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4th

 部屋に戻ってきたのが、十時半を回った頃。そして今が十一時を過ぎようかといったところだ。

 三十分間もひたすらファイルを読み返していた。一字一句なぞるように丁寧に読み返せば、パンドラの説明では省略されていた詳細を知ることが出来た。

 『抹消された後に余白と呼ばれる九十秒の余命が与えられること』、『通常、出血や痛みなどの概念が付きまとうが、抹消が確定した時点でそれらは適応されないこと』など、工藤さんに言われた通りの事象が記載されているのを確認した。他に挙げるのならば『ワーウルフは他のプレイヤーが銀の銃弾を使用した瞬間に、その情報を知ることができること』や『この世界での負傷などは、生還後の世界に影響しない』などの情報を得ることが出来た。

 普段の生活なら、電話やメールするのに躊躇する時間だが、七十二時間の中ではそんなことに構っている暇はない。早くカード交換を終え、明日以降の安心を手にしたいと思うのは俺だけではないはずだろう。だがそれとは反対に、舞さんか鳴海かを決めかねている自分の優柔不断さには、呆れるしか他にない。しかし醜態を嘆くよりも先に、パートナーを決めた方が賢明だろう。 それを図っていたかのようなタイミングで、扉はノックされた。さすがにイタズラなんてあり得ないが、来客でなければ、さらにえげつないものの場合もあり得る。拳銃を構えながら、扉の横に立って、廊下の相手に問いかけてみる。

「どなたですか?」

「あー、あたしだけど。真人君、ちょっと大丈夫かな?」

 どうやら舞さんらしい。来る前に電話してくれればいいのに。

 そう思いながらも、彼女が待たないように素早く扉を開けた。

「どうぞ」

 迎え入れる声を掛けると、すぐさま扉は開いた。だが――

 扉の隙間から拳銃が滑り込んでくる。

「バンっ!」

 その声に飛び上がった。

「ふふふっ。ごめんね、驚いた?」

「驚いたじゃないですよ、ホント」

「でも、あたしでよかったわね。もし、あたしが返事をさせられていただけなら、扉を開けた瞬間に殺されてたわよ?」

 優越感を前面に打ち出した笑顔を浮かべながら、彼女は拳銃をしまった。

 言い訳がましい取ってつけたような話だが、確かに間違いはない。女性であるからこそ、彼女の戦闘能力は男性よりも低いのは明白だ。一見小柄に見える都城さんでさえ、おそらく舞さんを抑え込むことは可能だろう。そもそも拳銃は抹消以外にも、四股に銃弾を撃ち込むことで、手足の自由を奪ったりもできる。よく映画の悪役がやっていることだが、その応用ならば、他の女性プレイヤーでも舞さんを利用して俺を誘き出して抹消することもできる。

 こんなことを考えていると、ますます疑心暗鬼になりそうだ。だが、実際に目の当たりにしないと、ゲームの判断は下せない。死と隣り合わせであり、そこから目をそむけないことが、生還への一歩だと再確認させられた他愛もない会話だった。

「それで俺に何の用ですか?」

 聞いてみたものの、俺を相棒にしてカードの取引を求めようとしていることくらい、誰にでもわかる。むしろわからない程度の知能なら、他のプレイヤーに切り捨てられる当て馬がいいところだろう。

「あのときの回答を聞きに来たの……。心は決まったかしら?」

 妖艶な笑みが俺に牙をむく。

 生還を第一に考えるなら、彼女以外に相棒はあり得ない。しかし片岡鳴海が気掛かりなのも本音である。中途半端な気持ちのまま、舞さんと組んだところで、舞さん自身に切り捨てられる可能性もある。それならいっそ断った方がいいのでは? そんな考えが頭を過る。

「やっぱりあの子がそんなに気になるの?」

「…………」

「なんで気付いたのか不思議そうね。でも陰で話し込んでいたことを知っていれば、食堂での振る舞いを見るだけで気付いて当然よ」

 さすがに舞さんには隠し通せないか。

 食堂では、席選びに手間取ったり、なるべく鳴海と目を合わさないようにしていたりと、俺自身も実感と反省点はある。だが、こうもあっさり言い切られると、少し落ち込んでしまう。

「素直なのも、考えものよ。そんなんじゃ彼女に隠し事できないわよ」

 茶目っ気たっぷりに言うが、私生活にまで指摘された感じがして、なんだか気に障る。しかし彼女と喧嘩をしても、百害あって一利なし。煙草と同じだ。

 おそらく洒落なんだと、自分に言い聞かせて、落ち着かせる。

 舞さんには不満もない。時々棘に刺されるが、頼りになるし、彼女から離れたくないというのが本心に違いない。

 自分でも鳴海にここまで関心が行く理由が、よくわからない。

「貴方とあの子の関係に気付いているのは、多分あたしだけじゃないわ」

 舞さんは語り始めた。おそらく俺を口説き落とすためのものだと、即座に見当はついた。

「小宮山君も藤吉君も、あの自己紹介の後、何度か私の背後に視線を向けていた……確実にあなたたちが陰で話していたことには気づいているわ。そして何より貴方の迎えに座っていた都城さんも……。朝が明けてみたら、先の二人のどっちかと片岡鳴海はくっついているはずよ」

 彼女の言ったことを確かめようにも、朝日に照らされるまで、真相は闇の奥深くにある。

 全てが真実だとは限らないけれど、嘘だとも限らない。あくまでも俺の勘だが、舞さんが嘘をついているとは思えなかった。彼女が俺と組みたがる理由もわからないが、俺が彼女を信用する理由もわからない。

 最初に話しかけてくれて、よくしてくれた人だから。そんな単純な理由かもしれない。

「……もう一度だけ聞くわ、あたしと組まない?」

 斜め下から上がってきた視線は、真っ直ぐ俺を捉えた。目と目がぶつかる。

「俺は……」

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