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私だけができること?

「裏庭の女神像かい?あれは私がアウラを引き継いだ時にはもう置いてあったはずだけど、あれがどうかしたのかい?」


「あの女神像の後頭部から魔力が出てますよね?」


「魔力が?いや、そんな話、聞いたことないが。ハルは魔力を感じるのかい?魔力が無いと言われたんだろう?」


「魔力は無いけど魔力を見ることはできますよ?シェリーさんが魔法を使うと指先から綺麗な金色の粉が飛んでましたもん」


「え?」

「え?」


 モーダルさんと私が互いにハテナを飛ばし合う。


「もしかしてモーダルさん達には金色の粉が見えないの?」

「もちろん見えないよ。魔力が見えるなんて話は聞いたこともない」


 そこに後ろからヴィクターさんの声が割って入った。


「そうなんだ。魔力が見える者など、この世界にはいないんだよ」


「出た」

「出たとか言うな。ハル、私の魔力も見えるかどうか試して欲しいのだが」

「いいですけど」


 いつの間にか私の後ろに立っていたヴィクターさんが腕を動かした。彼の指先から濃い金色の粉が飛んで花瓶の花に飛んでいく。ピンクの可愛い花が一本浮かび上がり、金の粉をまとったままヒュッと飛んでヴィクターさんの手の中に収まった。金色の粉は消えた。


「見えますね。シェリーさんより濃い金色の粉が飛んでます。ヴィクターさん、同じことをもう一度やってもらえます?」


 ヴィクターさんが腕を動かした。

 ヴィクターさんと花瓶の間にいる私が素早く腕を伸ばして金色の粉を遮った。粉はキラキラと私の手の中で小さな渦を作り、スッと消えた。花瓶の花は動かなかった。


「はあっ?魔法を止めるだと?」

「声が大きいわよ。もう夜なんだから大きな声を出さないで」

「ハル、もう一度だ!」


 それから何度もヴィクターさんが魔法を使ったが、私が全部途中で遮ったから花は動かなかった。何回も金の粉を受け止めた私の右手はポカポカと温まり、次第に右手から全身へと温かさが広がった。


「ハル、身体は何ともないのか?」

「そうだよハル。魔法使いの魔法を遮って何ともないのかい?」

「別に。ポカポカするくらいかな。他の人が魔法を遮ったらどうなるんです?見せて欲しいです」

「え?私が?嫌だよ恐ろしい」


 嫌がるモーダルさんの手首を「まあまあ、一度だけ」と私がつかんだ。「できるだけ弱くするから」と言ってヴィクターさんがわざとゆっくり魔法を発動してくれた。


「イタッ!」


 モーダルさんの腕がパン!と後ろに弾かれて手のひらには赤い痕がついた。


「もっと強い魔法なら手に穴が開くか腕ごと取れるぞ」 


 ヴィクターの言葉にモーダルさんが青くなった。申し訳ないっ!


「なら何で私はポカポカするだけなんだろう」


 私がそう疑問を言葉にしても、そのあとはもう、ヴィクターさんは自分の世界に入り込んで何を話しかけても返事をせず、ブツブツ言いながら部屋に引き上げてしまった。



♦︎



 その夜の夜中に近い時刻。二人部屋の私とコニーはおしゃべりをしていた。


「ねえハル、ヴィクターさんて素敵よね」

「そう?コニーはああいうタイプが好きなの?」

「やだ、好きだなんて。あの方は魔法使いだもの、私なんかには手が届かない方だけど、お顔も素敵だし、すらりとしたお体も素敵じゃない?魔法使いなのに私たちに威張ることもないし」


 理解できずに思わずベッドで起き上がった。


「よく意味がわかんないんだけど。人を好きになるのに魔法使いとかそうじゃないとか、関係あるの?」


 コニーも起き上がった。二つのベッドは左右の壁際にある。間にはナイトテーブルひとつ分の間が空いているだけだ。狭いながらも楽しい我が部屋だ。


「そうか。ハルはこの世界の人じゃないんだものね。ついうっかり忘れそうになるわ」


 そこからコニーがこの国の結婚事情を説明してくれた。


 この国では貴族と平民の違いの他に魔力のある無しの違いがあるそうな。国民は皆十二歳の誕生日に魔力のある無しを判定されるそうだ。十二歳を過ぎて魔力が生まれた例は無いらしい。


 平民であっても魔力があれば貴族と結婚できるし、貴族の家に魔力を持つ子供が一人も生まれない場合は、魔力持ちを結婚相手に迎えて家を存続させないと爵位を国に返さねばならないらしい。


「魔法使い、引っ張りだこじゃないの」

「そうよ。魔力のある子供が生まれるまで愛人を何人も抱える貴族だって珍しくないわ」


「うへぇ。出生率は上がりそうだけど、道徳的にどうなのよそれ。……でも、そんな国が私を召喚したのなら、そりゃみんなががっかりもするわね」


「でも、ハルにしたら災難だったわよね。私がもしハルの世界にいきなり召喚されたら生きていけないわよ。ハル、あんたはえらい。立派よ。たくましい!」


「私、打たれ強いのかも。少し複雑な環境で育ったからさ」


「そうなんだ?さ、もう寝ようか。私はハルが元気ならそれで満足よ」


「ありがとうコニー。おやすみ」



 世の中には人の不幸や家の中のトラブルの匂いを嗅ぎつけると目をギラギラさせる人が少なくない。でもコニーはついうっかり話したその点に食いつかなかった。

 その思いやりと優しさにホッとした。嫌な人もいれば優しい人もいる。それはこの世界でも変わらないのね。


 明日も早い。しっかり眠ってしっかり働こう。布団に潜って目をつぶった。結婚の話をしたせいか、家族のことを思い出した。



 お母さん、お父さん、元気かなぁ。こんなことになってどれだけ心配しているだろうか。弟たちはどうしているだろうか。弟たちも私のことでつらい思いをしてないといいな。ニュース沙汰になったりしてないことを願うよ。


 私が無事であることだけでも伝えられたらいいのにね。


 

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