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ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです【書籍発売中・コミカライズ】  作者: 守雨


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一緒に悩む権利

「もしかしたら、金の雲は、ああして大地に魔力を戻しているんじゃないでしょうか」


 私の意見に皆が「はい?」と言う顔になった。


「私のいた世界には魔法も魔力も無いのですが、この国の至る所に大地から魔力が湧き出しています。あの魔力の集合体の雲は、人間が作り出した魔法の竜巻で魔力を集めさせられたものだから、今は元に戻りたいのではないかしら」


「ハルの仮定が正しいとして、あんな戻り方をされたらたまったものではないな。大都市にアレが向かうのであれば、場所を特定して民たちを避難させなくては」


 王子様の意見は冷静で至極真っ当で、ぼんやりした考えを述べた自分が恥ずかしくなった。


 ポーリーンさんは一日刻みで先見を繰り返して次の被害地を特定する作業に入っていた。植林場に魔力が落ちるまでは夜はシリルさんの家に帰っていたけど、今はもう一日中軍と行動を共にしていた。そう言ってる私とヴィクターも、同じだ。


「ヴィクター、ハル、どうか私たちと行動を共にして欲しい。今はアレを理解している人間が一人でも多く必要なんだ。身勝手なのは百も承知だ。頼む」


 王子様は必死だ。私とヴィクターはもちろん協力するつもりでいた。


 王宮に一連の状況が知らされて、兵士が増員された。住民の避難誘導のためにおよそ一千人ほどが送られてきた。彼らは皆、現地に着くと回転しながらゆっくり動く金色の雲に驚く。いつそこから膨大な魔力が落ちてくるかもわからない、と聞かされて緊張の色を隠せない。


 私とヴィクターとシリルさんは兵士たちから離れた場所でボソボソと会話している。


「竜巻が消えたんだから、金色の雲は大きくなることはないと思うの」


「魔力があんなに空に集まっている状態は不自然だから、俺はいずれ消えていくと思うんだが」


「ただ、あんな大穴を作りながら消えて行くのでは被害が大きすぎる。それにポーリーンが過労で倒れないかも心配だ」


 最近のシリルさんはポーリーンさん大好き!を隠さない。いっそ清々しい。


「ねえヴィクター、雲から魔力が落ちる所を見たわよね?あの光は雲の端から落ちたわ」


「そうだけど、それが?」


「雲のどこから魔力が落ちるかわかれば私が受け止めて大地に戻せると思うの。私が受け止めればあんな被害は出ないんじゃないかな」


「はあ?何を言ってるんだ。アイスランスを二、三本受けるのとは規模が違う。あんな大穴を開けるだけの魔力を受け止めれば、死んでしまうに決まってるだろうが!」


「そうだよハル。せっかくポーリーンが細かく先見をしているんだ。建物が犠牲になるなら人を避難させればいいだけの話だよ。ハルがわざわざ犠牲になる必要なんかない」


「うん……そうだよね」


 だったらなぜ私は召喚された?

 ポーリーンさんは大惨事を防ぐ人が必要だと先見した。

 ヴィクターは召喚術で私を選んで召喚した。


 私が何もしなくていいなら、今私はなぜここにいる?私の中で、ひとつの答えが居座っている。ずーっとその答えがチクチクと私をつつく。


(誰がどう頑張っても、きっと私の役目が来る。私はきっとそれから逃げられないし、逃げちゃいけないんじゃないかしら)


 この国に来たばかりの時はわからなかったけれど、ヴィクターやポーリーンさんと長いこと一緒に暮らしてきてわかったことがたくさんある。


 王宮で働くほどの腕前のポーリーンさんも、天才と言われたヴィクターも、おそらく間違えていない。彼らが私を呼んだのなら、必ず私が頑張らなきゃならないのだ。それはきっと私を逃さない。


 私に向けられた魔法攻撃の力は大地に戻されている。ヴィクターのアイスランスを消した時に私の足元が光ったあの夜のことを思い出す。きっと私は避雷針なんだ。人が無理やり集めさせた魔力を大地に戻す避雷針なんだと思う。


「ねえ、ヴィクター」

「なんだ」

「王城の魔法使いたちのつむじ風をひとつにまとめて大きくしたって、王子様が言ってなかった?」

「言ってたが」

「て言うことはよ?あの大きな雲のどこから魔力が落ちてきても、それ用の魔法陣を使えば決まった場所に落とすことってできるもの?」


 しばらくヴィクターが無言で考え込んでいる。しばらく待ったけど何も言わない。


「ヴィクター。あるんでしょ?あの雲のどこから魔力が落ちても狙った場所に落とす方法が。最後の手段として準備していてほしいの」


「狙った場所に立つつもりか?」

「そうしなきゃならない時はね」

「俺の、俺の魔法陣で……」


 そこまで言ってヴィクターは足音荒く立ち去ってしまった。


「ハル、君って子は」

「え?だめでした?」

「だめじゃない。だめじゃないけど、もう少しヴィクターと話し合ってもいいんじゃないか?」


「えーと、どういうことかな」


「ハルはヴィクターに何も相談しないで全部決めているように見える。君が体を張って何かしようとすることだから、誰にも文句を言う権利はないけどね。それはなんだか『私のことを私が決めるんだからあなたたちは関係ないでしょ』って言われてるみたいで、少し寂しいな」


「えええ。そんなつもりじゃなくて、私が自分がやるべきことでウダウダ悩んでたら、みんな困るだろうと思ったのに」


「一緒にウダウダ悩むのは親しい者の権利だよ。ヴィクターはハルに突き放されたように感じたんだよ、きっと」


「親しい者の権利……」


 ああ、そうか。そうだったのか。


 弟たちが怒ったのは、施しを受けたと感じたからじゃなかったのか。一緒に悩むことさえ弟たちにさせなかったからなのか。


 私は今も昔も、誰にも何も相談しなかった。「私のことだから」って。「あなたに相談したり愚痴を言ったりする必要は無いでしょ」って。


「シリルさん、ありがとう。ヴィクターと話し合ってくる」

「うん。そうしておいで」



♦︎


 ポーリーンが先見した大災害まであと二週間。


 

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書籍『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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コミック版
『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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