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モリカワールド  作者:
謎マスコット編
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第1話 こき下ろされる!

 多種多様な店らしき物が隙間なく横に縦に奥に連なり、聳え立つ。しかしその並びは無計画な増築を思わせ、横も縦も幅に規則性が一切なかった。

 思い思いの看板は店の個性を前面に出し、街並みの統一感のなさに拍車を掛けている。時折街中に脈絡なく巨大オブジェやメリーゴーランド、水槽に船等エンタメ性のある物が設置されていた。

 道は店通りだけではない。街中のショートカットの為か、通りから飛び出して離れた場所や上下階へ繋がる物もあった。店や道々には多彩な人や人ならざる生き物が自由に往来し、賑わいを見せる。そんな光景が見渡す限り続いていた。

 全く知らない景色。

 建物と人に呑まれてしまいそうな光景に圧倒されて、モリカは目が眩んだ。


「何これ~~!?」

「うるさいですの!! 語彙のなさにも程があるですの!!」

「え!?」


 高くいとけない声の割に粗暴な、謎の切れ声に後ろを振り返る。そこにいたのはふわふわの毛並みの小動物。けれどモリカの知るどの生き物とも少し違う。

 彼女に苛立ちをぶつけてきたその正体、例えるなら。――浮遊する謎のマスコット、だったのである。


「マスコットが喋ってる……! しかも口調があざとい!」

「愛らしいと言うですの! ボクはピュノ。モリカのかこうとしてる物語があまりにお粗末だから、登場人物達が怒ってボクが生まれたですの。ボクが代理でモリカのセンスを矯正するですの!」

「え、わたしの作ったキャラが怒ってる……ってこと……!?」

「怒らない方がどうかしてるですの! 一つずつ自分の作った設定を見返してみるです!」


 出会い頭に切れているピュノとやら。モリカとしてはここまで混乱続きで何一つ理解が追いつかないのだが、ピュノは構わず無から生み出した謎の星形ステッキをくるりと回した。すると先端の星から煌めきが溢れ、宙に見覚えのある文字列が浮かぶ。


 ≪異界を渡る力を持つ謎マスコット≪キュパ≫によって旅する二人≫。


 簡素な文章である。これのどこに怒る程の問題があるのかと頭を傾げるモリカ。それを見越したように、ピュノはステッキを教鞭を執るように扱ってみせた。


「名前がチープですの!」


 そんな問題だったとは。モリカは呆気に取られた。


「適当に考えた感がすごいですの! 何か二、三文字であざとい感じの響き付けとけば巷にありがちな王道マスコット感出るだろうって魂胆が見え透いてるですの……!!」


 モリカは図星であった。謎マスコットの主張は続く。


「妖精族の王女も使い古された設定だけど、もうこの際、些事ですの。問題はこれ!」


 ≪風来坊の男

 常に口許を襟巻きで隠し、笠を深く被っているため容貌は不明。腰に差した刀による神速抜刀術を避けられる者はいない。――かつての親友を除いては。

 実は戦の為に造られたヒューマノイドで、人ならざる者と酷使される中、親友だけが人として扱ってくれた。しかしその親友は戦死。全てが嫌になり、さすらいの旅に出た彼の耳に、かつての親友らしき男が敵組織にいるとの情報が入る≫。


「敵組織って何ですの……!」


 それはモリカにも分からなかった。何故ならまだその設定は出来ていないから。これから考えるところだから。

 しかしそこを詰めれば良いだけかと軽い気持ちで耳を傾けるモリカ。けれどピュノはまだ納得がいかないようで、続いてステッキで全体を囲むように指した。


「なんか全体的に胸焼けしないですの!?」

「はて……?」

「何不思議そうにしてるですの! ボクは神速抜刀術の件りで身の毛がよだつですの!」


 そんなに悪いだろうか。誰も敵わない剣術。――かつての親友を除いては。一番盛り上がる件りではないかとモリカは思う。

 肩で息をし始めたピュノは再びステッキを振るう。そうすると元の文字は消え、丸っこい字体の新たな文字列が浮かぶのである。彼の熱弁にモリカはそっと腰を下ろした。二人がいる場所は賑わう大通りを正面に、空間を隔ててポツンとある東屋のような休憩所。

 もしもあの大通りに出ていれば、この謎マスコットの話を聞く暇もなく、たちまち人混みに呑まれていただろうとモリカはひっそり思った。


「次はこれですの」


 ≪千人殺しの美女

 かつて故郷に攻め入ってきた野盗をたった一人で迎え撃った過去を持つ。そのあまりの強さに逆に村人に恐れられ、千人殺しの〇〇の異名で迫害され故郷を追い出された。

 男勝りな口調だが実は甘い物や可愛い物に目がない≫。


「千人は殺し過ぎですの……!!」


 だが美女である。しかもギャップと合わせると、みんなこういう設定が好きではなかろうか。それがモリカの市場調査の結論であった。


「一騎当千を実現するんじゃないですの。千人も殺せばそりゃ村人も恐怖に慄くですの。だいたい野盗千人って治安悪過ぎですの!」

「だって、百人よりインパクトがあるでしょ」

「どうせ千人も殺しても設定扱え切れないんだからよく考えるですの! そもそも千人殺す奴が甘い物やカワイイ物に対しては≪きゅるん≫ってなったら情緒が一層心配ですの……! あと千人殺す間に許しを請うた奴とか、逃亡を試みた奴とかいないですの? 国を守る騎士並みに退けない野盗道精神あるですの? 下手したら村は無傷で野盗だけ皆殺しにされてる可能性あるですの……!」

「えー、でも野盗って、悪い人達でしょ?」

「ボクは今モリカが一番怖いですの!」


 最近の世の中は強い女が好きではないかと口を尖らせるモリカ。よく口の回る謎マスコットは息を切らし、忌々しげに次なるステッキを振るった。魔法少女のようにメルヘンな世界観の者が持っていそうなそれ。謎マスコットも見た目と声と語尾だけはメルヘンなのだが、いかんせん口が致命的にメルヘンじゃないので、メルヘン界の住人にはなれぬだろうとモリカは気の毒に思った。

 その点キュパは多分中身もメルヘンなのでマスコットには持ってこいだろうと考える。

 次に浮かんだのはモリカ的に一番設定の出来が良いキャラクター。元帥だとか戦略的重要地だとか、艦隊だとか、モリカ的に難しいワードを頑張って盛り込んだ渾身の設定である。


 ≪少年元帥海軍大将

 若くして異例の抜擢を受けた天才少年。かつて世界が二つに割れた大戦の折、戦略的重要地ながら手薄であった場所へ数に物を言わせて押し寄せてきた南軍最大規模の第八艦隊を、最低限の艦隊で迎え撃った過去を持つ。

 手薄であったのは彼の策の内。浮沈の〇〇と称される≫。


「ボクもうお白湯も受け付けられないですの」


 渾身の出来だというに謎マスコットはさらりと流して最後の設定を浮かび上がらせた。


 ≪六道脱獄記憶喪失青年

 かつて……≫。


「かつてはもう良いですの!! あと設定思い付いてないのに≪脊髄かつて≫やめるですの!! それと……それと、キュパの設定がお粗末過ぎるですの――!!」


 謎マスコットの叫びは空にこだました。

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