してきた野球エリートもまとめてチートな投球でねじ伏せます。球速115km/h? 今はMAXマッハ7ですよ?~

格闘と怪力で、巨大ドラゴンをフルボッコにする聖女の恋愛と冒険譚
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

近未来異世界で繰り広げられる、異世界転生したレーサーの成り上がり物語
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

ファンタジー異世界の戦場で、ロボヲタが無双する
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

幽閉されし王女が護衛の女騎士(♂)から攫われて、隣国で幸せになる話
【緑の魔女】と蔑まれし幽閉王女が、美貌の女騎士から溺愛されて幸せになるまで ※なお女騎士の正体は女装した隣国の皇子であるとする

― 新着の感想 ―
[一言] ポウ!
[良い点] ムーンウォーク…… 笑わせられました。 [気になる点] あ、前回の「お安い御用だ」は、バナナマンの出ている格安旅行予約サイトAgodaのCMのイメージってことです。
[良い点] ゾンビ馬までは予想できても足八本は予想外でしたΣ('◉⌓◉’)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