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極小の青い鳥 

 今度こそ本当に席を立って店を出た。ぷりぷりしながら歩いた。つけられないように市場の中を後ろを確認しながら何度も無駄に曲がって、迷子になりそうになりながら宿屋アウラに戻った。

 

 波立つ心を抑えて宿屋アウラの裏口から入り、裏庭に立つ。ここは静かで心が落ち着く。


 ここには草花が豊かに植えられていて、井戸や物干し場の他に小さなほこらがある。日本の祠とは違ってローマの神殿のミニチュアみたいな形だ。中には私の膝の高さくらいの大きさの女神様の石像が収められている。とりあえず手を合わせて「無事に帰りました」とお礼を言った。



「ん?」


 よくよく見るとその像の後頭部から金色の粉がごく僅かに出ている。あんまりわずかだから今まで見逃していた。金色の粉は後頭部から時々流れ出て地面に降り注いでいる。金の粉は地面に触れるとしばらくして消えていった。


 その粉が効いているのか、祠の周りの草花は生き生きと茂って花を咲かせていた。離れた場所の草花とは明らかに草花の勢いが違う。興味が湧いて両手で器を作り、そっと像からあふれ出る金の粉を受け止めた。


 ほんのり温かい感じがする。粉は消えるけれど、それを受けた手のひらから次第にじんわりと温かさが身体に伝わっていく。すごいな魔力。この像はなんで魔力が湧いてるんだろう。今度モーダルさんに聞いてみよう。


「ハルは何をしているの?」


 背後からかけられた声に飛び上がって驚いた。聞き覚えのある声に後ろを向くと、やはりヴィクターさんだった。


「私のあとをつけて来たの?」

「まだ用があるから君の居場所を探して来ただけだ」


 それをつけて来たと言うのでしょうが。


 ヴィクターさんは私の頭の上をチラリと見上げた。つられて見上げると私の頭の上を小さな小さな、スズメバチほどの大きさの青い小鳥が輪を描いて飛んでいた。


「わ。なにこれ。めっちゃ可愛い!」


 私が腕を伸ばし、そっと人差し指を差し出すと極小の小鳥は羽ばたくのをやめて人差し指の先にとまった。満足げにそこで羽繕いをしている。


「な!使役鳥に何をした?」

「何って、指に止まるかなーと思ったら止まってくれただけ」

「見えるのか?」

「そりゃ見えるわよ。目は悪くないもの。可愛いなあ。私もこんな小さな鳥、飼いたいなぁ」


 ヴィクターさんが無言なので顔を見たら口をパクパクさせていた。


「魔力の無い者は使役鳥が見えることなどないはずなのに。しかも監視中だから俺以外は魔法使いにだって見えないはずなのに」


「ふうん。そうなの?散々検査されて魔力は無いと断言された私でも、青い小鳥が見えますけどね」

 

「青……本当なんだ。信じられない」


 ヴィクターさんはそう言って指揮者が最後にオーケストラの音を止める時のような、空中の何かをつかむような動作をすると小鳥は消えた。


「あ……消えた。なんだ、本物じゃないのか」

「それで君は、いや、ハルは、ここで何をしていたの?」

「何って。女神様の像から金色の魔力が溢れ出ているから手のひらで受け止めていたんだけど」


「はあっ?」

「いちいちうるさいって」

「ハルには見えるのか?いや、そもそも像から魔力が出ていると?」

「出てるじゃない、ほら、頭の後ろから金色の粉が少しずつ。辺りに散らばって草花が元気になってるじゃない」


 ヴィクターさんは頭を振り、女神像に近づいた。


「確かにわずかな魔力の流れを感じる。ここは大地の魔力が湧き出るポイントなんだろうな。それにしても監視用の使役鳥が見えたり魔力が見えたり……魔力も無しにそんなことができる人間がいるなんて。いや待て、異世界の人間だからか?やはり先見様の予言は当たっていたという証拠なのか……」


「何をブツブツ言ってるんです?とにかく、ここは私の職場ですから。仕事の邪魔はしないでくださいよ」


「そ、そんなつもりでは。そうか、ここは宿屋だったな。それなら俺はしばらくここに泊まる。どうせ今は宿屋暮らしなんだ。ハルの力の謎が解明できるまで俺はここに泊まるぞ」


 うわぁ。なんて迷惑な。



♦︎



「そういうことで俺はしばらくこちらに泊まりたい」


「少々お待ちくださいませ」


 モーダルさんはそう言って私をカウンターの奥の部屋に引っ張った。


「ハル、いいのかい?あの人だろう?ハルを召喚したという人は。嫌だったら満室と言って断るが」


「いいえ。構いません。お客さんなんだからガッチリ稼いでくださいよ。私なら何を言われてももう関係ないのですし」


「そうかい?何か嫌なことをされたり言われたりしたら、すぐに私たちに言うんだよ?いいね」


「わかりました。ご心配をおかけします」




 そういう経緯でヴィクターさんは宿屋アウラの宿泊客となった。そして、客室係に私をご指名ですよ。とほほ。私が嫌がったらコニーちゃん達に迷惑がかかりそうだから受けましたけど。


 結果を言うとヴィクターさんは紳士的な客で、私の仕事の手が空いた時に私に質問をするだけだった。私に対してもすっかり友達みたいな言葉遣いになった。


 ヴィクターさんと会話していて知ったけれど、魔力の金色の粉は、誰にも見えないらしい。へええ。驚いた。


 それなら私は裏庭の祠の像から魔力が湧き出している理由を知りたい。私以外の誰か魔力が見える人があの場所を選んで像を置いたんじゃないの?


 モーダルさんに聞いてみなくちゃ。


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