表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/57

第4話 アイ・アム・ネクロマンサー

 レイチェル・オライムスが配下に加わってからも、マヤは飽きることなく魔力修行を続ける。




 マヤは魔力体外放出訓練に代えて、レイチェルへの魔力供給を修行メニューに加えた。


 これなら異常な魔力成長を、家の者達に知られる心配はない。


 おまけにレイチェルは喜ぶし、彼女の力も増して(ばん)(ばん)(ざい)だ。




 力を増したレイチェルは、()()から別の死霊も連れてくるようになった。


 マヤに忠誠を(ちか)える死霊を選別し、勧誘しているらしい。


 あっという間に配下の死霊達は増え、その数は10体以上になった。


 その(ぶん)マヤは、彼女達に魔力を分け与えなければならない。


 しかし、全く問題はなかった。


 配下の死霊が増えるスピードより、マヤの魔力成長速度や回復速度の(ほう)が圧倒的に速かったのだ。


 理由のひとつが、最も魔力の伸びやすい乳児期に修行しているということ。


 もうひとつ。

 魔力は大量消費するほど、最大魔力量や回復速度が成長しやすい。


 配下の死霊が増えていくと、供給しなければいけない魔力量は多くなる。


 そうなると、マヤの魔力もまた加速度的に成長していくのだ。


 この世界の人間達は、18歳くらいを境目に魔力が伸びにくくなる。


 だがそれまでに、マヤはとてつもない魔力を手にするだろう。




 生後半年も経つと、マヤは言葉を発することができるようになってきた。


 まだ舌を上手く動かせないため、不完全な(しゃべ)(かた)ではある。


 しかし中身である(かん)(ざき)()()は、25歳の成人女性だったのだ。


 言葉は不完全でも、ある程度のコミュニケーションは取れる。


 マヤの早熟っぷりに、配下の死霊達は驚いた。




 しかし両親であるニアポリート夫妻はどうかというと、娘の急成長には全く気付いていなかった。


 彼らや使用人達の前で、マヤは「あー」とか「うー」とかしか喋らないようにしたのだ。


 普通の赤ん坊に見えるよう、擬態したのである。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 マヤはすくすくと成長し、4歳になった。


 すると早くも、貴族令嬢としての淑女教育が始まったのだ。


 何としても娘を王族と結婚させたいニアポリート夫妻による、無謀な詰め込み教育だった。


 だがマヤは、そつなく課題をこなしていく。


 元々中身は、成人女性。


 この世界の言語が日本語だということもあり、読み書きや計算に苦労することはない。


 テーブルマナーに(いた)っては、地球にいた頃から得意中の得意だった。


 特にナイフやフォークの扱いは、芸術的ですらある。


 これは遺伝かもしれない。


 神崎真夜の母親が、ゴッドハンドと呼ばれるほどの凄腕外科医だったのだ。




 マヤが苦労したのは、淑女教育課題をクリアすることではない。


 異常な天才児扱いされないよう、ほどほどの成績に抑えることだ。


 抑え過ぎて、劣等生だと思われてもいけない。


 課題をこなせないと、ニアポリート夫妻はすぐに殴る。


 跡取りである5歳年上の兄は、よく殴られ顔を()らしていた。


 その点マヤは、殴られないよう上手く立ち回っている。


 痛いのは好きではないというのもあるが、心配だったのだ。




 殴られたらつい反射的に、相手を殺してしまうかもしれないと。




 それができるほどに、マヤは力を付けていた。




 彼女は4歳にして、【死霊術士(ネクロマンサー)】の【天職(ジョブ)】を発現させていたのだ。


 侯爵邸の人間達には知られぬよう、ひっそりと。




 配下の死霊達は、すでに30体を超えていた。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 さらに時は流れ、マヤ・ニアポリートはもうすぐ7歳になろうとしていた。


