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3rd

 たった一人を除き、食卓には全員が揃った。このゲームが始まってから初めて関が食事に姿を見せたというのに、あの騒がしいダミ声の主は一向に現れようとはしない。敵ながら、それを寂しく感じている自分のお人好しさには、ヘドが出そうになる。

 おいおっさん、マジでどうしたんだよ。早く来ないと、無条件に鍵、取られされちまうぞ。

 心の内で語りかけても、当然ながら何の変化ももたらさない。おそらくゲームから消えている可能性の方が明らかに大きいというのに、まったく俺は何を期待しているのだろうか。

 昨晩、都城さんとは電話で話して生存を確認した。工藤さんとは連絡が取れたと舞さんは言っていたが、おっさんだけは不通のままらしい。そして朝になってもおっさんと顔を合わせたという話を誰からも聞かない。

 自分に冷たい視線が向けられていることになど、まったく気づいていない関は、空腹で料理を待ちわびているのか、忙しなく辺りに視線を飛び散らせている。さすがに昨日の今日なので、パンドラに噛みついたりはしないが、マナーの悪さを指摘しようものなら、こちらが噛みつかれかねない。ここは敢えて触れない方が賢明だろう。触らぬ神に祟りなし、先人の教えに従っておく。

「皆さん、時間となりましたので、朝食をお配りします。その間にコインの回収を行いますので、提示してください」

 携帯で時間を確認すれば午前七時。定刻通りに朝食は始まった。

 関は隣に座る藤吉さんに何やら耳打ちしているが、おそらくコインのくだりがわからないのだろう。さも可笑しそうに口元を僅かに歪めながら、藤吉さんは説明しているようだが、気付く暇もないほど関は動揺していた。右、そして左と順に目視し、ほとんどのプレイヤーが手元にコインを置いてパンドラを待っている様子を見て、ゼンマイ仕掛けのブリキのオモチャのように動きはだんだんと収束していく。

 隣で舞さんが口を隠して、必死に笑いをこらえようとしているが、こらえきれずに肩が上下する。これにはクールな小宮山さんや表立って他人を見下さない工藤さんですら、笑みを隠さずにはいられない。

 しかし空気がいくら改善されようとも木田はやってこない。

「関様と都城様以外の皆様のコインは確認しました。お二方には、あとでルームキーを提出いただきます」

 項垂れる都城さん。それとは対照的に関は拳を握り締め、テーブルクロスにしわを寄せる。異議申し立てようと、立ち上がろうとするが、寸前のところでそれをやめた。それでも金色の前髪の奥には、殺気がこもった瞳がぎろりと睨みを利かせる。このゲームでは話を聞いていなかったなど、以ての外だ。全ては自己責任。多少のリスクを負いながらでも、食事に参加して次のイベントについての情報を知り、次の食事までにイベント達成のために尽力する。

 そんな当たり前に気付いただけでも、関にとっては大進歩で、拍手喝采ものだが、もうすでに遅いというのは小学生にもわかることだろう。さすがの藤吉さんや小宮山さんでも鍵を失うのは、相当な痛手となるはず。頭のいい彼らでさえ苦しむはずなのに、それが関となると――他言は無用である。

「それでは楽しい朝食をお楽しみください」

 毎回のように淡々とした口調だったパンドラだが、木田のおっさんについて何も触れはせずに、頭を下げて部屋の隅へと向かおうときびすを返した。

 パンドラがその話題に触れないということは、おっさんはまだゲームに参加しているのか? それはそれでゲームのプレイヤーとしてはかなり厄介だが、あくまでも俺の理想は全員生還。その為には誰にも欠けてもらいたくない。

 だが俺の淡い期待は見事に打ち砕かれる。それでよかったのかもしれないが、今の俺にはわからない。

 一度は背を向けたパンドラだったが、再度こちらを向きなおす。

「一つ言い忘れていましたが、昨晩、木田雄大様がゲームから離脱されました」

 その瞬間、元から静かだった空間は完全に音を失った。刹那の内に急激に温度が下がったのだろうか。背筋を何かに鷲掴みされたような衝撃が走る。鈍痛にも似た重々しい悪寒。一瞬意識をそれに持っていかれかけるが、あと一歩のところでギリギリ踏みとどまる。

 昨夜の銃声、木田のおっさんの離脱。十中八九何者かに抹消されたのだろう。静けさから見て、全員がそう推測しているとみて、あながち間違いはない。

 では誰がそんなことをしたのか――あの時はコインを得るためにパートナー同士が連絡を取り合っていた時間帯だ。誰と組んでいるのかを把握されないため、人の来そうな場所で話すことなんてあり得ないし、自分のパートナー以外と会話する暇なんてものは存在しなかっただろう。だからこそ舞さんは、抹消の犯人を被害者のパートナーだと推理した。そして朝食時に誰が消されたかが発表される前に、犯人自身が抹消されて有耶無耶うやむやとなることを恐れ、被害者に成りえる三人の元へ電話で探りを入れていた。

 そして昨晩、俺を苦悩させた記憶がふと蘇る。

 抹消されたと思われる木田のおっさんのパートナーだった可能性が最も高い人物は……紛れもなく、片岡鳴海である。

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