第15話 驚きの性能! 超便利! 一家に一台ネクロマンサー!
ザネシアン辺境伯が住まうウィンサウンド城には、広大な庭園がある。
手入れが行き届いており、美しい。
だが最近、庭園を管理する庭師には悩みがあった。
毛虫だ。
今年は毛虫が大量発生して、樹木の葉を食い荒らしているのだ。
そのことを知ったマヤは、「自分がひと晩で駆除してみせる」と申し出る。
もちろん庭師は、話半分で聞いていた。
駆除を申し出た日の深夜。
城の皆が寝静まった頃、マヤとレイチェルは庭園に居た。
「出番よ、ガスト」
空間魔法により、異空間から1体のゾンビが呼び出された。
普通のゾンビ達と違い、緑色に変色した肌をしている。
ガストと呼ばれた緑色ゾンビは、口を大きく開いた。
そこから紫色のガスを、庭園に向かって吐きかける。
マヤはガスを吸わぬよう、ハンカチを口元に当てた。
レイチェルはというと、呼吸をしていない不死者なのでそのままだ。
「すごいですね。毛虫がボトボトと、木から落ちていきます」
「すごいのは、レイチェルの目よ。こんなに暗いと、私達人間の目じゃ全然見えないわ」
「毒ガスで、木や草花が枯れてしまったりはしませんか?」
「植物って、虫に比べたらけっこう毒には強いものよ。これだけ広範囲の植物を枯らそうと思ったら、もっと強力な毒を使わないとね。例えば……数年前にこの地を脅かしたという、毒竜ラスティネルの【猛毒の吐息】とか」
ガストの吐く息に、そこまでの毒性はない。
うまく毛虫だけを、駆除することができた。
翌朝マヤは、庭師からものすごく感謝される。
「どうやって駆除したのか?」
と訊かれたので、
「王都で売っている、最新式殺虫剤を撒いた」
と誤魔化した。
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マヤの愛馬である、8本足のゾンビ馬スレイプニル。
彼は空間魔法で異空間には戻らず、城の厩舎で過ごしていた。
いきなり消えたら騒ぎになってしまうので、マヤは異空間に戻すタイミングを掴みかねていたのだ。
幸いまだ、不死者だとバレてはいないようだった。
体に触れれば体温が低いので分かってしまうのだが、誰にも触らせていないのだろう。
このスレイプニル。
マヤやレイチェルには素直なのに、他の者のいうことは全く聞かない。
厩舎でも、世話係の者達を悩ませていた。
スレイプニルはデカく、力が強く、気性も荒く、足も8本あってとにかく怖い。
馬のエキスパートである世話係の者達も、ビビり倒していた。
そんな中、愛馬の様子を見にマヤが厩舎を訪れたのである。
主人の姿を見つけるやいなや、スレイプニルは柵を壊して駆け寄った。
そして嬉しそうに鼻を鳴らしながら、顔を擦り付けて甘える。
「よーし、よーし。スレイプニル、いい子にしている? 世話係の人達に、迷惑かけちゃダメよ?」
「もちろん、わかってるよ!」とばかりに、スレイプニルはいなないた。
先ほど柵をブチ壊しているのだが、そこはスルーである。
「す……すげえ……。あのバケモノ馬を、完全に手懐けているぞ……。奥様って、何者?」
「侯爵家から嫁いできなさったらしいが……。ありゃ、ヤベエな。逆らわないようにしようぜ」
特に意識して厩舎を掌握しようとしたわけではないのだが、マヤは馬の世話係達から畏敬の念を向けられる存在になった。
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ウィンサウンド城では多くの人々が働いているので、彼らの食事を賄う大きな厨房がある。
ここ1カ月、その厨房でトラブルが続いていた。
料理人達が包丁で指を切ったり、小火が起きたり。
大事には至らないのだが、とにかく件数が多い。
責任者である料理長は、ピリピリしていた。
そこへフラリと訪れたのが、マヤである。
「奥様。厨房の中には、入らねえで欲しいんですがね」
「まあまあ、硬いこと言わないで。……ふーん。この厨房、悪霊に呪われてるわね」
マヤの言葉に、料理長は目を剝いた。
「そ……そんな! 呪われるようなことは、何も心当たりが……」
「死霊というものは、水に関わりのある場所に吸い寄せられやすいのよ。厨房は、水を扱うでしょう? それで、集まってきちゃったというわけ。死霊の中でも性質の悪い、悪霊達がね」
【死霊術士】であるマヤの目には、ハッキリと見えている。
飛び回る、悪霊達の姿が。
彼らが厨房内で、トラブルを引き起こしていたのだ。
自分達の存在を認識しているマヤに、悪霊達は飛び掛かってきた。
「力の差も、分からないとはね……。性格も悪そうだし、お前達は要らないわ」
マヤが指をパチンと鳴らしただけで、悪霊達は霧散した。
死霊を支配下における【死霊術士】だが、強制的にあの世へと送ってしまうことも可能なのだ。
「あ……あれ? なんだか厨房内の空気が、スッキリしたような……?」
「料理長、もう心配いらないわ。悪霊は、私が祓ったから」
「ええっ!? そんなことができるんですかい? ひょっとして奥様、【聖女】ってやつなんじゃ……」
「そんな大したもんじゃないわよ」
失禁しながら気絶したキアラ・ブリスコーを思い出し、
「そういえば本物の【聖女】も、大したもんじゃなかったわね」
と、マヤは気付くのだった。
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マヤが辺境伯家に嫁いできてから、2週間が経過した。
相変わらず、カイン・ザネシアン辺境伯はマヤに会いにこない。
執事クレイグ・ソリィマッチの態度は冷たい。
しかし他の使用人達の態度は、明らかに変化していた。
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