 王都貴族学園へ、通い始める歳である。


 この王都貴族学園こそ、乙女ゲーム「セイント☆貴族学園」のメイン舞台。


 高学年次に転入してくる、主人公キアラ・ブリスコー。


 彼女が攻略対象であるイケメン達と出会い、様々なイベントを通じて好感度を高めていく場所だ。


 もし乙女ゲーム好きが悪役令嬢マヤ・ニアポリートとしてこの世界に転生したら、学園内で上手く立ち回って破滅エンドを回避するよう動くだろう。


 乙女ゲームマスターである神崎真夜の兄だったら、絶対にそうする。




 しかし妹は、ジャンルが違う。


 MMORPGばかりプレイしていた、戦闘狂である。


 おまけにレベル上げ大好き。


 貴族学園などという面倒臭そうな場所には、近づきたくなかった。


 それよりも自室に(こも)って、延々と魔力修行をしたい。


 死霊術の研究もしたい。 




 そんな娘の思惑も知らず、ニアポリート夫妻はマヤを連れ王都までやってきた。


 入学手続きのためである。


 しばらくは領地を離れ、王都にあるタウンハウスに滞在する。




 ニアポリート夫妻は、浮かれていた。


 マヤが7歳とは思えないほど、(よう)(えん)(いろ)()(ただよ)わせる美少女に育っていたからだ。


 おまけに秀才である。


 夫妻達も無茶だと自覚していた詰め込み淑女教育を、そつなくこなしてみせた。


 この娘ならば、2学年上に在学中のギルバート王子を落とせる。


 自分達より高位の貴族である、公爵家の令嬢達をも蹴散らして。


 王妃の両親として権力を手にする未来を妄想し、ニアポリート夫妻は幸せ絶頂だった。




 毎日ニヤニヤ笑っている夫妻を見て、マヤは思う。




 「そろそろ潮時だ」と。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 入学式を目前に控え、マヤ・ニアポリートは7歳の誕生日を迎えた。


 その晩の出来事だ。




 ニアポリート夫妻がタウンハウスのリビングルームでくつろいでいると、娘のマヤが入ってきた。




「お父様、お母様。ご報告があります」


「む? 何だマヤ?」


「私、【天職(ジョブ)】が発現しました」


「何だと!? その歳でか!?」


「素晴らしいわ! さすが私達の娘ね! これでギルバート殿下の目に()まる可能性が、さらに上がるわ!」




 ニアポリート夫妻は、目を輝かせた。


 だがそれは、娘の成長に喜んだからではない。


 娘が政略結婚の(こま)として、より使える存在になったからである。




「それで、どんな【天職(ジョブ)】が発現したのだ?」


「いま、力をお見せします」




 マヤが手をかざすと、リビングを照らしていた魔導灯が急に消えた。


 その代わり光球が尾を引きながら、暗くなった室内を飛び回り始める。


 (あや)しくも、美しい光景だった。




「光を操る魔法……神聖魔法か? マヤ。ひょっとしてお前、【聖女(セイント)】なのか!?」 




 興奮気味に問いかけてくるニアポリート侯爵に対し、マヤは首を横に振った。




「いいえ。これは神聖魔法で生じた光球ではなく、人魂……つまりは死霊です」




 娘の返答に、ニアポリート夫妻の表情が引きつる。




 そんな両親に対し、マヤは笑顔で自らの【天職(ジョブ)】名を告げた。


 この王国では忌み嫌われし、呪われた【天職(ジョブ)】の名を。






「私の【天職(ジョブ)】は、【死霊術士(ネクロマンサー)】です」






お読みくださり、ありがとうございます。

もし本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけると執筆の励みになります。

広告下のフォームを、ポチっとするだけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓他にはこのような作品を書いています↓

異世界に召喚され損なったオッサンが、チート能力だけ地球に持ち帰って現金無双
【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

異世界で魔神討伐をして得た超人的な力で、高校野球界を蹂躙せよ!
【異世界帰りの勇者パーティによる高校野球蹂躙劇】~野球辞めろと言ってきた先輩も無能監督も見下してきた野球エリートもまとめてチートな投球でねじ伏せます。球速115km/h? 今はMAXマッハ7ですよ?~

格闘と怪力で、巨大ドラゴンをフルボッコにする聖女の恋愛と冒険譚
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

近未来異世界で繰り広げられる、異世界転生したレーサーの成り上がり物語
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

ファンタジー異世界の戦場で、ロボヲタが無双する
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

幽閉されし王女が護衛の女騎士(♂)から攫われて、隣国で幸せになる話
【緑の魔女】と蔑まれし幽閉王女が、美貌の女騎士から溺愛されて幸せになるまで ※なお女騎士の正体は女装した隣国の皇子であるとする

― 新着の感想 ―
[一言] 「私の【天職】は、【ガン・・・ダmごっほん!!」 このくらいの性能差はありそう。
[良い点] 赤ちゃんの時から死霊軍団を育成しているとは、話だけ聞くと明らかに人類の敵ですよね(笑)。実際は違うにしろ。 なので「こいつはやべー」と思いながら読んでいたので、両親の反応が正にそんな風で笑…
[良い点] >神崎真夜の母親が、ゴッドハンドと呼ばれるほどの凄腕外科医 初耳!こちら何かの伏線だったり〜? >殴られたらつい反射的に、相手を殺してしまうかもしれない 戦闘狂な女主人公好きです(*´꒳`…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