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ごめんなさい。魔女に魂売りました  作者: 蜜柑プラム
1章 裏切られた剣士と禁薬の魔女
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1話 裏切られた剣士

 スパッと剣を振れば敵の魔物が真っ二つに裂ける。手ごたえ十分、これで僕の勝ちだ。渾身の一撃で敵を倒すのはとても爽快だ。戦闘は楽しい。ニッと口の両わきを上げて、勝ち誇ったスマイルをつくる。最後は堂々と、余裕たっぷりな態度で剣を鞘に納める。

 背後からパーティのメンバーが歓声を上げる。

「一振りで仕留めやがった!」「すごいねユージ!」「これで攻略ですね」

 槍使いのトール、回復術士のレナ、そして魔導士のサクラだ。

 うんうん、自分が誇らしい。

 僕は剣士のユージ、このパーティのリーダーだ。


 倒したのはこのダンジョンのボス。そしてその先には宝箱がある。それはまぶしいくらいに黄金に輝いている。これまでに見てきたものとは明らかに違う輝き、こいつが今回の冒険の目標だ。さぞや良いお宝が入っているはず。

「みんなお疲れ様。さあ、獲物を頂こう」

 僕はメンバーを宝箱へと促す。本当は走って早く開けたいが、それはみっともないだろうと、はやる心を抑えてゆっくり歩き始める。

 槍使いのトールがうひょーっと言いながら宝箱に向かって駆けていった。

「ははは、トールはそそっかしい。一緒に開けようよ」と言いつつ、僕はちょっと早足になった。

「ねえ、何が入ってるんだろうね?」と回復術士のレナが僕の横に付いてくる。

「このあたりの最高ランクのダンジョンだからな。楽しみだ」


 トールはもう宝箱のそばで膝をついて待っている。

「早く来いよ。ユージ、お前が開けてくれ」とトールが僕を手招きする。


 僕は宝箱の正面に対峙し片膝をついた。宝箱のふたに両手をかける。胸が高鳴った。


 ――が、その時。背後からとてつもない魔力を感じたと同時に、周囲が急に明るくなった。驚いて後ろを振り返る。


 仲間の魔導士、サクラだった。サクラは両腕を僕たちに向け、手のひらで魔弾-魔力の砲弾を創り出している。その魔弾は光の粒を飛び散らせながらこうこうと白紫に光っている。

「待て!どうしたんだ!」

 とトールが叫ぶ。

 サクラは黙ったままこちらをにらみつけている。魔弾が大きくなる。それに合わせるようにサクラの表情が敵意に染まってゆく。

「やめて、落ち着いて」「打たないでくれ」

 メンバーがなだめても魔弾はどんどん大きくなる。僕は驚きと恐怖で言葉が出なかった。これは、


 ――裏切りだ


 僕は震える両膝を地面につけて両手を上げて見せた。震える声で言葉を絞り出す。

「は……はなしを、しよう……」

 

 サクラは言葉を返さない。

 サクラは僕たちのギルドの中では中堅の魔導士だった。しかし目の前の魔弾はそのレベルではない。これほどエネルギーを集中した魔法は見たことがない。当たれば死ぬ、本能で確信する。きっと力を今まで隠していたのだ。

