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モリカワールド  作者:
プロローグ
1/30

第0話 引き摺り込まれる!

 記憶を辿れば、いつだって、愛する者達は其処にいる。





 追館(おいたち)モリカは考えていた。自作作品において重要事項たる登場人物設定を。

 ここは彼女の自室。散らかってこそいないが、やたらと物の多い、趣味をありったけ詰め込んでいると窺える部屋。特に多いのが小物類であるが、趣向に統一感がなく見る者にとっ散らかった印象を与えるだろう。家具も同様。例えばベッドシーツはモダンな花柄だが、彼女の下の座布団は流行りのゆるキャラがとぼけ顔で鼻をほじっている。

 その上で、モリカは長考の末に崩れた正座もどきで机の上のノートパソコンに齧り付き、ついに最後の一手を打ち終えた。


「出来た~! ちょーっと詰め込み過ぎたかもだけど」


 長丁場となった作業にすっかり肩が凝ってしまったと腕を回す。手元に置いていた紅茶を一口含み、その香りに深い息を漏らした。


「やっぱりキャラは濃い方が立つよね~。人気作って主人公よりサブキャラの方が人気だったりするし」


 姿勢を正して今しがた書き上げたばかりの登場人物設定集を見直す。書きたいものがあり過ぎて難航したものだが、無事完成した。

 高揚感にときめく瞳が追うたくさんの文字。以下がその内容となる。


 【ストーリー案

 平和に暮らしていた少年はある時、巨大な脚の通過後に世界の半分が消えるという災厄に見舞われる。家族や友人を失い絶望する少年のもとに突如少女と謎マスコットが現れた。

 少女曰く、あの脚を追えば世界を取り戻す手段が分かるかもしれない、だから諦めるなと。実は少女もまた少年と同じ目に遭い、脚を追ってきた異界の者であった。

 立ち上がった少年は剣を手に取る。かつて剣聖と呼ばれた父は、きっとこの日のために己を鍛えてくれたのだろう。

 異界を渡る力を持つ謎マスコット≪キュパ≫によって旅する二人。そこで出逢う仲間達


 キャラクター案


 ・妖精族の王女

 千年目にしてようやく生まれた久方ぶりの子供。既に大人を超える魔力を持ち、かつて森を伐採に来た人間達をたった一人で撃退した過去を持つ。人間嫌いだったが少年と出逢い、人をもっと見てみようと考えるようになる。


 ・風来坊の男

 常に口許を襟巻きで隠し、笠を深く被っているため容貌は不明。腰に差した刀による神速抜刀術を避けられる者はいない。――かつての親友を除いては。

 実は戦の為に造られたヒューマノイドで、人ならざる者と酷使される中、親友だけが人として扱ってくれた。しかしその親友は戦死。全てが嫌になり、さすらいの旅に出た彼の耳に、かつての親友らしき男が敵組織にいるとの情報が入る。


 ・千人殺しの美女

 かつて故郷に攻め入ってきた野盗をたった一人で迎え討った過去を持つ。そのあまりの強さに逆に村人に恐れられ、千人殺しの〇〇の異名で迫害され故郷を追い出された。

 男勝りな口調だが実は甘い物や可愛い物に目がない。


 ・少年元帥海軍大将

 若くして異例の抜擢を受けた天才少年。かつて世界が二つに割れた大戦の折、戦略的重要地ながら手薄であった場所へ数に物を言わせて押し寄せてきた南軍最大規模の第八艦隊を、最低限の艦隊で迎え撃った過去を持つ。

 手薄であったのは彼の策の内。浮沈の〇〇と称される。


 ・六道脱獄記憶喪失青年

 かつて……】


 モリカには書きたいものが沢山あった。しかし己は一人、脳は一つ、時間は有限。そこで彼女の取った結論はこうである。

 ≪書きたいもの全部詰め込もう≫。

 ご機嫌でデータ保存するモリカ。ナチュラル趣向な木製マグカップを机に置き、もう一度至福の溜息を漏らした時だった。スクリーンから謎のもふもふした獣のような手が現れたのは。


「……え?」


 突然の異常事態に気の抜けた可笑しな声が漏れる。その直後、手が伸びてモリカの首根っこが鷲掴まれたと認識した時にはもう、その身はパソコンへ向かって引き摺られていた。


「ええ~!? 何これ~!!」


 咄嗟に机にしがみついて抵抗を試みる。しかし手の力は凄まじく、彼女の手は呆気なく机を離れた。

 机の次にモリカの視界を埋めたのは、一面の極彩色。手が離れ、宙に投げ出された身体は極彩色の謎空間に放り出されていたのである。


「何これ~!?」


 語彙がないのではない。この状況では言葉が出てこないだけ。

 上も下もない宇宙空間のような場所でただ一人、回転進行するモリカ。その視界が白く焼けた。遠くなる意識。それが戻った時には、彼女は己の足で地上に立っていた。

 ――ただし、知らない場所に、であるが。

 やりたい放題、足りないミソ。でも愛だけはある。


 追館モリカの珍道中が今、始まる。

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