3話 魔女様は神
裏切り事件から2日後。僕とサクラが所属するギルドの情報が入った。
ギルドは、件のダンジョンが攻略されている事を確認し、そこでトールとレナの死体を発見した。僕とサクラはそれぞれ別にダンジョンを脱出する姿が目撃されているが、現在は行方不明としている。死体がボスとの戦闘によるのか、パーティ内トラブルによるのかは、まだ判断できないとしている。
僕は自分がギルドに説明に行った方がいいのではと思ったが、魔女は僕が契約者だとサクラに知られている以上、サクラの情報が入るまで動くなと言った。
裏切り事件から5日後。魔女は焦っていた。
サクラが見つからない。サクラがもし魔女の契約者を見抜けるなら、彼らを除いて魔女の力を削ぐか、逆に利用されて魔女自身に危険が及ぶかもしれない。僕は魔女の隠れ家で、いらいらしている魔女の愚痴を聞くのがここ最近の仕事になっている。
魔女の総力で探しても見つからないとなると、有力者にかくまわれているかもしれない。
僕が"魔女のスゴイところ千個言えるまで帰れま千"ゲームの54個目で悩んでいる時だった。
コンコンと扉がノックされた。魔女が「合言葉ぁ」と応じる。
「魔女様は美しい。魔女様は神。魔女様は真理」
「入れ」
扉を開けて入ってきたのは、白髪の混じった初老の男性。品があって、それにとても優しそうな人だ。こんな立派なおじさんでも、あんな合言葉を言わされているんだなあと気の毒に思った。
「教会牧師のニコライでございます。魔女様ごきげんよう」
「おう、よく来たニコライ。座れ座れ」
魔女は機嫌よくニコライを迎え入れた。ニコライはお土産を取り出す。
「これをどうぞ召し上がって下さい、教会オリジナルサブレです。販売数も順調に伸びております」
「これはよい物を持って来た、一緒に食べよう。ユージ、お前も食え。私のアイデアで、ニコライに開発させたお菓子だぞ」
教会もこのわがままな人に侵略されているのだなと思いながら、僕は「頂きます」と返事する。
「魔女様。さっそくですが、例の探し人、うちの司祭にかくまわれています」
「!?……あのヨボヨボジジイ?」
「はい、そのヨボヨボジジイしか入れない部屋の中に女性がいるのを、私の愛人の牧師が確認しております。その特徴が魔女様からお聞きしたものと一致します」
「あんのクソヨボヨボジジイ、何考えとる?」
「最近司祭は教会の騎士団の強化を急いでいます。何か関係があるのかもしれません」
「んー……よし、ユージ。お前が行って調べてこい」
僕は油断して聞いていたので、サブレを噴き出してしまった。
「無茶ですよ!司祭の部屋なんて。潜入しろって言うんですか?」
「うるさい!自分でなんとかしろ。今私の配下で危ない橋を渡れる奴はお前だけなのじゃ」
僕って鉄砲玉なんだろうかと思った。魔女は続ける。
「それに、お前が決着付けなきゃいけない事だろ?違うか?」
「……そうですけど」
「よし。30分後に出発しろ。それまでに作戦を立てて、必要なものを私に言え」
魔女が命令を言い放って話を終わろうとした時、ニコライがもじもじしながら口を開く。
「あの魔女様。ご褒美を頂けますか?」
ニコライはそう言って、床に這いつくばった。
「うむ、大儀であった」と魔女は言って、ニコライの頭を踏みつけた。魔女に踏まれたニコライはまるで天国にいるかのように幸せそうな表情だった。
立派なおじさんのこんな姿を見たくはなかった。それに愛人がいるとか言っていたし。
こんなのが牧師でいいのだろうか……
<つづく>