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ごめんなさい。魔女に魂売りました  作者: 蜜柑プラム
1章 裏切られた剣士と禁薬の魔女
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7話 教会の英雄

 ユージは教会に隣接する治療院で目を覚ました。


 体の動きが固いが、痛みはほとんどない。僕はサクラの魔弾を受けたうえに高所から落下したのだった。その割には、状態はいい方だ。さすが、教会付属の治療院といったところか。

 そうだ、その後サクラはどうなったのだろうか。

 

 ドアが開いて、ニコライが部屋に入ってきた。今日は白い聖職者の衣を着ているためか、以前会った時よりも威厳のあるおじさんに見える。

「やあ。教会の英雄殿。お加減はいかがかな」

「英雄って?僕ですか?」


 ニコライは含みのある笑みを見せて、部屋のイスに腰掛けた。そして僕に、サクラが魔女と契約した経緯と、司祭襲撃についてのでっち上げのシナリオを説明してくれた。


「とそういう事だから、君は司祭様を救い、犯人捕獲に貢献した英雄というわけさ」

「あんな無様に落っこちておいて、英雄ってのは気が引けますよ」


 僕は、苦笑いをして首を振って見せると、ニコライが「そんな事は無い、あこれお見舞い」と言って、荷物から教会サブレを出して、部屋の机の上に置いた。開発中のレモン味らしい。


「私はそのうちに助祭に就任します。サクラさんから司祭と関係者の悪事を聞き出したので、じっくりそやつらを潰して、教会を私が支配して見せますよ。魔女様はこれで国家転覆が近づいたと喜んでいましたよ」

 ニコライは、サブレを包みから出して、僕に手渡しくれる。甘酸っぱいレモンの香りだ。


「君たちがダンジョンで手に入れた宝ですけどね。しばらく、司祭の所有物という事で教会に保管しておきます。司祭を脅す証拠になりますからね。ちなみに宝は、特大のピンクダイヤモンドでした。あれは人を狂わすには十分な輝きですよ。ま、私の場合はすでに魔女様に狂ってますから大丈夫ですけど」


 ニコライは「ははは」と笑って、サブレを鼻に当ててじっくり香りを味わった。

 僕はサブレをかじって、ぼりぼり味わいながら魔女の計略に思いをはせる。ついに教会を頭から乗っ取りにかかったのだ。本当に恐ろしい人だ。


「ユージくんはこれからどうしますか?よければ、教会の騎士団長にしてあげてもいいですよ」

「そんなガラじゃないですよ。僕は、また一から冒険者を始めますよ。もっと強くなりたいんです」


 ニコライは笑ってうなずいてくれた。

 ニコライはナターシャとジーンという二人の愛人の話を存分に僕に聞かせたあと、魔女様には内緒ですよと言って、部屋から去っていった。



 僕は体が回復するまで治療院で過ごした。退院すると、その足で魔女の隠れ家を訪れた。


「合言葉ぁ」

「魔女様は美しい。魔女様は慈悲深い。魔女様は魔法の天才」

「入れ」


 扉を開けると中には魔女ともう一人、修道女のような服を着たサクラがいた。


「よく来たユージ」

 魔女はニヤニヤしながら、僕とサクラを交互に見る。サクラは僕と目が合うとうつむいてしまった。

 僕も同じように言葉を失ってしまった。


 魔女がサクラの脇腹を人差し指でつんつんすると、サクラが顔を上げる。

「ごめんなさい、ユージ。わたし、その、2回くらい殺しかけちゃって」

「あ、うん。1回は本当に死んだんだよ。あでも、僕も悪かったっていうか……」

 僕とサクラは互いに視線をずらしたり合わせたり、頭をかいたり、服の裾をねじったり。


「でも、許してない事もあるんだからね」

「僕だって、傷が残ってるんだからな」


 互いに、責めるような顔で視線をぶつけ合う。


 そして、サクラは口元を緩めて視線をおとした。

「もう、人を傷つけることはしないって決めたの。自分にできることをしようって思うの」

「うん、応援するよ。ここに集まる人達はみんな何かの罪を抱えているんだよ。これからのことを聞かせてよ、サクラ」


 互いの表情がほころんだ。彼女の瞳に希望が宿っている事を悟った。


「っはい!じゃあ、仲直りねこれで」

 魔女が陽気な声でわりこみを入れて、僕とサクラの肩をたたいた。


 そして、この話は終わりということにして、今度は矢継ぎ早に僕らに命令をまくしたてるのだ。


「二人とも、これから頑張って働いてちょうだい。サクラちゃんは、魔法教師の服のデザインを仕立て屋と相談しに行きなさい。その後、教科書作りの資料を集めなさい、いいわね。それで……ユージは、まずギルドに行って事件のてん末を説明して、うまい事かたずけて来なさい。それから魔導士との戦い方を訓練しなさい……その前にユージ、お土産は?手ぶらで来たんじゃないでしょうね?……教会の連中に英雄とか言われて天狗になってんじゃないわよ。……そうだわ、もうすぐハロウィーン・パーティをするの。今すぐカボチャを100個集めて来なさい。今すぐよ……」


 僕はもっとサクラとの和解の余韻に浸りたかったのだが、すぐさま憂うつな気分に襲われるのだった。


 サクラは「私もパーティのお手伝いしたいです」などと愉快そうに魔女に言う。

 魔女がサクラにああしたいのとか、こんなのやってみたいとか、言って二人の会話が弾んでいる。僕は茫然とたたずんで、混乱した頭を整理していた。


「ユージ。早く行きなさい。カボチャ100個、GO!」

「はあい」


 僕が扉を開けて部屋から出るとき、後ろから「サクラちゃんてほんとはユージの事どう思ってんの」というたいそう気になる発言が聞こえた。

 足を止めて、そおっと部屋の中をのぞくと、魔女が怖い顔でこちらをにらんでいたので、急いで扉を閉めた。


 気を取り直し、僕は隠れ家を出て、カボチャ探しの冒険に出た。


 これから忙しくなりそうだ。

 そして仲間が増えた。賑やかになりそうだ。



<つづく>

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