 魔弾がまた大きくなる。


「なあ?話をしようじゃないか――」

「うるっせえな!雑魚どもが!」


 サクラがやっと発したその声は怒気に満ちていた。彼女はこんなきつい口調で仲間を罵る性格ではなかった。人当たりが良くて、可愛げがある女性だったはず。


「おい槍使い!お前へらへらしてうっせーし!――でウザイんだよ!」

「…………」

「おい回復!お前、媚びるようなしゃべり方やめろ!――キモイから!」

「…………」

 トールとレナはサクラの罵声に言葉を失っている。


「聞いてんのか?…………聞いてんのかっつの!」


「「はいっ!!」」


 トールとレナは顔をひきつらせて固まっている。サクラは二人とのやり取りには満足したようだ。

 きっと次は僕だ。


「おい剣士」

 ――ギクッ。分かっていてもギクッとする。さっきよりも声が1段階低くなった気がする。

「剣士。お前の秘密を知ってるぞ……」

 ――ギクッ。

 まずい。冷や汗がほほを垂れる。まさか、秘密って……。

 魔弾はさらに大きくなってサクラの足から胴体が見えないほどだ。

「何を……言って……」

「とぼけんな!!」

 サクラが声を張り上げた。

「自分の口から言え。今っすぐ言え!……さもないと……」


 ――いったい何なんだこいつは。言えるわけ無いだろ。

 僕はもう汗が止まらない。顎が震えて歯がガチガチ鳴る。なんとかならないかと思考を巡らしても、逃げ道が見つからない。マズすぎる。


「――言え!!」

「はい!」

 僕はサクラの怒声と巨大な魔弾が怖くて、もうどうにもならなかった。


「すみませんでした!! 魔女と取引しました! 禁薬に手を出しました!」


 言った。言ったら僕の人生が終わる事を言った。

「本当にすみません!許してください!」


「まじかよ……このクソ野郎!」

 トールとレナが僕に怒りの視線を向ける。


「それだけか? あ?まだあるんだろ?…………言え!!」


 もう僕には自分の尊厳を守るための精神力は残されていなかった。

 吐き出すしかなかった。


「すいあせん!!トールさんのお酒を寝ている隙にちょいちょい盗んでました! それから、レナさんの口紅を取ったこともあります! それからそれから、3回くらい告白されたことあるとか言ったのは嘘です! ほんとすああせええん!!」


 僕は泣いて涎を垂らしながら白状した。なんとも惨めである。

 本人としては心からの誠実な謝罪なのだが、内容が内容なので許される事など無い。

「……クズ」「……きも」


 もうダメだ。こんな事になるなんて。


「お前さあ、まだあるだろ?……私のカバン、開けただろ?……あん?」

 僕はまたまたギクッとした。


 両手を着いて、そして深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ありません……サクラさんの……カバンから……腹巻きを取りました。でも!下着はあったけど取ってません!信じてください!」


 しばしの間沈黙が続いた。みなドン引きである。


 終わった。最悪だ。むしろ殺してくれ。

 涙と鼻水で僕の顔はぐちゃぐちゃになっている。沈黙のなか僕の嗚咽が響いている。

 沈黙を破ったのはレナだった。

「死んで詫びろクズ。もしくは私があんたを殺す。――だからサクラさん!私とトールは許して?」

「そうだ。こいつのせいで殺されちゃかなわん。俺がこいつを殺すぜ」

 僕はさらなる絶望に落とされた。そんなあ、殺すだなんて、仲間じゃないか。

 僕はもう一度深々と土下座をする。「申し訳ありません」と。それしかできないのだ。


「ふん、ブザマだな。じゃあな」

 サクラは最後にそう言って、目一杯に大きくなった魔弾を、ついに放った。こうこうと光る白紫の魔弾が勢いよく僕に向かって迫ってくる。まぶしさが増す。


 やめてくれ、いやだ、こんな死に方。こんな一生。






 死ぬかと思った。そう思ったなら生きている。僕が意識を戻したのは、ダンジョン最深部、宝箱の部屋の壁際だった。

 身に着けていた金属製の防具は砕けて散らばっている。体のどこもかしこもが痛い。特に腹が痛い。自分の腹に目をやると、剣を突き刺された後が5つもあった。見ると余計に痛く感じる。きっとサクラが繰り返し刺したのだ、とてつもない憎しみを感じる。それにしても、

 どうして生きてるんだ?



――おい、気付いたか?

 魔女の声が聞こえる。あの人は魔法で遠くから通信ができる。

「はい、生きてます。死んだと思ったんですが」

――お前には<再生の禁石>を埋め込んでたの。よかったな、私に感謝しろ。

 そうだったのかあ、魔女すげえと僕は思った。


 僕は魔女に丁寧に感謝を告げて、状況と経緯を説明した。怒られると思ったから、なるだけ自分がかわいそうな被害者という感じで説明したのだが、魔女は淡々と「それで?それで?」と相づちを打つだけだった。僕はユージくんかわいそうねとか同情してなぐさめてほしかったのに。


――わかった。ダンジョンから出て、私の隠れ家に来い。以上。


 魔女は一方的にそう言い放って通信を切った。

 相変わらず高飛車な人だな。どれだけ僕の心と体が傷ついれるか分かってるのかよ。


<つづく>

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