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国王と王太子

 王宮の奥まった豪華な一室で、国王と王太子が宰相と向かい合っていた。


「ベネディクトよ。この二つの報告書を時系列に沿って読むと、別々の事案のはずのこれらが、私には新魔法の出来上がった直後に今回の魔力喪失の病が生まれたひとつの事件のように見えるが?」


「陛下、それは……その」


「目に見えぬ魔法だった故に魔法使いたちは過剰な魔力を注いでしまったのではないのか?その場にいた魔法使いたちから直接報告を聞きたい。直ちに全員を集めよ」


 国王のウィルフレッド・アーガイン・ホルダールは、慌てて退出していく宰相の背中を見ながら(もしかするとこれが大災害の始まりではないか)と考えていた。


 王城内で発生した魔力切れの病は場所を変えながら連続して発生し、王都の南西にあるスローン領でぐるりとコースを変え、今はハートフィールドに入ろうとしている。地図でその痕跡を見ると一度魔力切れが発生した場所には新たな魔力切れは発生していない。伝染病なら後から後から魔力切れが起きるはずだ。それは昨夜、王太子に指摘されたことだった。


「父上、まるで魔力を吸い取る大きな何かが通って行ったように見えます」


 魔力切れが発生した時間と場所を示した地図を見ながら王太子は意見を述べた。発生数を見ると次第に被害者の数が増えて範囲も広くなっている。魔力を奪う何かが成長していることを数字が示していた。


 そして今。


「古都ハートフィールドは王都に近く、魔力持ちも多く働いております。更に言えば王都には国中の魔法使いの大半が集まっていると言っても過言ではありません。大きくなった何かが王都に戻ってきたら大変なことになります」


「たしかに。これは新魔法を生み出す際に何か不慮の事故が起きたと見る方が良いかもしれぬ。エルドレッドよ、お前が軍を率いてハートフィールド領に行き、魔力持ちたちを被害の進路から逃すように。そして経緯を見定めよ。連れて行く兵士は魔力無しを選べ。用心のため、魔力持ちはお前一人にして、軍副司令官のダグラス・エドワーズと策を練るように」


「かしこまりました。直ちに」


 国王の隣に控えていた王太子エルドレッドは軍部のある塔へと向かった。この件は一刻も早く自分が率先して動かねば、と思ったのだ。


 魔法使いの存在こそがホルダール王国の強さの鍵だ。それが次々と魔力切れを起こしていると他国に知られれば絶好の機会と見て戦争を仕掛けてくる国も出てくるだろう。


「魔力無しの兵にすがる日が来ようとは。それにしても、目に見えぬ敵をどう見つけたものか」


 強い氷魔法と火魔法の使い手であるエルドレッドは無念だった。




「王太子殿下、このような場所に御自らお出ましくださるとは。どうなさいましたか」


 軍副司令官ダグラス・エドワーズは椅子から立ち上がり、案内無しに部屋に入ってきた王太子に目を丸くしていた。


「緊急に兵士を連れてハートフィールドに向かいたい。連れて行く兵士は全員魔力無しの者、数は……そうだな、三百人は必要だ」


「目的は?」


「魔力切れの被害から魔力持ちを避難させる」


「避難、ですか。地下室に入れば平気と言う噂ですが」


「いや、室内および地下室にいても魔力切れした報告がスローン領から多数上がっている。ハートフィールド領での避難が完了したら今後の進路を見極めて、王都が危なければ王都の魔法使いも避難させる。彼らが何日も倒れれば王都の機能も軍の機能も麻痺するからな」


「進路、とおっしゃいましたが、あれは病気ではないとのご判断でしょうか」


 エルドレッドはダグラスの目を真っ直ぐに見てうなずいた。


「そうだ。あれは新魔法の暴走の可能性がある。魔力を吸い出す魔法の暴走ならば、魔法師隊は連れていけぬ」


「……かしこまりました。では可及的速やかに兵士を選抜します」


「頼んだ」


 



 こうして魔力無しの兵士が三百人集められ、ハートフィールド領を目指して南下した。隣のサムナー領にはハルたちのいるディールズの町があったが、王と王太子はそれを知らない。


 領界に人家は少なく、関所のような簡単な施設があるだけで、あとはほとんど深い山である。


 兵士たちは距離を置いて配置され、それぞれの手にネズミや小鳥の入った籠を持っている。


「よいか、動物が騒ぎ出したらすぐに笛を鳴らせ。一番端にいる者は狼煙のろしを上げろ。今回の任務は敵を破ることではない。敵の位置を知ることと心得よ。なんとしても王都の魔力持ちを守らねばならんのだ」


 普段は連絡用の使役鳥を使っている王子にしてみれば実にまだるっこしいが、狼煙や笛は精一杯の苦肉の策だ。


 籠を持たされた兵士たちは困惑している。動物たちが騒ぎ出したとして、姿が見えず実体も無い敵を果たして自分は見抜けるのか。森の獣が来て小鳥やネズミが騒ぐのと違いがわかるのか、悩ましい。


 三百の兵士のうち百人は点々とハートフィールドの森の中配置され、残り二百は領界を起点としてサムナー領に点々と配備された。


 その状態から待つこと二日。ハートフィールド領内の一番端の兵士から狼煙が上がった。籠の小鳥が騒いだのではない。それより早く、森の中の野鳥と獣が一斉に兵士の方に向かって押し寄せて来たのである。


「うわわっ!なんだこれは!」


 ウサギ、狐、タヌキ、鹿、熊、その他数え切れない数の動物たちが何かに追われて走って来た。空は大小様々な鳥たちで覆われて薄暗くなるほどだった。


「魔力無しの者に害はない」と聞いてはいたが、兵士の膝が震え、緊張で寒気がした。


 彼の目には見えていないが、金色の竜巻はすぐ近くまで迫っていた。



♦︎


 ポーリーンの先見による大災害の発生まであと三ヶ月。

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