送り狸
■■■22:50/月夜乃外苑 中央広場■■■
──一先ず、狸を連れて……集合場所にと決めていた中央広場までやって来る。
「えっと、それで質問をしても良いか?」
『乱暴した挙句に誘拐までしておいて──今度は尋問しようって!? アナタ何様のつもりよ!!?』
と、ヒステリックに叫ぶ狸(♂)。
「ああいや、その、ここまで強引に連れてきた事については謝るよ。ごめんなさい。でも──」
『──今更紳士ぶってどういうつもりよ!? まさかコレが飴と鞭ってヤツなの!!? そうなのね!??』
………………。
「えっと……先ず自己紹介からさせてもらうね? オレの名前は火神 光。アナタの名前は?」
『送り狸よ! 強引で乱暴なクセに急に礼儀正しくするなんてアタシをどうするつも──ッ』
「──送り狸さんは此処に住んでるの? もし住んでるのなら、ここ最近起きてる人間の失踪事件について何か知らない? 知らないのならもういいや、ご協力ありがとうございました!」
『あらヤダ急に適当……でもまぁ、アタシは此処には長いこと住んでるからねぇ。人間達の失踪についても勿論知ってるわよ』
と──送り狸は、平然とした口調で告げる。
そしてチラッ、と、オレに目を向けると何処か納得した様子で、
『…………成程。貴方はソレが知りたいのね?』
続け様に、送り狸は問う。
その問いに、オレは迷い無く頷いた。
『いいわ──話してあげる。貴方、強引だけど根は優しそうだし……ね?』
パチン☆ と、ウィンクし送り狸は話し始める。
この失踪事件の真相を──。
◆◆◆
全ては8年前。
一人の男の子が、この月夜乃外苑で亡くなったコトに端を発している。
その男の子の死因は事故であり、遺体はまだこの月夜乃外苑に眠っており……見つかっていない。
この地に繋ぎ止められ──両親の元へ帰れない。帰り道が分からない。
ただ一人、男の子はこの地に留まり続け……やがてその孤独に耐え切れず、悪霊へと成り果てた。
悪霊と成った男の子は、ただその孤独を癒したいが為に──次々と人間を自身の結界内へと取り込んでいる。
◆◆◆
『──って、ワケよ。はぁぁ、こうならない様にアタシもあの子を励ましたり、慰めたりしてたんだけどね』
……アタシじゃあ、あの子の両親の代わりにはなれなかったわ。と、寂しげに送り狸は告げる。
成程な。あ、もしかして、この送り狸の口調も──?
「そっか。あのさ、実は連続して失踪事件が起き始めたのは先月からなんだ」
『? えぇ、知ってるわよ。あの子が悪霊になっちゃったのはあの時からだし……』
キョトンとした顔を向けてくる送り狸に、オレは小さく微笑みながら告げる。
「その男の子がさ、その間ずっと耐えてこれたのは間違い無く──貴方のお陰だ」
『──ッ!』
送り狸は僅かに、息を呑む。
……どうやら驚いたらしい。
「つまり何が言いたいのかと言うと! 貴方がした事は無意味なんかじゃ無かったってコトだ!!!」
送り狸が居なかったら、恐らく失踪する人達はもっと多かっただろう。
送り狸が男の子を励ましたり、慰めたりしていなければ──男の子だってきっと、もっとずっと苦しくて寂しかったと思う。
だから──。
「だから、その男の子に代わって礼を言わせてくれ──ありがとう、送り狸。貴方の優しさに感謝を」
その場に片膝をつき、握手を求めるようにオレは右手を差し出す。
『ッッ──そう…………アタシが、したッ、コトは……無意味じゃ、なかっ、たのね』
差し出した右手に、自身の右前足をちょこんと乗せた送り狸は──
その言葉と共に、ポロポロと、目から大粒の涙を溢していた。
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