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モリカワールド  作者:
筋肉地区台頭編
23/30

第22話 環状線誕生する!

 まず、筋肉地区とは何処だ?

 最初にこの世界へ降りた時の場所、街外れの東屋でモリカは頭を捻っていた。幸い街外れはあの集団の関心が低いようで、むちむちの姿はない。そもそも人の姿が少ないというのは、彼等の言う争いもほとんど発生しないということだろう。


「ピュノ、筋肉地区って何? どこにあるの」


 モリカの隣に腰掛けてピュノは答える。


「最上階層の裏通り上部に発生した、筋肉発達に全てを注ぐむちむちによるむちむちのための地区ですの。ほら、一番上を見てみるです。前はなかった階層が一つ増えてるですの!」

「増え…てるのかな」


 正直モリカにはよく分からなかった。


「どうしよう……わたしのせいだ」


 そうは思えども、良い解決策が思い浮かばない。一番に思いつくのはあの筋肉集団より強い者を創り、制圧することだが、それを創れる保証はないのである。モリカは自身の想像が思い通りに具現化されないもどかしさと、意図しない具現化を為してしまう苦悩を充分に味わっていた。

 マスコット顔の恵体に、尻にまつわるおやじーズ、そして今回のむちむち団。いくら思い返してみても正気の制作歴ではなかった。わっと顔を手で覆うモリカ。


「わたしがっ、わたしの頭がちぎりパンのことでいっぱいだったから……!」


 隠語である。


「わたしを頼って! モリカ!」

「その声は……!?」


 耳に飛び込んできた声に弾かれるように前を向いたモリカ。そこには昨日の濃厚な体験の所為で、妙に懐かしさを覚える姿が在った。


「さくら…! 虹!」


 安心出来る顔ぶれにモリカの表情はいくらか明るくなる。仲良く一つの傘をシェアする二人。さくらがモリカのもとへ走り寄るのに合わせて、虹が傘を持ち後を追う。


「また誰かのために動こうとしてるんでしょ」

「な、なんでそう思うの」

「モリカがそんな深刻な顔してるのなんて他にある? 今度は、わたしが力になりたいの!」


 自分はそう見えるのか。モリカは思った。

 さくらからの申し出はありがたいが、モリカの中で引っかかるもののために、すぐには頷けなかった。つらい宿命を背負わせてしまった二人にこれ以上の困難を与えて良いものか、という迷いである。

 首を縦に振らないでいたモリカの手をさくらは取る。


「わたし、結構丈夫なのよ。どこへだってついて行けるわ!」

「モリカが一番雑魚ですの! ココは力になってもらうですの!」

「……」


 ピュノの言葉は正論中の正論だったがモリカは踏み潰したい思いに駆られた。

 とはいえ、やはり正論。モリカ一人より仲間がいた方が解決率は断然に上がるだろうと、苦虫を噛んだような顔をやめて素直に従うことに決める。


「分かった。ごめん、力を貸して…!」

「もちろんよ!」

「微力ながら、私も使ってください。露払いぐらいにはなるでしょう」


 頭を下げたモリカにさくらと虹は快い返事をくれた。小雨になってきたようで、二人の声がしっかりとモリカに届く。


「あの筋肉地区とやらの事ですね?」


 彼女はまだ何も言っていないが、虹は核心を突いてきた。


「この街の美点はその自由さです。先程まで表通りにいましたが、住民の表情は皆一様に暗かった」

「みんな同じ想いよ。以前の街を取り戻したいって。わたし達だってそうだもの!」

「虹、さくら……本当にありがとう。うん、この街の自由を取り戻したいの。無秩序でも、それがここの良いところだと思うから」


 あまり大規模な争いはいただけないが、少々の衝突はそれぞれが意思表示を許されている証だ。それはつまり、心の自由である。たとえ相容れなくとも悪いこととは限らない。それを筋肉地区は、一方的な弾圧で押し込めようとしている。口にすることすら奪おうとしているのだ。

 追館モリカとして、見過ごすことは出来ない。


「決まりね。なら、さっそく頭を叩きに行きましょう!」


 さくらは異界出身設定の場合、戦闘民族である。

 本人の預かり知らぬところで掲げられた≪獅子は我が子を千尋の谷に落とす≫という育児方針のもと、故郷ではない世界ですくすく育った。ゆくゆく種として目覚めれば虹よりもテイエンよりも強い設定だった。どうやらその設定がこのさくらに一枚噛んでいるようだと察するモリカ。でなければ、さくらはこんな事は言わない。

 華やかな主人公の過激な一面に、モリカは黙って本陣への最短ルートを模索した。被害が少なくて済むようにと……。

 そして閃いた。


(電車だ! 筋肉地区まで特急引けないかな!?)


 現在地から筋肉地区へ直通の線路を引くことが叶えば、間のややこしさを全てスキップすることが出来る。

 己は天才か?

 自画自賛するモリカの頭からはすっかり抜け出ていた。ピュノのファンシーマジックなら一瞬でどこへでも行ける事実を。


「むぅん!!」


 モリカは手も早ければ妄想も早い。掛け声と共にモリカを起点として、それはそれは巨大なわたあめが半円を描いて表通り最下層まで連なり、そのまま街全体を包むように渦巻き、最上層まで駆け抜けた。煙の向こうから何両編成かの食パンのような電車が現れ、線路を駆け抜ける。最上層まで走った線路はそのまま裏表通りに消えて――モリカの前の線路と結合した。電車はモリカの前で停車した。

 環状線の誕生である。


「行くですの! 運賃は無料だから安心するですの!」


 謎マスコットがモリカの手を引いて勝手に乗車する。さくらと虹も彼女に倣った。

 白い車内の片壁にはバターが描かれている。奥の車両の壁にはジャムらしきものが描かれていた。

 何故か既にいる乗客達の間に腰掛ければ、ふあふあしっとりの生地がモリカの尻を迎えた。

 各駅停車。長い旅の始まりであった。

 前方の車両から、駅弁を携えたお姉さんが入場する――。

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