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領主コンラッドの提案

 私たち一行を出迎えてくれたコンラッドさんは、人払いをしてから私とヴィクター、ポーリーンさんに今後のことを尋ねた。


「金の雲が次第に小さくなっているということはいずれ消え去る可能性が高いわけだね?」

「はい、そうですね」

「ハル、君たちはそのあとはどうするつもりだい?」 

「どうって、普通におかゆとジェラートを売って、どこかに腰を落ち着けて暮らそうかなって」

「いや、おそらくそれは無理だ。この国に聖女がいるということは他国に対して大きな抑止力になる。国が君を放っておくはずがないよ」


 ヴィクターも暗い顔でうなずいている。

 抑止力って。わたしゃ核兵器か。 


「あのう、どの程度かはわからないんですけど、治癒魔法を使えるようになったことなんかは言わない方が?」 

「なんだって! 治癒魔法まで使えるようになったのか」

「はい。いつ力がなくなるかも治癒する力量もわかりませんけど。私はこの国を救おうとして、あの光を自分の身に受けたことで、やっと本来望まれていた聖女の能力を身につけたのかなと思ってます」


 コンラッドさんが「はああ」とため息をついた。


「ハル、君は王城で働く強い治癒魔法使いが何歳まで働くか、知っているかな」

「いいえ、全く」

「死ぬまでだよ」

「えええっ? そんなことって。本人が退職したい時は?」 

 その問いにはヴィクターが答えてくれた。

「おそらく認められない。治癒魔法使いは結婚もせず、ずっと働き続けている。たまに休みは貰えるようだが」

 どんなブラック企業よ! やだよ、そんなの。いきなり連れてこられて死ぬまで働くなんて絶対に嫌! 

「私も国のやり方にはいろいろと納得してないんだ。そこで……」

 そこからコンラッドさんが提案してくれた案に、私は飛びついた。


 翌日の夜、私たちはポーリーンさんが先見した地点にいた。

たくさんの領民たちに見守られながら雲の魔力を大地に戻した。そして今度は私の両膝から下、足首まで新たな紋様が刻まれた。ヴィクターが「美しいよ」と褒めちぎってくれなかったら号泣するとこだ。

 雲は目に見えて小さくなっていき、見物人は日増しに多くなった。私はすっかり人々に聖女と呼ばれている。


  雲が小さくなるのに合わせてヴィクターが展開する魔法陣も小さいものになった。

 金色の雲の最後は夜だった。

 小さくなった雲がカッと光り、私が大地に魔力を戻したあと、金色の雲は金の粉を夜空に振り撒きながらゆるゆると渦を解いて消えた。

「うわあああ! 聖女様、万歳!」

 人数が膨れ上がった見物人からそんな声がかかり、満足げなエルドレッド王子が私に歩み寄って来た。

「ハル。そしてヴィクター。この度のこと、ホルダール王国を代表して厚く礼を言う。感謝してもしきれない」

「できることをしたまでです、殿下」

「国の大災害を救ってくれた礼をさせてくれ。とりあえず今夜は一緒に王宮に戻り、ゆっくり過ごしてほしい」

「そのことですが殿下、私からお願いがあります」

「なんでも言ってくれ。全力で叶えられるよう努力する」

 たくさんの人たちの前で殿下がそう答えてくれた。なので私は「役目を終えたのですから元の世界に戻して欲しいのです。家族の元に返してください」と涙ながらに願った。本気の演技で滂沱の涙を流しながら。

 周囲の人たちから、もらい泣きの声が聞こえて来た。


「そっ、それは……」

「私はホルダール王国の危機のために自分の意思とは関係なくこの世界に呼び出されました。お願いです、もう私を解放してください」

 エルドレッド王子がこの場で返答できないのは想定済みだ。


 その夜、私たちはコンラッドさんの館に泊まり、館の厨房を借りてヴィクターと協力して久し振りにジェラートを大量に作った。

 今は食後にジェラートを食べながら歓談中だ。

「最初は大きく出て相手の譲歩を引き出すのは交渉の基本だよ」

「さすがですねぇ、コンラッドさん。ただのいい人じゃないとは思ってましたよ」

「ハル、それは誉めているんだろうな?」 

「もちろんですよ」

 本当を言えば私は召喚師を使い潰してまで元の世界に戻ろうとは、もう思っていない。デコルテ部分から下、全身に繊細な植物の模様が刻まれてしまった今は、日本に戻ったところで普通に事務員をして暮らせるとも思えないし。

 なので私の要求は「国が関与しないでくれること」これだけだ。自由にさせて欲しい。ほっといて欲しい。そのくらいは要求してもバチは当たらないはずだ。

 


 コンラッドさんの作戦は成功して、私たちは今のところ国家から関与されることなく好きに生きられることになった。たくさんのお金を褒美として渡されたので、それは遠慮なく頂いた。

 とは言え、私たちはホルダール王国では有名になりすぎてしまった。おかゆは売り始める前から大行列で開店するとすぐ完売、ジェラートも同様。私やヴィクターが市場を散策しようとすると、モーゼの十戒のごとく人々が左右に分かれて深く深くお辞儀をされる始末。

「どうする? これって、もう、普通の生活とは言えないよね?」 

「そのうち落ち着いて……こないような気がするな。俺たちの子供が生まれても、こんな環境で育てたくはないよ」

「う、うん。そうだね」

 サラッとドキドキすることを言うのはやめてほしい。

 そこで私たちは王都でコンラッドさんから手渡された贈り物を使うことにした。


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