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《4.銃声で始まる論愚乱》1st

 時刻は……わからない。外と繋がる扉はおろか、窓さえも存在しないこの空間では、時計がなければ時間を知ることは出来ない。一応俺も時計として常時圏外の携帯電話を持っているが、今はそれを見る気力も湧かない。

 トイレで聞いた淫らな鳴海の声が、耳にこびりついて離れようとしない。一種の不眠症だろう。

 もちろん気分がモンモンとして眠れないというわけではない。ただあれだけ熱心に同盟を持ちかけられたというのに、他の男と組み、その挙句に性交までしていた。裏切られたという事実が重く俺にのしかかる。

 そもそもなんで俺は、こんなに彼女に入れ込んでいるんだろう。同い年で、パンドラの箱に参加させられた同じ境遇で、一番最初に俺を頼ってくれたからか? だとしてもここまで入れ込むのは、度が過ぎているようにも思える。かといって恋愛感情なんてものでもない。可愛いとは思うが、鳴海と会話するときに気持ちが高ぶるなんてないし、第一に俺には香奈というれっきとした恋人がいる。それなら、俺が忘れているだけで彼女とは昔からの知り合いで、気付かないままその面影を追っているとか……馬鹿馬鹿しい、さすがにそんな漫画チックな理由なんて、推察するだけ無駄だろう。

 自分に納得させる答えが見つかるまで、眠れなさそうだ。

 考え込むととことん突き詰めようとする、それが昔からの悪い癖だ。中学の野球の試合でもそうだった。普段は楽観的で、守備に関しては天才肌なんて言われて調子に乗っていた。でも実際は何でもできると過信して、一つの失敗で泥沼にはまった末に、監督に怒鳴られる。今回もそうだ。舞さんと鳴海の二人に誘われて、二人が期待する能力があると勝手に思い込んで、鳴海に裏切られただけで、これ程考え込む。このままなら、舞さんにも愛想を尽かされかねない。仮に彼女を見捨てられれば、俺は生き延びる術を持たずに、死を待つばかりのあまりにも弱い存在でしかない。彼女に依存しなければ、生還できない自分にこれでもかというくらいの不満が溢れ出る。

 ……結局あの頃から、根本は何一つ変わってないじゃないか。

 幸いにもちっぽけな俺とは違って、状況はあの時とはずいぶん違う。昔は自分や周りに勝手に失敗と決めつけられていたが、今は違う。俺が死ななければ、失敗ではない、つまりは生き延びれば勝者だ。だったら泥水を啜ってでも、最後まで生き延びればいい。

 決意を新たに、明日以降を意識した時だった。

 近くて遠い壁越しの炸裂音――銃声だ。どの部屋かはわからないが、おそらくは向かい並びの部屋のどれかだ。そうなると現場は木田のおっさん、工藤さん、都城さんの三人の部屋に絞られる。

 訳のわからないこの世界の理というやつを本当だと仮定し、加味すると、暴発なんて可能性は排除されていることだろう。だとすれば被害者と加害者の二人が存在しなければ、発砲という結末を迎えることはない。

 俺は机の上の拳銃を手に、部屋を出ようとした。運よく犯人と遭遇出来れば、そいつを撃てばいい。なぜならそいつは、このゲーム中で初めての発砲をした人物であり、よってこれより先に銀の銃弾を撃った人物が存在しえない。さらにこんな目立つタイミングで、発砲した時点でダミーの可能性も限りなくゼロに近い。最終的な結論としては、確定に限りなく近いノーマルということになる。

 だが一つ気がついた。俺はいつでも誰にでもリスクが生じないように、銀の銃弾をマガジンの一番上、つまりは最初に発射されるように用意してある。このまま、遭遇してしまえば、こんなゲーム序盤で銀の銃弾を使ってしまうことになり、今後のゲームに支障をきたす。

 惜しい場面ではあるが、ここは諦めるのが最善か。あまりにも心残りの多い場面に、俺の平常心はかき乱される。

 だがそれと同じくして赤い内線のランプが点滅した。電話口の相手は舞さんだ。

「よかったぁ、まだ部屋にいた」

「どうしたんですか? もしかして俺が撃たれたと思いました?」

「ううん、そうじゃなくてね。部屋を出て行ってなくてホッとしたの。犯人を捜しに出て行って、誰かとバッティングしたら、危険だからね」

「危険?」

 危険とはどういう意味だ?

 出てくるタイミングを狙えば、確実に犯人よりも俺の方が優位に立てるはずだ。

「ええ。抹消できないワーウルフ、目立ってはいけないダミーウルフは、こんな場面で表には出てこない。つまり銃声を響かせた人物を抹消しに来た人物を抹消する。言うならばミイラ取りがミイラになるって言葉のままね」

 言われてハッとした。正に俺のように犯人を狙おうとした人物を狙おうと考える人物もいる。彼女に指摘されなければ、朝を迎えられなかったかもしれない。

「……ありがとうございます」

 彼女に助けられた。迷惑を掛けない、慎重に行動するって、決意したばかりなのに。

「えっ……。気にしないで、あたしたちパートナーでしょ?」

 それなのに、彼女は俺のことをパートナーと言ってくれる。どう考えても、俺はただの足手まといでしかないのに抹消する以上のメリットが俺の中に存在すると言うのか?

「ねえ、内線で都城さんに連絡してくれない?」

 なるほど。抹消された人物が、誰と組んでいたかを特定できれば、自ずと犯人を突き止められるというわけか。

 人手がいるから、俺が必要というわけか。代わりが存在しそうだが、今更言うことを聞くパートナーを用意できないから、俺は生かされていると考えた方がいいだろう。全体の頭数が減り、彼女一人で手が回るようになったときに、俺は用済みとなる。しかしポジティブに考えてみれば、最低限彼女から手を下されるその時までは、彼女に背中を任せられる。それなら必要とされなくなるまで、任せればいい。切り捨てられる直前まで、信じればいい。俺に足りない思考を彼女に補ってもらい、生かしてもらえばいい。

 過程はどんなに惨めでもいい。それでも結果として生き残れば勝者だ。

「……わかりました」

「そう、それじゃあお願いね」

 プツンと音を残し、内線は途絶えた。

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