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聖女(仮)

 私たちは広場に来て以降、ずっと王子様と副司令官のダグラス様と話し合っていた。


 私が魔力を見ることができること。

 魔力を奪うつむじ風も見えること。

 魔法攻撃を無効にできること。

 魔物を従えていること


 言うべきか言わざるべきか悩んだ末にクロのことも話した。殿下もダグラス様もスッと姿を現したクロに仰天していたけれど、クロの存在を受け入れてくれた。


「話はわかった。ハルは魔力は無くとも、そのように秘められた力を持っていたのだな。我々はそれをしっかり見極めずに手放した。実に愚かなことだ」


 殿下はそうおっしゃったあと、顎に指先を当てて言葉を続けられた。


「しかし、魔法攻撃を無にできるとは、にわかには信じがたい。一度外で見せてはもらえないだろうか」


「はい。お見せいたします。今の私は、ヴィクターとポーリーンさんのためにも、私に優しくしてくれた王国の皆さんのためにも、何かしらのお役に立ちたいと思っております。私の力をご確認ください」


 私たちは広場に出て、「なんだなんだ」とこちらを見ている三百人の兵士たちの前で私の力を披露することになった。


 私の覚悟は既にできている。ヴィクターとポーリーンさんは自分の務めを間違えるはずがない、私が召喚されたのは正しかったのだと自分に言い聞かせていた。そうしないとこれから自分が向き合うであろう大災害への恐怖で動けなくなりそうだったのだ。


 まずヴィクターが私に向かってアイスランスを繰り出した。


「アイスランス!」

「……おおおっ!」


 氷の槍が私を傷つける前に消えるのを見て、一拍置いて全員がどよめいた。広場の隅で見物していた魔力のない町の人たちは悲鳴を上げたが、そのあとはポカンとしていた。


 そのあとポーリーンさんとヴィクターが同時に火の玉と氷の槍を放ったが、それも消えた。すると王子様が「私も試していいか?」とお出ましになり、ヴィクターの火の玉の何倍も大きな、色も白っぽくて温度の高そうな火の玉を私めがけて放った。


 もちろん王子様の火の玉も金の粉を撒き散らしながら消えた。すると遠巻きにして見ていた兵士の皆さんと町民の皆さんから割れんばかりの拍手が起きた。その上、拍手の後で誰からともなく「聖女様だ」「あの方は聖女様だったんだ」という声が起きた。


「え?いや、聖女ではな……」


 慌てる私の声をかき消すように町のみんなと兵士たちが「聖女様!」「聖女様!」とコールし始めて、王子様が「そろそろ静まれ」と止めるまで続いた。


 広場がやっと鎮まり、その場に居合わせた全員が私をキラッキラした目で見つめるのに耐えられなくて、私は思わず叫んでしまった。


「聞いてください!まだ私は何もお役に立てていません!なので聖女様と呼ぶのはやめてください!」


「いいや!あんなすごいお力を持っていらっしゃるんだ!聖女様に間違いありません!」

「そうだそうだ!聖女様だ!」


 いやいやいや、やめてー。マジでやめてー。こんなガサツな私が聖女様って!


「ハル。どうかここは民の喜びを受け入れてやってくれ」

「で、では!聖女カッコ仮、カッコ仮で!本当に皆様のお役に立てるまでは、これでお願いいたします!」


 みんなポカンとしていたけど、「さすがは聖女様、慎み深い!」って、あああ、誤解の重ね着だわ。



 私が頭を掻きむしりたい気持ちになっていたら馬に乗った人が広場に駆け込んできた。あれは……シリルさんだ!


「シリルさん!そんなに慌ててどうしたの?」

「ハル、来たぞ!金色に光る雲が竜巻を連れてやって来た!出先でそれが見えたから心配になって君たちに知らせに来たんだ」


 兵士たちがザワッとした。


「どこまで来た?」

 ダグラスさんがシリルさんに詰め寄った。


「シリルさん、こちらは軍の副司令官ダグラス様です」


 ポーリーンさんが紹介すると、驚いて目を白黒させていたシリルさんが背筋を伸ばしてから頭を下げた。


「これは失礼をいたしました。雲はもうじき森の上に見えるはずです」


 シリルさんの後を追うように見張り役の兵士たちが三人走り込んで来た。


「来ました!金色の雲がこちらに来ます!」


 広場にいる全員が森の上空を見上げた。最初は森と広場の境目の空が昼間なのに更に明るくなった。それからそこに『それ』が姿を現した。線香花火の火花をギュッと凝縮させたようなパチパチ光る金色の雲。それ自体がゆっくり回転していて、真ん中に台風の目みたいなものまである。そして雲からは金色の竜巻がぶら下がっていた。


 町民の中から悲鳴が上がる。兵士たちが命令を求めて王子様と副司令官を見る。


「魔力を奪われるから魔力持ちの人は離れてください!私、竜巻を消せるかどうかやってみます!」


 森に向かって歩き出す私をたくさんの人が見つめていた。竜巻はつむじ風とは全く別物のような大きさになっていた。怖いと言う気持ちにきつく蓋をして、私は歩き出した。


「ハル!」


 ヴィクターが走って来て私の腕をつかんだ。


「俺も行く」

「絶対にだめ。あなたは今、魔力切れして倒れてる場合じゃない。自分の召喚に自信があるなら離れて。自分の召喚の腕を信じて。私を呼び寄せたことが正しかったことを見届けて」


 立ち止まったヴィクターの腕を振り払い、私は歩いた。やがて私は金色の竜巻の中に飲み込まれた。

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書籍『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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