第2話 しばかれる!
「……で、言いたい事は聞いたからもう良いかな。わたし帰れる? っていうかここどこ」
登場人物設定へのクレームを一通り聞き終え、ピュノの息が整うのを大人しく待っていたモリカ。毛先を弄りながら欠伸を漏らした。そもそもキャラクター作りで頭も体力も使い疲れていたのだ。目尻に涙を浮かべる彼女に、ピュノはステッキを突き付けた。
「ココからが本番ですの。どうせ言っただけじゃ伝わらないと思って、モリカには身を持って混沌の権化を味わってもらうコトにしてるですの」
「……え!」
「ココはモリカの頭の中が基となるキャラクターや世界観が同居する闇鍋界ですの。ココには困ってる者がたくさんいるから、その悩みを聞いてみるです。ある程度解決出来たら元の世界へ帰してやるですの」
「えー!」
不満にモリカが思わず声を漏らした時、ピュノの顔付きが変わった。
「えーじゃないですの!」
側頭部を走り抜けた衝撃。目が飛び出るかと思ったが何とか耐え、頭を庇いながら横を見る。ピュノが何故か長くて立派なフランスパンを携えていた。
「パン……」
「こほん。ただし、一つだけ気を付けて欲しいですの。街は見ての通り無秩序で雑多。だからこそ奴等は潜みやすく、またこちらも欺きやすいですの」
何の話だろうか。目を瞬かせたモリカに、ピュノはこれまでになく真剣な面持ちを見せる。――ぴりりと、空気が変わった。
生唾を飲み込む。日光を遮る屋根の下、薄い陰が落ちたピュノの顔。その大きな瞳に一筋の光が過った。
「敵組織には――目を付けられてはいけない、ですの」
「敵組織って何?」
どこかで聞いたような台詞を述べるモリカであった。