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ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです【書籍発売中・コミカライズ】  作者: 守雨


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今日も二人でお出かけ

「陛下、最近面白い話を耳にしましたよ」

「ほう。ヘイデン、ぜひ聞かせて欲しいな」


 イーズデイル王国の宰相補佐ヘイデンは、少し前に南の隣国ホルダール王国で起きた金の雲の話を耳にした。それは大変に派手で人目を惹く事件だったので、既に国王セルドリックには報告されていたのだが、ヘイデンはその続きを持って来たのだ。


「近頃、王国内のあちこちに『快癒の椅子』なる物が置かれるようになりました。配下の者に調べさせましたところ、利用した者は穏やかではありますが、確かに病気や怪我が良くなることが確認されています。医者にかかる余裕のない者たちにとっては大変な恵みとなり喜ばれております」


「ほう。誰が置いたのだろうな?」

「わたくしもそう思いまして、椅子が置かれた日時を詳しく調べさせましたところ、ホルダール王国であの事件が起きたひと月後から始まっておりました」

「ほう?それはなかなかに興味深い話だな」


 イーズデイル国の王セルドリックは三年前に戴冠したばかりでまだ二十八才だが、賢王と呼ばれる思慮深い性格で国民の支持が高い。その賢王セルドリックは面白そうな顔で幼なじみ且つ有能な宰相補佐役の顔を見た。


「この国で最初の快癒の椅子は、ホルダールから移り住んだ夫婦の家にありました。その者たちは名前こそ違っておりましたが、外見は全て、金の雲の災いからホルダール王国を救った聖女と魔法使いの外見に一致していました」


 セルドリック国王は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに楽しそうに笑い出した。


「ふふふ。なるほど。つまりホルダールは救国の聖女と魔法使いに逃げられたと言うことかな?」


「はい。どうやら周囲に騒がれるのを嫌ったことと、魔力に関することで二人とも酷い扱いを受けたことがあるようです」


「いかにも有りそうな。ホルダールは攻撃魔法優先主義が行きすぎているからな。千人か二千人に一人しか生まれない魔法使いを大切にするあまり、魔力を持たない民を蔑ろにする傾向が強い。その上、魔法師部隊の威力を笠に着て我が国にずいぶんな無理を言い続けてきたな」


「我が国にその二人が来てくれたのは誠に幸運でした」


「ヘイデン、その二人にあからさまな接触はするなよ。名前を変えているし自らの功績を自慢していないのなら、目立たぬ暮らしがしたくて逃げて来たのだろう。ならば我が国では静かに暮らしていただこう。だが、今後はホルダールから我が国に入国する者については検査を特に厳しくするように。嫌がる二人が無理やり連れ戻されては気の毒だ」


「承知いたしました」


「おそらく快癒の椅子は聖女のなさったことだろう。しっかり管理するよう、椅子が置かれた土地の所有者に指示を出してくれ」


 そこまで言ってから若き王は窓の外、南の方角を見た。そして

「はっはっは!ざまあみやがれホルダールめ!長年の傲慢な行いにバチが当たったな!」

と高貴な生まれ育ちとは思えない罵声を浴びせて楽しげに大笑いをしたのだった。



♦︎



 私とヴィクターは家から馬車で二十分ほど離れた町にお茶とお菓子、軽食の店を構えた。二人で切り盛りできる狭い店だ。もちろんおかゆとジェラートも売っている。


 ホルダールとの国境から遠い場所なので、私のことを知らない人たちが毎日のように通って来てくれて、穏やかで楽しい暮らしが続いている。


 開放している自宅の庭の椅子は、毎日何人かが利用するようになったのでベンチを三つ増やした。その人たちのためにお茶と焼き菓子、軽食を用意して、留守の間はセルフサービスで利用してもらうことにした。どれも小銅貨二枚の値段で、利用者が箱に小銭を入れる形だ。不正をする人はいない。それどころか野菜や卵を料金の他に置いて行く人もいる。



 今の生活で唯一不便なことがあるとすれば、私は一年中袖のある服と足首まで隠れるスカートを着用しなくてはならないことだけど、それはこの国では既婚女性の常識中の常識だから文句は言えない。



 しばらく前に私たちは役所に届けを出した。正式にイーズデイル王国の国民となり、同時に夫婦になった。


 普通は他国の出身者が国民になるのには審査が厳しくて、最短でも二週間はかかるとお客さんたちに言われたけれど、なぜか私たちは翌日には許可が出て驚いた。ラッキー。



 ヴィクターは「俺に家族ができた」と感無量の様子。その思いは私も同じだ。


「ヴィクター、今日はお休みだから、またこの国の見物がてらに魔力が湧くところを探しに出かけたいんだけど、いいかしら」


「ああ、俺もまだまだこの国を見て回りたいからな。ベンチも積んで行くか?」

「うん、お願い」


 私たちは馬車の御者席に並んで座り、クロをお膝に乗せて出発した。この国はとても居心地が良くて、大好きだ。



♦︎



 それから百年後。



 イーズデイル王国には百年前のある時に突然、聖女が住むようになった。しかしその姿を見た者はいない。


 聖女は『快癒の椅子』を国内各地に置いて、民の健康長寿をそっと後押ししてくれた。


 ひとつ目の椅子が置かれてから百年経った今も、快癒の椅子は管理され取り替えられながら同じ場所に置かれ続けている。場所によっては屋根も付けられ、この国の民なら誰でも利用できる。


 快癒の椅子は専門家により効果が確認されており、そこに座れば赤子の病気は治り出産した産婦の回復も早くなった。老人の関節痛も和らぐと評判である。怪我の治癒が早まるのはよく知られている。


『貴族も平民も魔力のある者もない者も平等に譲り合って使用すること』というのが王家が定めた唯一にして絶対のルールである。代々の国王と王妃、王子王女も快癒の椅子を利用していることは有名である。


 快癒の源は椅子ではなく場所にあることは早い段階で実験により証明されている。


 最初の快癒の椅子が置かれてから百年を経た現在も、稀にではあるが快癒の椅子が新たに設置されることがある。調査すると新しい場所の治癒効果が確認されることから、聖女の力を受け継いだ子孫が我が国の民として暮らしている可能性が極めて高い。


 尚、イーズデイル王家は代々に渡って聖女の存在に関しては肯定も否定もせず、ノーコメントを貫いている。




 聖女研究家ザイルス・オーバーン著『聖女の足跡』より抜粋

最後まで読んでくださってありがとうございました。

誤字報告や評価、感想やレビュー、どれも励みになりました。毎回のことではありますが、誤字報告してくださる方には心から心から!感謝しております。


 完結部分を描き終わるまで感想欄を閉じていましたがご容赦ください。

また次の作品を公開しましたらお付き合いいただけると幸いです。


2021/04/21 守雨

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書籍『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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コミック版
『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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